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よく当たる占い師1
ジュリナ
現実世界仕事・職場
2024年10月14日
公開日
3,282文字
連載中
SNSで話題のよく当たる占い師。
不運続きで人生を変えたいと思った初川美紅(ハツカワミク)は、占い料30分10万というその占い師の元へ、その手に大金を握りしめて尋ねていった。
「この先の私の人生はどうなりますか?」

よく当たる占い師

思えば、私は昔から運が悪かった。


最初に自覚したのは幼稚園の頃、すごくかっこよくて大好きだった先生が、すごく年上の女性に痴漢したと電車内で言われて掴まって、いきなり解雇された。

その日、幼稚園の庭に咲いていた花でやった、先生と結婚できるか出来ないかの花占いは「出来ない」だった。



次は小学校。

私が日直をする日に限って、なぜか先生たちが黒板にびっしり文字を書いた。

おかげで10分しかない休憩時間は、私は常に黒板消しとお友達だった。

さすがに放課後に校長先生が来て、下手な絵を黒板いっぱいに自慢げに書いた時は、親に言って教育委員会に訴えてやろうかと思うくらい腹が立った。

日直のある時は、牡羊座は最下位とか悪い順位だったから、きっとそういう目に遭ったんだと思う。



中学時代と高校時代はもっと最悪で・・・

男子生徒から告白されるたびに、その子のことが好きな女子生徒とその友人たちに体育館の裏に呼び出された。

今考えると、あの人たち、なんで呼び出すのは決まって体育館の裏だったんだろう。

体育館の裏なんて、横は普通に公道だし、金網だから全部丸見えなのに。

体育館裏では「あんたが可愛いのが悪い」と言われて一人に泣かれて、それを周囲が「可哀想だから謝りなさいよ」と言われるまでがセオリー。

勘弁してよ。

だいたい、私に告白してくる男子生徒も貴女たちも、今まで一度も喋ったこともないし、知り合いですらないじゃない。

『初川さんはツインテールで背が小さいし歌が上手だから、○○ちゃんに似てると思って。名前もよく似てるし!』

いつもそう告白されたけど、ごめんなさいね。

私は緑色の髪でも、緑色の瞳でもない。

普通の平たい顔族のモンゴロイド。

なにより2次元じゃなくて3次元で生きてるのよ。

ああ、そういえば、こういう時もたいがい、当時読んでいた雑誌の占いの結果が最悪な月だったっけ。



大学時代は、今思えば、恵まれていた。

当時はまってた占いの先生に、コスプレとかしてみたら?人生が変わるわよ!と3年生の時に言われて、それまでやってたラクロスを辞めて、さっそくオタサーに入った。

写真撮影会とか、常に人が周囲にいっぱいいて、ちやほやされて楽しかった。

ただその当時の、ちょっときわどいコスプレ写真のおかげで、お堅い会社は全滅だった。

本当は、もっと大企業の受付とか秘書とかになる運命だったのになぁ・・・

それで、御曹司に見初められて結婚する運命だって、先生に言われてたのに。

やっぱり私は運が悪い。



で、今、私・初川美紅は35歳。

つまらない仕事とつまらない男たちがたくさんいる会社で、派遣社員の私は手取り15万で毎日頑張っている。

「ねぇねぇ初川ちゃん。昨日のテレビ観た?!」

興奮したように話しかけてきたのは、正社員の鈴木さん。

45歳になるのに、いつも化粧が濃くて、男性社員に色目を使う可哀そうな独身のおばさん。

ずっと私を無視してたのに、最近になって、ある日突然仲良く話しかけてきてビックリした。

「あ~昨日はYouTube観てて・・・」

いや、そもそも絶対見ないテレビ局の受信料を払わなきいけない時点でうざいからテレビなんて持ってないし、全部ネットで十分だし。

そんな本音は言えないから、とりあえず、この人でも知ってそうな超有名YouTuberの名前を挙げておく。

実際観てるのは占いチャンネル。

こんな安月給じゃ、占い師さんの所には行けなくなっちゃったから、最近はネットばっかり。

基本三択でも、意外にちゃんと当たるから、やっぱり占いってすごいけど。

ちなみに今日のラッキーカラーはピンク。

今日出会う人は『特別な人』らしいから、私は気合を入れて、明るいピンクのトップスを着て、華やかなピンクメイクをしている。

もう5年も彼氏いないし、次の人とは本当に結婚したいから、占いで言われたようなイケメンでお金持ちな運命の人と出会えるように、ファッションとかメイクとか、ラッキーカラーに合わせて毎日頑張っているんだけど、運が悪いからか、なかなかいい男に巡り合えない。

「え~、YouTubeばっかり観てるとバカになっちゃうよ!テレビ観なって!」

テレビもYouTubeも、そう変わらない気がするけど・・・

この世代の人って、なんでネット嫌いが多いんだろ。

「でね!占い師のエリカ先生が超すごいの!あの人に占ってもらうと人生が変わるって言われてて、実際に芸能人の○○さんは結婚したし、お笑い芸人の○○さんはなんとロトで1等が当たったし!」

お昼ご飯を食べながら、お局の言葉をBGM代わりに適当に聞き流していた私は、その占い師の話に食いついた。

「その話、詳しく教えてください!私、占い大好きなんです!」

ほら、今日も占いはよく当たっている。



日曜日。

なけなしの貯金10万円を握りしめて、私は、そのエリカ先生に会いに来た。

30分10万円という高額なせいか、よく当たる占い師にも関わらず、意外にもエリカ先生の予約はあっさり取れた。

ドキドキしながら順番を待ち、実際に先生に対面したときは心臓が飛び出るかと思うくらい緊張した。

だって、今日で私の運命が大きく変わるんだもの。

「こんにちは」とにこやかな笑顔で挨拶をしたエリカ先生に勧められるまま、私は座り、カルテを書き出した。

基本的な情報や悩み事、何を占って欲しいか。

5分ほど真剣に書いて、それをエリカ先生に渡す。

「・・・そう、分かったわ。貴女の事は全部。」

おもむろにそう切り出したエリカ先生は、水晶玉に手をかざした。

私は、どんなすごいことを言われるのかと、エリカ先生の言葉を固唾を呑んで見守る。

「あなたの前世は・・・犬ね。」

「は?」

「その前は、鳥。でも生まれてすぐに食べられて死んじゃってるの。」

「はぁ?!」

「あなたは今回、人間1回目なのよ。おめでとう。」

「あの、先生・・・私は過去とか前世なんてどうでも良くて、これから先の未来がどうなるか知りたいんですけど・・・」

「そうね。でも、貴女は過去にたくさん傷ついているから。まずはインナーチャイルドを癒して、自分を認めてあげないと。」

私、小さい頃から一人っ子で、激甘の両親と祖父母がいて、学生時代は夜道を歩くたびにスカウトされた可愛い容姿もあるから、自己肯定感バリバリですが、何か?

「過去生のカルマも解消しないと・・・」

「カルマ?!」

前世は犬と鳥で、人間1回目なのに?!

「あの・・・具体的にはどういう・・・」

「あら、もうこんな時間。最後に、あなたの運が良くなる魔法を授けるわ。」

そう言って、先生は目を閉じて、10分以上黙り込む。

「あ、あの・・・?」

「宇宙からご神託が下りていたわ。毎日その日あった良いことを三つ日記に書いて。あと寝る前にありがとうって毎日100回唱えて。それだけで、あなたのカルマは解消されて、これからの人生がばら色になるわ。大丈夫、お金も入ってくるし、もう結婚適齢期は過ぎてるけど、これから恋愛も結婚も上手くいくから。」

「・・・」

「今回はこれで終わりだけど、追加フォローをするなら、次回からは・・・」

「いいえ、結構です!」

私は、延長料金が発生しないよう10万円だけを机に置いて、さっさと店を出て来た。

店の外に出ると、入る前と何も変わらない光景が目の前に広がっている。

ふと、私の姿がショーウィンドウに映った。

占いで書いてあったフリフリの可愛い服を着た、お局と同じようにメイクの濃い、若作りのおばさんがそこには立っている。

「ふっ・・・ふふふ・・・ふふっ、あはははは!」

急に大声で笑い始めた私に、道行く人々が訝し気な視線を向ける。

でも、もうどうでも良かった。

「あ~もう・・・バカみたい。」

携帯を取り出し、この後行こうと思っていた大して食べたくなかった、インスタ映えするフレンチトーストが売りのおしゃれなカフェのブックマークを即行削除する。

運命の恋人に逢えるかもしれない本日のラッキープレイスとラッキーメニュー。

本当に、バカバカしい。

一体私は今までどれだけ、占いなんてものを信じ込んで、何も考えない人任せな人生を歩んできたのだろうか。

「とりあえず・・・まずは着替えてメイクを落として断捨離しますか!」

晴れやかな気分になった私は、その足でまっすぐ家に帰った。

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