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第六幕 夜の終わり

「穴が塞がり始めている! この場から離れるんだ! 早く!」

 満春を抱えて地上に姿を現したサネミが、地上に残っている深雪と蓮夜に向かってそう叫んだ。そのまま二人を押すようにして穴から距離を取らせる。

 すると間もなくしてひどい地震が起き、地鳴りと共に校庭にぱっくり口を開いていた穴が塞がり始める。

「ロクロウ‼」

 思わず駆け出しそうになる蓮夜を、サネミが開いている手で掴む。

「駄目だ、蓮夜!」

「でも……ロクロウが……!」

「彼の気持ちを無下にしないで下さい……!」

「…………っ」

 両の目が溶けるように涙が溢れ出した。

 地獄の穴が塞がっていく。あの下にロクロウがいて、彼は夏越家の宿命を肩代わりして今まさに閻魔の目を連れて地獄へと消えていく。

「ロクロウ……僕は……」

 大粒の涙を流して嗚咽する蓮夜の肩にアケビがそっと乗る。アケビは蓮夜の涙をなめると、落ち着いた声で言った。

『泣くな。奴はきっと、還るべきところへ還る』

「…………ロクロウ……」

 激しい揺れと共に地割れが消え、やがて校庭に開いていた穴はすっかり姿を消した。あれほどに溢れかえっていた瘴気も炎も何もかも、まるで最初からそこに何もなかったかのように消えてしまった。

 元通りになった校庭に、深夜の凛とした空気と共に静寂が訪れる。

「七獄の年は……終わりましたな」

 サネミがどこか切なそうにそう言ったのが聞こえた。

 蓮夜は立っていられなくてその場にずるずると座り込む。

 自らの両目からあふれた涙で膝が濡れる。

「…………っ」

 ふいに、ちくと胸に痛みが走った。

 おもむろにシャツを掴んで捲りあげてみれば、胸に刻まれていたはずの契約の印が跡形もなく消えてしまっていた。

 ああ、ロクロウが消えてしまった。

 その現実を突きつけられた気がして、蓮夜はその場にうずくまる。

 泣いたってどうにもならない。

 でも、悪霊だったはずの彼は……最期、夏越蓮夜という人間の人生を救って消えた。

 その事実だけが心臓をどくどくと脈打たせる。


 ――長生きしろよ。


 最後に彼が言った言葉が、耳で何度も反響した。

「ロクロウ…………ごめん……」

 サネミ達にさえも聞こえないくらいの小さな声で、蓮夜はそうつぶやいた。


 遠くの空が白み始める。

 深雪が「朝だわ」と言ったのが聞こえた。




 ……夜は、終わりを告げた。


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