夕飯の後片付けを済ませた後、エプロンを綺麗にたたんでから入浴するのが彼女のマイルールだ。
今日は姉がライブの関係で遅くなるとのことだったので、台所の電気を消してから浴室に向かう。途中、離れの祖父の部屋を見るが、電気が消えているので既に眠っているのだろうとぼんやり考える。御年八十九歳になる、無理もない。
洋服を脱いで籠に入れ、足元に気を付けながら浴室に入る。湯船に入る前にかけ湯をしようと思い、しゃがんで桶に手をかけたとき、ふと正面の鏡に何か見覚えのないものが見えた。
「……え?」
それが自分の背中にあった気がして、恐る恐る鏡に背を向けてみる。
……そこには、まるで刺青のような大きな痣が浮かび上がっていた。
「…………なに、これ」
背中をぶつけた記憶なんかない。それどころか、そもそもその痣はどうみても痣ではない。
中央に大きな目のような模様があり、その目を囲むようにして炎のような模様が六つ円を描いている。どう考えても普通にぶつけて出来る代物ではない。
「やだ……」
思わず肩を抱くようにしてその場にしゃがみ込む。自分が知らないうちに誰かが悪戯したのだろうか。いや、そんなタイミングなんかない。そもそもこんな大がかりな悪戯はさすがに気が付くはずだ。
じゃあこれは、なんなのか。
頭の片隅で自身に問いかけた瞬間、背中の痣がまるで返事をするかのようにズクリと痛んだ。
「……痛っ」
体が冷たくなるのと同時に、酷く咳が出て息が苦しくなる。
何が起きたのか全くわからない。
ただ、この背中のものが何か良くないものであるということだけは肌身で感じる。
「どうしよう……お姉ちゃん」
その場にいない姉を呼ぶ。
ただただ、涙が出た。