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第27話 【掲示板回】逆襲殲滅戦


 フォレストベアが目の前で息絶えたことで、リコッタは我に返ったようだった。

 肩で息をしながら、見開いた目で顔を上げる。

 彼女が新しい敵をロックオンするより先に、刻哉の姿に気づく。


「リコッタ!!」


 その獣人少女へ刻哉は大きく身振りで示し、叫ぶ。


「来い!!」


 獣人少女の反応は素早かった。

 刻哉が経つ左岸の上まで、わずか二回の跳躍でたどり着く。

 飛び移ってきたときの勢いが止まらないリコッタの身体を、刻哉は受け止めた。

 地面に降ろそうとすると、ぎゅーっと強く抱き返される。直後、強い震えがリコッタの身体から伝わってきた。


 刻哉は思う。

 そうか。リコッタほどの子でも、この状況は怖かったのか。


 ……まいったな。

 刻哉は布で隠れた口元を手で撫でた。

 アダマントドラゴンのときと同じ興奮に震える自分は、やはり、相当のだろう。


 わかっていたことだった。

 そうでなければ、幼少期からこの年に至るまで、コミュ障のバグ男と呼ばれて虐げられることはなかったはずだ。

 実に稀代きのしろ刻哉らしい。


 そしてもうひとつ、新たに確かめたこともある。

 この状況、この感覚――どうしようもなく『生きている』感じがして、になる。


 少し遅れて、フィステラが刻哉たちの隣にやってきた。

 彼女の顔色がひどく悪い。周りの蝶は動きが鈍く、色もくすみ、まるで今にも儚く消滅してしまいそう。


「……申し訳、ありません」


 消え入る声だった。無力感と自責に圧殺された者の顔である。

 刻哉にとっては、見覚えのある絶望だ。

 にもかかわらず刻哉は、フィステラがどうしてこんな表情をしているのか理解できなかった。無力で無様をさらして死ぬほど落ち込む、あの顔――しかし、はて? いつフィステラさんが無力で無様を晒したのだろう。

 失敗? いつ? 絶望するほどのことがあったか?


 わからない。だから彼はいつもどおりの口調でフィステラに言った。


「散乱してるトレントの枝を拾って、俺に渡して」

「……え?」

「今は、で凌ぎきる」


 言うなり、右手に持ったトレントの枝を川に向かって

 彼の手に握られていたモンスターの枝は、刻哉のスキルによって黄金色の輝きをまとっていた。

 フォレストウルフの後ろ足付け根に当たる。

 致命傷を与えるには、まったく的外れの場所。

 だが、刻哉のスキルは手にしたに尋常でない貫通力を付与する。


 フォレストウルフの下半身が吹き飛んだ。


 細くて容易く折れそうな一本の枝は、川の水を巻き上げ、底の石に深々と突き刺さって、それを真っ二つに割った。


 手に、枝が渡される感触。

 振り向くと、フィステラが両手にかき集めた枝を差し出していた。彼女の表情と周囲を舞う蝶に、力強さが戻っている。

「ありがとう」と刻哉は言って、枝を受け取った。フィステラは少し泣きそうになっていた。


 枝はぬるりとしている。スライムの欠片が付着しているのだ。

 それに触れた指先がピリピリと痛む。

 だが、怯まない。

 その程度の不快さ、苦痛で手を止める刻哉ではない。


 最初の投擲とうてきにより、水霧が発生していた。視界が悪くなる。

 リコッタが服の裾を引いた。指先で水霧の中を指差す。

 彼女は目が良い。鼻が良い。感覚が鋭い。

 刻哉はリコッタを信じた。スキルの力を付与した枝を水霧の中へ次々と投げていく。


 単なる枝だったものが、恐ろしいほどあっけなくモンスターたちを屠る。


 フィステラとリコッタも、刻哉の真似をしてトレントの残骸を投げつけた。しかし、彼女らが放った枝は緩やかな放物線を描くだけで、川底の石はおろかモンスターの鼻先に傷を付けることすらできなかった。枝は虚しく転がり、モンスターの下敷きになって折れるだけだった。


 刻哉の手で、刻哉の力を付与されたもののみが、文字通り『必ず殺す』飛び道具としてモンスターたちに逆襲の牙を剥く。


 ――ひどく奇妙な殲滅せんめつ戦が始まった。




【一撃鍛冶師チャンネル!!】:ライブチャットフィード


[シャドウさん]:みんな見ました?(15:32)


[イノ]:すっっっげ(15:32)


[陽陽陽]:なんだいまの意味わからん狂ってる(褒めてます)(15:32)


[シャドウさん]:これが推しの強さです!!!!(15:33)


[スターダスト]:いやー まさか2回目の動画でこんなバトル見せてくれるとはねえ(15:33)


[スターダスト]:すぐにアップできて良かったよ(15:33)


[イノ]:GJです(15:33)


[シャドウさん]:暇人ですね!!!!(15:33)


[スターダスト]:>>シャドウさん そこになおれ(15:34)


[シャドウさん]:すみません(15:34)


[陽陽陽]:ほんとにネコッタちゃんも一緒なんだな……(15:35)


[陽陽陽]:うらやましい(15:35)


[シャドウさん]:ですよね!!!!!!!!!!!!!!!(15:35)


[イノ]:圧www(15:35)


[スターダスト]:>>シャドウさん そこになおれ!!(15:36)


[シャドウさん]:すみません(15:36)


[陽陽陽]:えっと 動画見てるのこれだけ? ウソでしょ絶対バズるでしょコレ(15:37)


[スターダスト]:まだチャンネル開いて間がないから(15:37)


[スターダスト]:知名度がないチャンネルは存在しないのと同義なんだよ(15:37)


[イノ]:それだよねえ(15:37)


[陽陽陽]:よかったら紹介しとこうか?(15:38)


[陽陽陽]:たぶんこれゆめKo並にバズると思うよ(15:38)


[スターダスト]:あざっす でもまあほどほどに(15:38)


[シャドウさん]:なんでですかパイセン!!! 俺たち誓い合ったじゃないですか!!!! あの夕日にぃぃぃぃぃい!!!!(15:39)


[スターダスト]:>>シャドウさん お前みたいなのがウジャウジャ湧いたら困るんだよ(15:39)


[シャドウさん]:すみません(15:39)


[陽陽陽]:決めた 紹介しとく(15:40)


[陽陽陽]:一撃鍛冶師による無双動画 漫才付き(15:40)


[陽陽陽]:バズるぜ(15:40)


[スターダスト]:えぇ……(15:40)


[シャドウさん]:次もよろしくお願いしますぱいせん!!!!!(15:40)


[シャドウさん]:放置やめて!!!!!!!(15:45)


[イノ]:草(15:45)


[スターダスト]:さあて、次はどんなことをしてくれるかな 我らが一撃鍛冶師様は(15:46)


[イノ]:鍛冶師っぽいところが見たいよね(15:46)


[シャドウさん]:やっぱ一撃!!! 力こそパワー!!!!!(15:46)


[スターダスト]:森の中でどんな武器を創るのか興味あるよね(15:47)


[陽陽陽]:次も楽しみにしてるわ(15:47)


[スターダスト]:ういっす 鍛冶シーン狙ってみる(15:47)


[シャドウさん]:放置!!!!! やめて!!!!!!(15:47)


[陽陽陽]:いやマジで楽しみにしてるわwwwww(15:48)



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