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第40話 イェルメスの全貌

~古代都市イェルメス・中心部~


「ここよ――」


 イェルメスの中心部に辿り着き、ローゼン総帥が足を止めた。入り口の賑わいが嘘かのように静寂に包まれるイェルメス。周囲は石のような特殊な素材で造られた複数の建物が存在しているが、どれも一部が崩れていたり、半壊しているものが殆どである。


 ここにエルフ族や竜族が住んでいた。

 エレンは不意にそう感じ取った。


「それにしても高いなぁ」


 そう言葉を零しながら、エレン達は上を見上げる。


 建物は今にも崩れそうながら、優に40~50mはあるであろう近未来な建造物が何棟も建てられており、それを見るエレン達の心音はいつの間にか早まっていた。


 貴族の屋敷や王都の城よりも遥かに高い。


「どうやって造ったんだろうコレ」


 見た事のない建造物に目を奪われながら再び奥へと歩み始めたエレン達。


 ローゼン総帥が慣れた様子で進み続けると、やがて前方に大きな扉が見えてきた。


「一般の者が進めるのはここまでよ」


 ローゼン総帥が巨大な扉の前で足を止める。


 その大きさに圧倒されたエレン達はただ呆然と上を見る事しか出来ない。


 巨大な扉の周りには更に巨大な壁がずっと奥まで続いており、城壁のように何かを囲っている壁なのか、エレン達の目の前の壁は大き過ぎて全貌が見渡せなかった。


 ここに来るまでに何十メートルもの建物を幾つも見てきたばかりであったが、目の前のこれは更に巨大な存在。


「ここはエルフ族の特殊な結界を解かないと入れない。一応妾のような魔導師が唯一この結界を解く力があるけれど、それが出来るかどうかは完全にその者の実力次第――」


 そう言うと、ローゼン総帥は徐に手を前に出して扉に触れ、そのまま静かにそっと目を閉じた。


 すると、彼女の体から徐々に淡い光が溢れ出した。

 どうやらマナを高めているようだ。


 珍しくローゼン総帥の表情から疲労を感じる。


「相変わらず強力な結界ね……」


 額から汗を流し、それでも懸命にマナを高め続けるローゼン総帥。


 2分程この状態が続いただろうか。


 次第に体から溢れる光が強くなり、エレンと同じ年頃の外見をしていたローゼン総帥の容姿がみるみるうちに変化していった。


 10代、20代、30代――。


 若い少女の姿から、綺麗で品のある大人の女性へと変貌を遂げるローゼン総帥。


「ハハハハ、ようやく見覚えのある姿になったの。懐かしいわい」

「うるさいわね! 集中してるんだから黙ってて頂戴!」


 大人の姿を見たエドが笑いながら言い、それを面倒くさそうにあしらうローゼン総帥。


 何気ない2人のやり取りから感じる関係性は昨日今日のものではない、と感じるエレンとアッシュであった。


 それと同時に、少なくともエドと近い年齢のローゼン総帥が何故自分と同じ年頃の見た目をしていたのかずっと気になっていたエレンであったが、その理由が今紐解かれた気がした。


 恐らくローゼン総帥は魔法で容姿を変化させていたのだ。


 ――ブワァァァン。

 と、エレンがそんな事を思っていた次の瞬間、突如目の前の扉が強い光を発した。


「ふう……。何度やっても疲れるわね」


 愚痴を吐きながら、扉に翳していた手を引っ込めたローゼン総帥。気が付くと、彼女の見た目はいつもの姿に戻っていた。


 そしてそんなローゼン総帥が結界を解いた事により、巨大な扉は地響きを奏でながらゆっくりと開いていく。


 扉の先。


 そこに一面真っ白な空間が広がっていた。


「うわ……何ここ」

「“何もねぇな”」


 どこまで続いているか。近いのか遠いのか。そんな感覚すらも分からなくなる無機質な真っ白な空間。


 ここにはアッシュの言う通り何もない。


 いや。


「何もないように見えて、ここには“全て”があるのよ」


 ローゼン総帥はそう言うと、真っ白な壁に触れてマナを流し込んだ。


 ――ファァン。

 すると刹那、何もない真っ白な空間に“都市”が出現した。


「「……!?」」

「驚いた? これが古代都市イェルメスの正体よ」


 突如の目の前に現れた都市。

 そこには外で見た建造物と同じような建物が一面に建てられており、全てが当時のままと思われる原形を残していた存在していた。それも良く見ると、建物の至る所が“黄金”に輝いている。


「凄いッ、なにこれ!?」

「これがイェルメス……」

「とても綺麗な眺めですねぇ」


 初めて見た光景に、エレンとアッシュとエドは度肝を抜かれる。


「本当に同じ世界なの……?」

「あの輝いているのは、まさか本物の黄金では」

「そうよ。あれは本物の黄金。このイェルメスは黄金で造られているのよ」


 視覚から入る情報を処理し切れない。

 エレンは完全に頭がパニックだ。


「さあ、行くわよ。まだここがゴールじゃないわ」


 驚くエレン達を横目に、ローゼン総帥は再び歩き始めた。


**


「はぁ……。考えただけで溜息が出るわ」


 とある大きな教会で歩みを止めたローゼン総帥。

 屋根の上には黄金で造られた十字架が施されている。


 ローゼン総帥がこれまた黄金で造られた教会の扉を開けて中に入ると、直径10mはあろうかという円形の祭壇らしき場所に上った。


「今度は何をする気ですか?」

「エルフ族の結界はかなり強力なの。あれで終わりじゃないのよ。また待ってて頂戴」


 気怠そうに言ったローゼン総帥は、どこからともなく取り出したペンのような道具で、円形の祭壇の床に魔法陣を描き始める。


 当然エレンには理解出来ない。

 見た事もない形の文字が床一杯に描かれると、今度はローゼン総帥が静かに詠唱を唱え始めた。


 すると直後、円形の祭壇がゆっくりと地面に沈んでいき、エレン達の前に地下へと続く長い階段が出現した。


「本当に疲れるわ。さあ、行くわよ」


 長く下へと続く螺旋状の階段。


 ここは何百年も前からほぼ人の出入りがないというのに、長い螺旋状の階段には灯り代わりの松明が等間隔で設置されていた。


 これもエルフ族の魔法による力なのか、松明の火はこの場所が発見された時からずっと点いているとローゼン総帥は言う。


 エレン達はそのまま長い階段を下り切ると、そこは地下にもかかわらず多くの木々が生い茂る豊かな自然が広がり、その自然に囲まれた真ん中には王都の城よりも更に大きい宮殿らしきものが建てられていた。


「え! 地下にこんな大きな建物が……!?」

「ここはエルフ族の中でも王族が暮らしていたとされる宮殿よ」


 イェルメスに来てからというもの、エレン達は何度驚かされたか分からない。1つ1つ気になって見学でもしようものならば、とても1日では時間が足りないであろう。


「この宮殿が妾の目的地。ここからは貴方達も“気を引き締めなさい”――」


 神妙な面持ちでエレン達に告げたローゼン総帥。


 彼女はそのまま真っ直ぐ歩いて行くと、そのまま宮殿の扉を開けた。

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