「貴殿がハル・カルマンか……聞いていた通り確かに見事な白銀の髪だ」
領主直々の呼び出しに何事かと不審に思いながら赴いたのだが……そんな程度の事を確認する為だけに国家騎士である俺を呼び出したのか?
「まさに昔話に出てくる異郷より来たりし
「?」
伯爵が口にした異郷の白銀騎士なるものを俺は知らない。
何やら物語に登場する人物と俺を重ねているようだった。
「両親がもともと西方の国の出身なのです」
そんな
「行商人だった両親がこの国に到着してすぐに母が俺を身籠ったそうです。それがきっかけで、二人はこの国に定住したのだと聞かされています」
銀の髪に白皙の
「そうか」
だが、伯爵は俺の話を聞いても特に興味を示した様子もない。その素っ気ない態度に、自分で話をふっておいてと憤りを感じたが、そこはぐっと堪えた。
「済まないが一つ頼まれてはくれないか?」
「頼み、ですか?」
「うむ、ファマス近郊の森に住む魔女から薬を手に入れてきて欲しいのだ」
「は?」
そして、話題を切り替え小間使いの仕事とも取れる様な内容の依頼をしてきたのだ。
当初はエリーナ様絡みで呼び出されたのではないかとうんざりしていたのだが、予想が外れ安堵したと同時に肩透かしを食らった気分でもある。
「娘のエリーナが
「魔狗毒に!?」
「ああ、それで解毒薬を持っているらしい森の魔女の所へ行って欲しいのだ」
魔狗……つまり、ヴェロムから傷を負わされたということだ。
昨日の魔獣討伐に随伴してきたあの時か。
騎士団が撃ち漏らしたヴェロムを彼女の護衛が撃退したにもかかわらずエリーナ様の一団が慌てて去った。それは魔獣に襲われて恐くなって逃げだしたのだろうと軽く考えていたのだが――
「ああ、昨日の魔獣討伐の際に騎士団が討ち漏らしたヴェロムにエリーナが襲われ手傷を負ってしまったのだ」
――やはり、あの時にヴェロムから傷を負わされたらしい。
しかし、今の伯爵の言い方には棘を感じる。
「エリーナ様が不幸にも魔獣に襲われた事には遺憾に思いますが、団長から再三の退避勧告を受けていながら無視されたのはそちら側の落ち度――」
我々は国家騎士であり、国の直轄である。
けっして目の前の一領主の部下ではない。
「――こちらの善意の魔獣討伐に口を挟むのは如何なものか?」
着任して日が浅いとは言え、俺もこの地の騎士団の副団長だ。幾ら領主とはいえ、明らかな越権行為に対しては毅然な態度を示さなければ今後の職務に支障が出ないとも限らない。
だいたい魔獣対策もおざなりにしている領主なのだ。
ここは少し強気で釘を刺しておいた方が良いだろう。
団長とも話し合い、昨日の事での苦情があればそう対応するよう指示も受けている。
「あ、いや、別に貴殿達を責めているわけではないのだ」
果たして状況が自分に悪いと感じたのか、伯爵は慌てて自分の言を訂正した。
「ただ、魔女への使いなら貴殿が適任かと思ってな」
「……」
何がどう適任なのかさっぱり分からなかったが、魔獣に襲われ心も体も傷ついた者の為と思えば騎士としての矜持が疼く。
「どうだろうか?」
どうしたものかと沈思していると、伯爵が少し不安げに返答を促してきた。
「この依頼を受けてもらえると助かるのだが」
俺にこの依頼を受ける義務も謂れもない。
我々にはエリーナ様の負傷の責任もない。
そう、ないのだ……
だが、目前で魔獣に襲われたか弱い令嬢を守れなかったのは事実。それに対し騎士として負い目を感じたし、任地の領主の
自分に白羽の矢が立った理由には何か不自然なものを感じるが、俺は依頼を引き受ける事にしたのだった。