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第41話 明かされゆく歴史の真実

 エレン達の視界に映されたもの。

 それは時空を歪ませるほど強力な魔法で造られた“ゲート”であった。


「これは……!」


 扉の先には部屋や空間ではなく、明らかに異質な何かが目の前に存在していた。


「これは“異空間”へと続くゲート。この先にはまだ人類が辿り着いていない領域が存在するの」

「人類が辿り着いていない領域?」

「ええ。兎も角、そこへ行けば全てが分かる筈よ。この異空間の中で迷子になったら終わり。全員ロープで体を縛って、絶対に妾から離れないようにしなさい」


 急に物騒な事を言い出したローゼン総帥。

 怖くなったエレンは「行くの嫌です」と思わず言い掛けたが、流石にここまでやって来てその理由は通じる筈がない。


 エレン達はローゼン総帥が魔法で出したロープでそれぞれ体を縛り、全員がはぐれないよう固定した。


「そんなに気負わなくて大丈夫よ。別に魔物が襲ってくる訳でもないわ。ただはぐれないように妾について来ればすぐよ」

「分かりました。絶対に離れません!」


 ロープだけではとても信用出来なかったエレンはグッとローゼン総帥の服を後ろから掴む。


 そして一行は異空間へと続くゲートに足を踏み入れた。


**


~イェルメス・異空間内~


「グニャグニャ気持ち悪い景色っていう以外は普通だな」

「そうですね。魔物の気配も確かにしません」

「よくそんなに普通でいられるな……」


 異空間を歩く事数分。


 ここが“異空間である”という事を除けば、一行は本当にただ歩いているだけであった。


「このまま行けばもう着くわよ」

「なあローゼンや……」


 皆で歩いていると、徐にエドが口を開いた。


「あのラグナという青年が使っていた練成術。あれもエルフ族の魔法でもあると言いっておったな?」

「そうよ。長年の研究で練成術はエルフ族の魔法の1つだと発表されているわ。それがどうかしたのかしら」


 話すエドの表情は神妙な面持ち。

 対するローゼン総帥も一瞬何かを言いたそうな雰囲気であった。


「昔に全ての種族が平和に共存していたとするなら、何故エルフ族は“魔物を操れる”ような練成術など扱っていたのか」

「その答えは貴方も薄々感づいているでしょ。エドワード」


 意味深な2人の会話。

 隣で聞いていたエレンが嫌な違和感を覚えた瞬間、アッシュがそれを口に出した。


「平和に共存なんてしてなかった――って事だろ」


 静かな異空間にアッシュの声が響く。


「真実はまだ分からない。けれど、知性や言語能力のある人間やエルフ族、竜族ならまだしも、本能で生きている言葉の理解出来ない魔物達と何の争いもなく共存するのは難しいんじゃないかしら。

それこそ魔物の特性を理解した上で、人間とエルフ族と竜族が上手く魔物を避けていたと言う方がしっくりくるわね」


 言葉が出される度に、エレンが思い描いていた全ての種族が平和に共存していたという理想の世界像が少しづつ砕けていく。そんなもどかしさを感じた。


「じゃあ歴史は全部嘘って事?」

「全部が嘘という訳では決してないわ。ただ少なからずズレはあるでしょうね。エルフ族や竜族の歴史情報が少ない上に、現代まで続く言い伝えだって昔を遡れば生き残った人間達によるもの。だからどこまでが真実で、どこまでが嘘なのかもはっきり分からないのよ。


ただ、妾なりに今まで調べてみて分かったのは、現実はお伽話のように美しくはないという事かしらね」


 ローゼン総帥は淡々と語るが、その言葉には説得力がある。


「外に大きな建物が幾つもあったわよね? これは最近の考古学者や専門家の研究で分かってきた事らしいけど、どうやらあの建物は魔物を飼っていた家畜小屋ではないかと言われているわ」

「魔物の家畜小屋……!?」


 思わずエレンから驚きの声が零れる。


「ええ。建物の中は人間やエルフ族達が生活していたとは考えにくい造りでね、どの階も四方3~10mの四角い部屋が設けられているのよ。まるで家畜小屋や牢屋のようにね」

「成程。目的は知らねぇが、要はそこで魔物を飼い慣らしてした訳か」


 エレンとは違い、特に驚く様子もないアッシュとエド。

 しかし、次のローゼン総帥の言葉はそんな2人の表情に反応を示させた。


「そう考えるのが自然ね。それに、飼い慣らされていたのは“魔物だけとは限らない”わよ」

「「……!」」

「おいおい、まさか……」


 アッシュのその言葉の続きを代弁するかの如く、最後はローゼン総帥が言い放った。


「ええ。エルフ族のあの建物から、魔物以外にも人間と竜族がいたとされる痕跡が少し前に見つかったの。

つまり、あそこは魔物と人間と竜族が入れられていた“奴隷小屋”……とでも言うべき場所だったのではないかと関係者界隈で言われているわ」


 奴隷――。


 平和とは対照的なその言葉に、エレンは物凄い虚無感を感じた。


「昔、お前は今と同じような事を言っておったなローゼン」

「そうね。あの頃は解明されていなかった事が徐々に明らかになってきている。その善悪は別としてもね」

「共存どころか完全なる支配。練成術もエルフ族がただ魔物を都合よく操る為のものだと考えれば、練成術という存在の辻褄も合うの」


 歴史はエレン達が思うよりも遥かに残酷なのかもしれない。


 だが、それでもエレン達はここで立ち止まる訳にもいかない。


 その全てを知る為に、前へと進んでいるのだから。


「着いたわ」


 異空間を歩き続ける事数十分。

 遂に一行は目的地に辿り着いた。


「また扉」


 そう。

 今エレン達の目の前には1つの扉がある。


「これが人類が未だかつて誰1人として足を踏み入れる事が出来ていない領域――『終焉の扉』よ」

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