「ハルはモテて良いよなぁ」

　俺は訓練用の刃抜きの剣を打ち込む。それを同じく訓練用の剣で受けた同僚が軽口を叩いてきた。

　いつもの揶揄やゆに舌打ちが出そうになる。

　苛立ちがつい出てしまったのだろう。俺は彼の剣を容易たやすくいなすと、体勢の崩れた同僚の足を乱暴に引っ掛けて転倒させた。

　彼の喉元へ剣の切っ先を突き付ければ、同僚はまいった、まいったと両手を挙げて降参した。

「ホント、ホント」

「まったく羨ましい限りだぜ」

「ああ、肖あやかりたいもんだ」

　だが、周囲の同僚たちも混ぜ返す様に賛意を示し始める。そんなに良いものではないのだが、と俺は内心で愚痴を溢こぼした。

「ぼやくな、ぼやくな」

　訓練中の戯言ざれごとを口にする騎士達を咎とがめるでもなく、団長が話に割って入ってきた。

「ハルは我が国でも有数の剣の使い手として有名だからな」

　悔しかったらお前らも強くなれと団長は発破を掛けた。おそらく訓練に身を入れさせようとしたのだろう。

「強い奴は他にもいますがモテた話は聞いた事ありません！」

　だが、すかさず反論が出た。どうやら団長の思惑は当てが外れたようだな。

「やっぱり顔じゃないのか？」

「確かにハルは珍しい銀髪に、甘いマスク、男の俺でも見惚れてしまいそうな美形だからな」

　陽光にきらりと光る銀糸の髪、凪いだ湖面よりも深い青色の瞳、抜けるような白皙の顔――自分で言うのもなんだが俺の容姿はかなり人目を惹く。

　女と見紛う程だと言われた事もあった。

　まあ、騎士として鍛えた身体はかなりがっちりしているので、実際に女性と間違われたりはしないと思うが。

　そんな俺は同僚達の言う様に女性にかなりもてる。これは自惚れではなく、子供の時分よりやたらと異性に付き纏われた。

　不味い事に、それは騎士になってから更に悪化している。

　声を掛ければその女性から付き纏われ、手を差し伸べれば告白や贈り物をされたりする。それが日常茶飯事なのだ。

　酷い時には配偶者のいる婦人に迫られた事もあった。それで婦人の夫から苦情がきたのだから堪ったもんじゃない。

　事の真相は任務の聞き込みの為に声をかけただけなのに、婦人が勝手にのぼせ上がったのだ。それなのに俺が誑かしたのだと凄い剣幕だったな。

　同僚達からは羨ましがられるが、俺は寧ろ迷惑しているのだ。

　だから、俺が女性不信になり異性と距離を取ろうと思うのは当然の帰結ではないだろうか。

　この際はっきり言おう。

　俺は女を忌避している。

　女はやたら鬱陶うっとうしい……

　見ず知らずの者から付き纏われたり、何処へ行っても異性の視線を浴びる。

　まるで四六時中、監視をされている気分だ。

　これでは任務中でもプライベートでも気が抜けない。

　まったく気の休まる時間がないのである。

　正直、ほっといて欲しいと思うのはいけないのであろうか？

　女はとても煩わずらわしい……

　俺が他の騎士達と訓練で剣を交えていると黄色い声を上げてうるさいし、他の騎士達からもいい顔をされない。

　なんなら、やっかみも受ける。

　実際、今の状況がそうである。

　任務でも訓練でも女達には何かと邪魔をされる。

　どこに利益があるのだ？

　圧倒的に被害だけだろ？

　本当に同僚達はこれが良いと思っているのか？

　女はかなり面倒臭い……

　俺は騎士だから、本分として民の為に働くのは当然だ。

　しかし、その対象が妙齢の女性の時は本当に面倒臭い。

　救助、聞き込み、時にはほんの手を差し伸べただけ。それで、どうやって勘違いするのか、自分に俺が好意を持っているのだと触れ込む者達が少なくない。

　ただ仕事をしているだけなのに、デートを申し込まれたり、告白されたりと面倒なのだ。

　だいたい、同僚達から羨ましがられる異性からの贈り物だって、よく知りもしない相手からなど気持ちが悪いだけだろう。

　全く、女など厄介この上ない存在でしかない。