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第12話 【掲示板回】笑いのコメント、生死の境


【ゆめKo】いせスト実況やろうぜ【nakana】:ライブチャットフィード


[ふい]:祭りじゃー 素材祭りじゃー(09:11)


[騎士おん]:めっちゃレアじゃん これまでアマドラの全素材剥ぎ取れたヤツいたっけ(09:11)


[ふい]:はげはげはげぇええ(09:11)


[ゼウス]:呼んだか? なあ呼んだか?(09:11)


[太陽]:それより字面がきたない(09:11)


[騎士おん]:こんなところにNPC ……NPCだよな?(09:13)


[ふい]:コミュ障っぽい男キャラひとり 合ってるんじゃね? >NPC(09:13)


[ウィンダット]:お、ゆめKo武器げと(09:21)


[騎士おん]:なるほど交換イベだったか ステータスはよ(09:21)


[ウィンダット]:おやおや? こいつは(09:22)


[太陽]:微妙?(09:22)


[スターダスト]:なんかめっちゃシークレットかかってるっぽい これは大当たりか?(09:22)


[ふい]:まだ後ろにたくさんあるじゃん とれよ(09:23)


[騎士おん]:どうやら一回きりのイベントみたいだな……残念(09:23)


[ふい]:やっちゃえやっちゃえ(09:23)


[陰の影]:レアアイテムがあるだろ? じゃまなNPCがいるだろ? 殺るだろ? うぇーい(09:24)


[陰の影]:様式美じゃん(09:24)


[ふい]:>>陰の影 パリピでワロタ(09:24)


[ふい]:やりやがったwwwwwwwwww(09:26)


[騎士おん]:いやマジかよwwwひでぇ(09:26)


[陰の影]:wwwwww(09:26)


[陰の影]:やはり様式美だったw(09:26)


[スターダスト]:回復置いてる? え、まさか倒して復活させたらイベントループできると思ってる?(09:27)


[騎士おん]:そんな裏技はなかった けどごっそり手に入れてて草 鬼だわこいつら(09:27)


[ゼウス]:ゆめKoは鬼じゃねーぞ 沼だ!(09:27)


[ふい]:つまらん(09:27)


[陰の影]:早く雑魚で試してくんねーかな(09:29)


[陰の影]:www まさかの耐久1ww(09:39)


[ふい]:使えねえーww 売れ売れ ネコッタちゃんいただろ外に(09:40)


[スターダスト]:二束三文……けどこんなもん隠し持ってるなんて結構面白い あの地味なNPC(10:09)


[スターダスト]:もしかしたら実はすげえ武器すげぇキャラだったりして この地味キャラ氏、ちょっとフォローしとこ(10:09)


[スターダスト]:……復活するよね?(10:09)


[シャドウさん]:すごい地味さんがいると聞いて(10:12)


[ふい]:だれおまえ(10:12)


[シャドウさん]:すみません(10:12)



◇◆◇



「トキヤさんッ! トキヤさんッ! しっかり、しっかりしてください!」


 半狂乱状態で、蝶の精霊少女は呼びかける。

 彼女の目の前では、刻哉がうつ伏せの状態で倒れていた。


 ――ゆめKoに回復薬と引き換えでナイフもどきを渡した後。

 彼女のパーティメンバーと思しき男チーターが、いきなり刻哉に斬りかかってきたのだ。


 あまりの出来事に、フィステラは一瞬だが思考力を失った。

 その間、男チーターもまた、ゆめKoと同じように回復薬の入った小瓶を刻哉の側に置く。

 深手を負った刻哉は痙攣するばかりで動けない。喋れない。

 その様子を見て取った男チーターは、一切表情を変えることなく、刻哉のナイフ擬きをごっそり抱えて、その場を去っていった。


 フィステラが怒声を上げても、彼らは歯牙にもかけない。


 精霊少女は『いせスト』を知らない。ゲームのイベントという概念を知らない。NPC、そしてモブの扱いを知らない。

 ただただ彼女の目には、見ず知らずの意志なき人形が、理不尽に刻哉を傷つけ、努力の結晶を略奪したと映った。


「……血が止まらない。傷が深い」


 フィステラは焦りのつぶやきを漏らす。周囲の蝶が、青や赤に明滅しながら不規則に舞う。


 相手はチーター。その手に持っている武器も、現地の人間が逆立ちしても創り出せないような特別製だろう。

 そんな武器で、無防備な人間が不意打ちを食らったら――。


 刻哉は、フィステラの呼びかけに反応しない。

 肉体が不自然な痙攣を起こしている。精霊少女の焦りはますます募る。


 ――同じだ。シイラさんのときと同じだ。

 死ぬ。このままでは彼が死んでしまう。


「なにが『信じさせてあげる』だ」


 涙が目尻から溢れる。


「なにが『あなたに世界を救わせてみせる』だ」


 拳で頬を拭う。


「これじゃあ、あのときと一緒じゃないですか……!」


 力のない自分が恨めしい。

 けど今自分をののしっても、事態は何も変わらない。それはかつて桜乃さくらの詞蘭しいらを看取り、チーター・ゆめKoの誕生を目の当たりにしたときに学んだ。


 フィステラは動く。

 隠し持っていた地粘材を千切り、小さくして自らの口に含む。

 ゆめKoが渡してきた回復薬入りの瓶の中身を、同じく自分の口の中に傾けた。


 そのまま、刻哉の唇に押し当てる。


 かさついた感触がした。

 回復薬とマナの塊を同時に喉へ流し込んだ。


「戻ってきて。トキヤさん」


 息継ぎの代わりに、祈り。

 フィステラは回復薬の瓶が一個、空になるまでそれを続けた。


 ――刻哉の呼吸は、戻らなかった。


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