[シャドゥさん]:1get(01:23)
[シャドゥさん]:誰もいない夜の世界を独り占めする これぞジャスティス(01:23)
[アーク]:こんばんは(01:25)
[シャドゥさん]:こんばんは(01:26)
[シャドゥさん]:超ビビった(01:26)
[アーク]:たまに背景だけが流れる動画いいですよね(01:29)
[シャドゥさん]:癒やしです 同接自分らだけだし(01:29)
[アーク]:コメントでごちゃごちゃした雰囲気が苦手で(01:31)
[シャドゥさん]:わかります(01:31)
[シャドゥさん]:あ(01:43)
[アーク]:なんか映り込んでますね(01:43)
[シャドゥさん]:これあれじゃないですか ゆめKo動画の(01:44)
[アーク]:狩り損なったアダマントドラゴン?(01:44)
[アーク]:誰かいますね 誰?(01:44)
[シャドゥさん]:なんか地味なキャラがいますね NPC?(01:45)
[アーク]:まさかこのキャラがやった?(01:46)
[シャドゥさん]:まっさかあ(01:46)
[シャドゥさん]:寝てるだけなんじゃないです? アダマントドラゴン ぜんぜん傷ないし(01:46)
[アーク]:地味さん逃げてー(01:46)
[シャドゥさん]:ww(01:46)
[アーク]:あ、そろそろ落ちます またどこかで同接できればいいですね(01:58)
[シャドゥさん]:そうですね お疲れ様でした(01:59)
[シャドゥさん]:深淵に我ひとり(02:05)
[シャドゥさん]:寝よ(02:12)
[シャドゥさん]:地味さん何者?(02:13)
◇◆◇
「なあ、フィステラさん」
岩を背に座りながら、刻哉は言った。手には新しく打ったばかりの刀
左手だけで創ったそれは、やはり歪な形になっていた。
「君は本当に、俺が世界を救えると思っているのかい?」
「思っていますよ。わかってくれるまで、何度でも言いますから――ねっ!」
蝶をまとう精霊フィステラは、気合い混じりの声で答えた。
彼女は今、アダマントドラゴンの亡骸をマナの塊――
一度に変換できる量には限りがあるらしく、少しずつ、ドラゴンを解体している。
ドラゴンの血管らしき臓器を剥き出しにしてしまったせいで、辺りは血の海になっている。フィステラは律儀に血も地粘材化していた。
おかげで時間は経過する一方なのに、ドラゴンの解体はいっこうに終わらない。まだ五分の四以上残っている。
フィステラは、自分の能力を刻哉にアピールして認めてもらおうと考えているようだった。刻哉が制止しないのをいいことに、作業に没頭している。
人のことは言えないが、この蝶の精霊も周りを見ないところがあるんだなと刻哉は思った。
アダマントドラゴンの解体に、刻哉ができることは少ない。自分が打った刀擬きで、フィステラが指定した場所を斬り離すくらいだ。
その過程で、彼は自分の力の特徴を理解しつつあった。
――どうやら俺のスキルで創った武器は、一回きりしか使えないらしい。
ドラゴンを
刻哉は悲観していない。むしろ自分らしいとさえ思っていた。
「ああ、ダメです……」
ついにフィステラが音を上げる。
「これではいつまで経っても終わりません」
刻哉は岩陰を見る。うずたかく積まれた地粘材の山。どうやらドラゴンの部位によって、微妙に色味が違うようだ。
いくら一個一個が小型で軽くても、あれ全てを運び出すことはできない。
フィステラが側にやってきた。刻哉が創りだした刀擬きを見る。
不揃いな刃、形だけの刀――一本目と比べてマシという程度の出来だ。
「やはり、上手くいきませんか」
「設備や道具が足らないのもあるけど、一番はコレかな」
他人事のように自らの右腕を指差す。
「片腕しか使えない現状じゃあ、ろくに作業もできない」
「うーん」
フィステラが腕を組む。むつかしい顔で悩む彼女を、刻哉は興味深そうに見ていた。
今まで、自分にこれほど興味関心を持ち、積極的に関わろうとした存在はいなかったからだ。
「怪我を治療したいけど、ここじゃ何もできない。……良い案ないかな、フィステラさん」
自分から相手に意見を求める。それは刻哉からすればとても珍しいことだった。
――が、フィステラはそのことを知らない。さらに渋面を深める。
「私は大噴禍の発生場所を目指してここに来たので、洞窟の出入口までのルートは把握しています。ただ……」
「ただ?」
「トキヤさん、選んでください。『ここに残る』か『移動する』か」
フィステラの提案はこうだった。
ひとつめ、『ここに残る』。怪我の自然治癒まで留まって作業を続けるという案。
大噴禍を通って大量のマナを取り込んだ刻哉の身体は、元の世界にいるときよりも怪我や病気に強い耐性を持っているという。派手に骨折しても痛みがほとんどなかったのは、これが理由らしい。
フィステラの地粘材はマナの塊。これを『摂取』すれば、元の世界にいたときよりもずっと早く自然治癒するはずだ。
その間、貴重なアダマントドラゴンを
懸念点は、刻哉の体調。
フィステラは異世界の知識を備えているが、博識というわけではない。水・食料を摂らずマナだけで健康を維持できるかどうか、彼女は知らなかった。
もうひとつの懸念。ここで時間をかけていたら、アダマントドラゴンの亡骸を確認するためにゆめKoたちが戻ってくるかもしれないこと。
今のゆめKoらはチーター。元の世界にいたときとは別の存在と言ってよい。意思疎通のできない彼らが親身になってくれる保証はどこにもない。
最悪、ドラゴンの貴重な素材を占有する障害物と認識する可能性もある。
そうなれば、まず無事では済まないだろう。
ふたつめ、『移動する』。持ち運べるだけの地粘材と換金用の素材を持って、集落を目指す案。
最寄り集落までの道案内はフィステラが担うから、少なくとも道に迷って立ち往生することはない。何事もなければ、だが。
ゆめKoたちと無用のトラブルを起こすのも避けられる。
こちらの心配な点は、まず『遠い』。刻哉の足だと丸一日はかかるという。
次に、『不確実』。集落には確かに対人用の治癒術を修めた者がいる。だが、それが外界人である刻哉にも有効なのかが定かじゃない。チーターはそもそも身体の作りから違うので、参考にならない。
後は、せっかく手に入れたアダマントドラゴンの素材を『諦める』こと。大量に地粘材化しても、結局持ち運べなければ意味がない。
異世界転生モノでよくある『収納空間』的なチカラは、あいにく刻哉と縁がなかった。
「私はあなたの判断に従います。どうしますか、トキヤさん」
「……」
刻哉は目を閉じて考えた。時間にして数秒。フィステラが拍子抜けするほどあっさりと、彼は決断した。
「ここに残ろう」