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第12話 過ちの結果

 優馬が夏鈴と結ばれるような妄想が消えてくれない。

 だから、優馬と過ごしている瞬間ですら、考え事に浸るばかり。

 いつ優馬は離れて行ってしまうのだろう。そんな風に。

 私と優馬は、ダンジョンがなければ順当に結ばれていたのにね。


 バカな行動をしたばっかりに、いちばん大事なものを失おうとしている。

 因果応報という言葉がふさわしい。分かってはいるんだ。

 だけど、優馬だけは諦めたくない。だって、誰よりも大好きなんだから。


 そんな私は、今は優馬と夏鈴の会話を見ている。

 つまらないストーカーの行動でしかなくて、笑えてしまう。

 これまでは気にしていなかったのにな。ちょっと不安が出たらこれか。


「夏鈴さん、こんにちは。ちょっと相談したいことがあるんだけど、良いかな?」


 嫌だ。遊真が一番頼れる存在は、私だったはずなのに。

 夏鈴の方が頼りになるって思っているの?

 私の方が、ずっと一緒に居たよね。それなのに、どうして。


「はいっ。何でも相談してください。優馬さんなら、何だって歓迎ですっ」


「最近、幼馴染の元気がないみたいで。どうすれば良いのか、よく分からないんだ」


 ああ、私を心配してくれたんだ。嬉しいな。

 相談するのが夏鈴じゃなければ、もっと嬉しかったのに。

 加藤なんて、頼れる大人じゃないかな?

 どうして、夏鈴の方を選んだのかな?


「幼馴染というのは、女の人ですか?」


「そうだね。ずっと、一緒に過ごしてきたんだ」


「帰りを待っている人というのは、彼女ですか?」


「うん。僕の安全を祈ってくれて、支えてくれているんだ」


 優馬は鈍い。私以外に女の人と交流してこなかったから、当たり前だけど。

 夏鈴からの想いにも、気づいていない様子。だからこそ厄介だ。

 きっと、夏鈴が距離を縮めようとする理由が分かっていない。

 だから、簡単に心を許してしまうんだ。私から奪おうとしているのに。


「……そうですか。なら、プレゼントなんてどうですか? アクセサリーなんて、きっと喜んでもらえると思いますっ」


「夏鈴さんに相談して良かった。なら、頑張って選んでみるね」


 夏鈴のアドバイスっていうのは気に食わないけど、私にプレゼントなら嬉しい。

 優馬の色で染まる私も、きっと悪くないんじゃないかな。

 ただ、本当に優馬は私を好きで居続けてくれるだろうか。

 怖いよ。優馬の気持ちが、私から遠ざかる瞬間が。


「私も手伝いますよっ。女の子の好みなら、私の方が詳しいはずですからっ」


「ありがとう。なら、また今度、お願いするよ」


「次の休日はどうですか? たまの休みも兼ねて、ちょうど良いと思いますっ」


 冗談じゃない。夏鈴の選んだアクセサリーをつけろというのか。

 それに、もはやデートじゃないか。ふざけるな。

 私の相談にかこつけて、優馬を奪おうとするだなんて。

 やっぱり、もっとうまく殺しておけば良かったのだろうか。そんな後悔がよぎる。


「分かった。じゃあ、よろしくね」


「はいっ。楽しみにしていますねっ」


 ああ、嫌だな。優馬と夏鈴のデート。

 見るのも怖いけど、見ないで変に進展されるのも困る。

 結局のところ、私は袋小路にいるんだな。

 どこに向かって進んだとしても、望む未来にはたどり着けない。


 夏鈴が帰っていって、優馬が私の元へ帰ってくる。

 だけど、いつものような喜びなんてない。

 私から離れていく優馬の姿が見えるようで、泣き出したいくらいだった。


「お帰り、優馬君。ご飯できてるよ」


「いつもありがとう。今日も楽しみだな」


 いつも通りに優馬がご飯を食べて、美味しいという。

 そんな日常に、影が差したような気がする。

 私の想いが、私の心に棘を刺す。

 優馬の笑顔を見たって、何も嬉しくはなかった。


 どうせ、夏鈴と一緒のほうが楽しいんでしょ?

 私の気持ちなんて、本当は伝わっていないんでしょ?

 だからだよね。夏鈴と出かけるなんてこと。


「何か悩みがあるのなら、言ってほしいよ。悲しそうな愛梨を見るのは、つらいから」


 言える訳がない。夏鈴とのデートをやめろだなんて。

 私がなぜ知っているのか、疑われてしまうだけだ。

 やめてよ。中途半端な優しさは。私は余計に苦しいだけだよ。


「ううん、大丈夫だよ。優馬君は自分の心配をしていて。死んじゃったら、元も子もないんだから」


「無事にダンジョンを攻略できても、愛梨が苦しんでいるのなら意味がないよ」


 それなら、どうして夏鈴と一緒にいるのさ。どうして全力で助けたのさ。

 私の命も背負っているのに、夏鈴を捨てられなかった。それが優馬の気持ちなんだよね。

 ふざけないでよ。他の女のついでくらいに扱われて、どうして嬉しいと思うんだよ。


「良いから! 放っておいてよ! ……ごめんね。少し、頭を冷やしてくる。また、明日ね」


 自分でも、理不尽だとは分かっていた。

 私は優馬の生活なんて知っているはずなくて、優馬と私は付き合っていない。

 なのに、怒りをぶつけるのが正しいのか。そんな訳がない。

 だけど、優馬は私の全てなんだよ。分かってくれてもいいじゃん。


 それからも、優馬とは距離を感じたままで。

 夏鈴との距離は近づいているような気がして。

 私の想いはぐちゃぐちゃになりそうだった。

 いつから間違っていたのかなんて、初めから分かり切っている。

 だからこそ、何もできないでいた。


 結局のところ、私のせいでしかない。

 優馬に助けてもらった時の想いが、歪んでいったせい。

 そうだよ。私の本当の望みは、優馬のそばに居ることだったのに。

 なんで、英雄になんてしようと考えちゃったんだろう。


 私が間違えたばっかりに、優馬との距離が遠ざかっていく。

 どうしてなんだろう。願いを叶える力なんて、無い方が良かったのかな。

 私の欲望は叶って、本当の想いは離れていく。

 皮肉なものだ。一番欲しいものを失って叶う願いなんてね。


 私はバカだった。ダンジョンなんて無ければ、全てがうまくいったのに。

 優馬も私も、苦しまなくて済んだのに。

 分かりきったことだよ。想い人を命がけの戦いに送り込む人間なんて、終わっている。


 優馬と夏鈴が結ばれた方が、当人たちにとっても良いのかもしれない。

 そんな考えに侵されながら、優馬と夏鈴のデートをながめていた。


「優馬さん、不安そうですねっ。大丈夫ですよ。優馬さんの気持ちは伝わりますっ」


「本当かな? 仲直りできるかな? 情けないけど、怖くて仕方ないよ」


「ケンカしちゃったんですか? なら、想いを伝えちゃいましょう。仲直りしたいって、素直な気持ちを」


 いい子ぶってくれちゃって。どうせ、私と優馬がこじれたほうが都合がいいんだろう。

 優馬に嫌われたくないから、綺麗事を言っているだけだろう。

 そんな考えをする私は、どれだけ醜いんだろうな。

 優馬も夏鈴も、私よりも素晴らしい人なんだって、スタンピードの時に実感したのにね。


「そうだね。そうするしか無いと思う。他の手段は、思いつかないよ」


 そのまま優馬達はアクセサリー屋に向かっていく。

 この2人が結ばれたならば、私はどこに行けば良いんだろう。

 優馬と私は釣り合わない。そんな風に考えるけれど。

 だけど、諦めたくないよ。初恋なんだ。結ばれたいんだ。


「何か気に入ったものはありますかっ?」


「うーん。女の子のアクセサリーって、よく分からないや」


「そうですかっ。なら、このブレスレットはどうですか?」


 夏鈴が選んだものなんて、どうでもいいよ。

 細かく見る気にもなれなくて、ただぼーっと眺める。

 本当に、なんでこんなものを見せられているんだろう。

 分かっている。ちゃんと優馬の気づかいを受け入れていれば、まだマシだったって。


 私は間違い続けてしまう。

 もしかして、私がいない方が、優馬は幸福だったのかもしれない。

 そんな考えすら思い浮かんで。でも、逃げ場もなくて。

 他の男と結ばれるなんて、考えられない。

 だけど、優馬に私はふさわしくないんだ。


「良いね。なら、それで行こうかな」


「もっと色々なものから選ばなくて良いんですか?」


「夏鈴さんを信じているから。きっと、大丈夫だよ」


 私はなんて無様なんだろう。

 優馬が他の女を信じる姿を、ただ遠くから見ているだけ。

 出会いのきっかけも、仲を深める時間も、全部私が用意したようなもので。

 きっと、私の行動を知る誰かが居たら、哀れみすら感じるのだろうな。


 それでも優馬の様子から目を離せないままで。

 すると、夏鈴のアドバイスを得ずにアクセサリーを選んでいた。

 きっと、夏鈴に贈るものだろう。そう考えて、目をそらしていた。


 奪われるのをただ見ていることすらできない、いくじなし。それが私。

 抵抗するどころか、現実から逃げるだけ。なんて情けないのだろう。


 優馬は会計を済ませて、夏鈴と話す。

 私はとんだ負け犬じゃないか。笑い合っている男と女を、ただ何もできずに見ているなんて。


「ありがとう、夏鈴さん。おかげで、いい買い物ができたよ」


「ふたつロケットを買っているの、見ちゃいましたっ。期待して良いんですか?」


 ふたつ? つまり、夏鈴だけじゃない?

 わずかに希望が芽生えたような気がして、思わず胸元を握った。


「もちろんだよ。これ、どうぞ」


「ありがとうございますっ。……こっちの方でしたかっ。大事にしますねっ」


 夏鈴はがっかりしている。まさか、本命と思われるものが残っている?

 それなら、優馬は私に自分で選んだ本命のアクセサリーを渡してくれる?

 だったら、私だって前を向ける。優馬との未来のために、頑張れる。


「気に入ってくれたら嬉しいよ。でも、無理に使わなくてもいいからね」


「いえ、大切に使いますよっ。優馬さんからの贈り物ですからっ」


「ありがとう。夏鈴さんには、助けられてばかりだね」


 ふと、心が痛んだ。

 私が優馬を助けたこと、あるだろうか。

 それどころか、追い詰めてばかりじゃないだろうか。


 だったら、私は。

 優馬がまだ好きで居てくれるのなら、これからの人生を捧げよう。

 そうすることで、私だって幸せになれるはずだから。

 大好きな優馬を助けられることは、きっと素敵なことだから。


「お礼を言うのはこっちの方ですよっ。素敵な贈り物、ありがとうございましたっ」


 夏鈴が去っていくことで、優馬は私のところへ帰ってくる。

 本当、優馬の両親の存在は都合がいいよね。

 私を信じてくれて、優馬を任せてくれるんだから。


 しばらく経って、優馬がドアを開ける。

 待ちきれずに、すぐに優馬のところへ向かった。


「お帰り、優馬君。今日はどこに出かけていたの?」


「ちょっとね。ねえ、愛梨。これ、受け取ってほしいな」


 優馬から渡されたのは、ハート型のロケット。

 この形ってことは、つまり。

 私は報われるのかもしれない。そう思えた。


 つい嬉しくなって、胸元にロケットを抱える。

 優馬の方へ向くと、つい笑顔が浮かんだ。

 そのまま心を形にしていく。


「この形は、優馬君の気持ちって事でいいんだよね。ありがとう」


「う、うん。自分で言うのは恥ずかしいね」


「そうかもね。でも、いつかちゃんと言葉にしてほしいな。待っているから」


 もう、優馬を追い込むのはやめよう。

 そして、できるだけ早く私から告白するんだ。

 私の望みは、優馬と穏やかに過ごすこと。それがようやく理解できたから。

 優馬が英雄になることなんて、本当は必要ないんだって思えたから。


 そして次の日、Aランクダンジョンへと向かう優馬を見送った。

 これからは、もう優馬を苦しめたりしない。そう決意しながら。


 ダンジョンに入った優馬は、素早く敵を倒していく。

 拍子抜けしたような顔をしていて、少し可愛い。

 でも、これまで苦労した分、しっかり気楽に攻略させてあげるね。


 と思ったけれど、優馬はちょっと困っているみたい。

 これまで、ちゃんと苦戦させてきたからね。

 だけど、これからは不安に思わなくて良いんだよ。

 私が、これまでの苦労に見合うご褒美をあげるからね。


 優馬はボスまで進んでいき、そのまま片付けてしまう。

 大型のロボとはいえ、弱い設定だと簡単だよね。

 これから先は、優馬の無双タイムだよ。

 あなたはこの国を救った英雄になって、私に告白されるんだよ。


 そんな未来を夢見ていると、突如ダンジョンに異変が襲った。

 私の手から制御が離れて、優馬の周りが輝いていく。

 そして、真っ白な印象の女。私をこの世界に転生させた女神が現れた。


 私にはディアフィレアと名乗っていた女神は、遊真に向けて話し始める。


「こんにちは、笹木優馬さん。私は、女神と呼ぶべきもの。今日は、あなたに話したいことがあって来ました」


 いったい何だ。嫌な予感しかしない。

 私には、この世界で自由にしろと言っていた。

 なのに、今さら現れて何をするつもりなの?

 私の警戒も通じないまま、話は進んでいく。


「なるほど。話したいことというのは、なんですか?」


「その前に、まずは私を信じてもらわないといけません。ディアフィレアの名において命じます。優馬さん、息を止めてください」


 ディアフィレアの言葉と同時に、優馬は顔を青くしていく。実際に息が止まっているのだろう。

 私の優馬になんてことをするんだ。別の手段ででも、優馬に信じさせることはできたはずなのに。


「すみません、苦しめてしまって。ですが、これが手っ取り早かった。優馬さん、もう大丈夫ですよ」


 ディアフィレアは申し訳無さそうな顔をしている。

 だけど、私には分かる。絶対に悪いとは思っていない。

 そうじゃなかったら、そもそも優馬の息を止める必要なんて無いんだから。

 わざわざ苦しめるため。そうとしか思えない。


 だけど、女神に対してはチート能力は通じないだろう。

 本音を言えば、今すぐにでもディアフィレアを殺したいけれど。

 与えられた力で勝てると思うほどバカじゃないつもりだ。

 何か手段があるのならば、どうにかして殺すのだけれど。


「ディアフィレアさん、でいいですか? 伝えるのは、僕じゃないとダメなんですか?」


「どちらにもはいと答えます。あなたが全ての中心だからこそ、語るべきことなんです」


 私の行動は、間違いなく見抜かれている。当たり前か。神なんだから。チート能力を与えられるほどの。

 つまり、これから優馬に私の本性が気づかれてしまう?

 そう考えたら、体が勝手に動いていた。

 ディアフィレアに向けて、チート能力で死を願う。

 だけど、何の効果も現れない。当然のことでしかない。


 なのに、心には強い無力感が襲いかかってきた。

 このままじゃ、私は優馬に嫌われてしまう。

 いくらなんでも、ダンジョンで大勢を殺した私を、許しはしないだろう。

 優馬には真っ当な良心がある。私とは違って。どれだけでも殺してきた私とは。


「分かりました。続けてください」


「可愛い子。あなたが選ばれるのも、納得ですね。愛梨の計画の、その中心に」


 可愛いというのは、どういう意味だろうか。

 なんとなく、素直に褒めているとは思えない。

 人が働きアリの必死さを可愛いというような、歪んだ欲を感じる。

 単に敵だから、疑っているだけだろうか。優馬にとって、悪い未来でなければ良いのだけど。


 もう、きっと私は嫌われてしまうだろう。

 それでも、優馬には幸せで居てほしい。

 私に教えてくれた幸福は、本物だったから。

 誰よりも、大好きな人だから。


 私のように、女神に運命を狂わせられないでほしい。

 なんて、私の自業自得ではあるんだけどね。

 でも、チート能力がなければ、ただ優馬と穏やかに過ごせたから。


 私の望みは、願いを叶える能力なんてなくても叶っていたんだ。

 余計な欲を持ったせいで、歪み切ってしまったけれど。

 私を弄ぶために、女神が与えた力。なんて、悪く言いすぎだろうか。


「愛梨の魂は、私がこの世界に呼び寄せました。あなたに伝わるように言うと、転生ですね」


 思わず悲鳴を上げそうになった。

 私の本性が知られるのは、もう諦めた。

 それでも、元が男だなんて知られたくない。

 気持ち悪いだなんて、思われたくない。


 せめて優馬には、可愛い女の子だと思っていてほしいよ。

 TSしたなんて知られて、どんな目で見られるのか。想像したくない。

 優馬だけなんだよ。私が好きになった人は。

 だから、せめて。せめて異性だと認識されていたい。


「その際に、私はとある力を与えました。願いを叶える能力とでも呼べる力です」


 ふふ、もう確定しちゃったね。私が黒幕だって優馬に伝わることは。

 でも、男だったと知られないのならそれでいいかな。

 嫌われたとしても、少しでも綺麗だと思われたい。

 ただ、変な趣味を持っただけの人だと思われたくない。


「私が与えた力で、愛梨はダンジョンという災害を引き起こしました。優馬さん、あなたを英雄にするために」


 その通りだよ。

 私は優馬の輝く姿を見たかった。

 幼い頃、犬から私を助けてくれたみたいに。

 でも、間違っていた。本当は、ただ結ばれるだけで良かった。


 ああ、過去に戻れたならな。

 そうすれば、優馬に告白して、付き合って、やがて結婚して。

 今となっては、遥か遠くでしかないんだけどね。


「Sランクダンジョンに向かってください。そこに、全てを終わらせる鍵があります」


 Sランクダンジョンを攻略すれば、ダンジョンは終わる。私が終わらせる。そのつもりだった。

 だけど、ディアフィレアが言っている意味は違うように思える。

 鍵ってなんだろう。私はそんなもの、用意していない。


「優馬さん、ゆっくりと考えてください。スタンピードは、私が起こさせませんから」


 ああ、この言い方をされたら、私がスタンピードを起こしたって気づかれちゃったな。

 夏鈴を殺すためにモンスターを出現させたのも、バレちゃっただろうな。

 これから私は、どうやって優馬と会話すればいいのだろう。


 結局のところ、優馬は私を信じてくれなかったな。

 いや、全部私が原因なんだけどね。だけど、胸が引き裂かれそうだ。

 さっき出会ったばかりの女神を、私より信じてしまうなんて。


 でも、私のせいなんだけどね。

 優馬を追い詰めて、苦しめて、そんな姿を眺めていた。

 私への罰として、優馬に嫌われるというのは有効だよ。


 私はもともと、優馬が好きだった。

 その気持ちを一番大事にしていれば、それで良かったのにね。

 ごめんね、優馬。あなたには謝るよ。

 だから、今は顔を合わせられない。


 きっと、いま話をしても、何も良いことはないから。

 私だって感情的になってしまうはず。

 だから、優馬とはいったん離れるよ。


 できれば、私が敵になったとしても、好きで居てほしい。

 だけど、高望みがすぎるよね。

 私の想いは、もう届かない。だから、せめて思い出だけでも。


 優馬にもらったロケットを手にとって、犬から助けてもらった頃の写真を入れる。

 それから、優馬に別れの手紙を書いた。

 次に会うのは、Sランクダンジョンでだね。だから、できるだけ早く来てほしいな。

 私と優馬がどうなるにしろ、運命の分かれ目になる日を待っているから。


 もし優馬に殺されるのだとしても、私は出会えてよかったと思うよ。

 だから、優馬も嬉しいと思っていてくれたらな。なんて、望み過ぎか。


 あるいは、優馬と私の最後の邂逅。

 その瞬間を、心を整理しながら待っているね。

 きっと、優馬はダンジョン問題を解決した英雄になる。

 そんなもの、私の本当の願いじゃなかったのにな。


 もし最後になるのなら、せめて私の想いを伝えたいよ。

 拒絶されるのだとしても、好きだって言いたいよ。

 私のことを、どうかいつまでも覚えていてほしい。

 仮に私が死んでしまったとしても、永遠に。


 優馬、ごめんね。大好きだよ。

 ずっと一緒にいてほしいのは、私の本音だったんだよ。

 だから、せめて私をあなたの傷にして。

 お願いだよ、優馬。私を忘れないでね。どんな未来でも。

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