優馬が夏鈴と結ばれるような妄想が消えてくれない。
だから、優馬と過ごしている瞬間ですら、考え事に浸るばかり。
いつ優馬は離れて行ってしまうのだろう。そんな風に。
私と優馬は、ダンジョンがなければ順当に結ばれていたのにね。
バカな行動をしたばっかりに、いちばん大事なものを失おうとしている。
因果応報という言葉がふさわしい。分かってはいるんだ。
だけど、優馬だけは諦めたくない。だって、誰よりも大好きなんだから。
そんな私は、今は優馬と夏鈴の会話を見ている。
つまらないストーカーの行動でしかなくて、笑えてしまう。
これまでは気にしていなかったのにな。ちょっと不安が出たらこれか。
「夏鈴さん、こんにちは。ちょっと相談したいことがあるんだけど、良いかな?」
嫌だ。遊真が一番頼れる存在は、私だったはずなのに。
夏鈴の方が頼りになるって思っているの?
私の方が、ずっと一緒に居たよね。それなのに、どうして。
「はいっ。何でも相談してください。優馬さんなら、何だって歓迎ですっ」
「最近、幼馴染の元気がないみたいで。どうすれば良いのか、よく分からないんだ」
ああ、私を心配してくれたんだ。嬉しいな。
相談するのが夏鈴じゃなければ、もっと嬉しかったのに。
加藤なんて、頼れる大人じゃないかな?
どうして、夏鈴の方を選んだのかな?
「幼馴染というのは、女の人ですか?」
「そうだね。ずっと、一緒に過ごしてきたんだ」
「帰りを待っている人というのは、彼女ですか?」
「うん。僕の安全を祈ってくれて、支えてくれているんだ」
優馬は鈍い。私以外に女の人と交流してこなかったから、当たり前だけど。
夏鈴からの想いにも、気づいていない様子。だからこそ厄介だ。
きっと、夏鈴が距離を縮めようとする理由が分かっていない。
だから、簡単に心を許してしまうんだ。私から奪おうとしているのに。
「……そうですか。なら、プレゼントなんてどうですか? アクセサリーなんて、きっと喜んでもらえると思いますっ」
「夏鈴さんに相談して良かった。なら、頑張って選んでみるね」
夏鈴のアドバイスっていうのは気に食わないけど、私にプレゼントなら嬉しい。
優馬の色で染まる私も、きっと悪くないんじゃないかな。
ただ、本当に優馬は私を好きで居続けてくれるだろうか。
怖いよ。優馬の気持ちが、私から遠ざかる瞬間が。
「私も手伝いますよっ。女の子の好みなら、私の方が詳しいはずですからっ」
「ありがとう。なら、また今度、お願いするよ」
「次の休日はどうですか? たまの休みも兼ねて、ちょうど良いと思いますっ」
冗談じゃない。夏鈴の選んだアクセサリーをつけろというのか。
それに、もはやデートじゃないか。ふざけるな。
私の相談にかこつけて、優馬を奪おうとするだなんて。
やっぱり、もっとうまく殺しておけば良かったのだろうか。そんな後悔がよぎる。
「分かった。じゃあ、よろしくね」
「はいっ。楽しみにしていますねっ」
ああ、嫌だな。優馬と夏鈴のデート。
見るのも怖いけど、見ないで変に進展されるのも困る。
結局のところ、私は袋小路にいるんだな。
どこに向かって進んだとしても、望む未来にはたどり着けない。
夏鈴が帰っていって、優馬が私の元へ帰ってくる。
だけど、いつものような喜びなんてない。
私から離れていく優馬の姿が見えるようで、泣き出したいくらいだった。
「お帰り、優馬君。ご飯できてるよ」
「いつもありがとう。今日も楽しみだな」
いつも通りに優馬がご飯を食べて、美味しいという。
そんな日常に、影が差したような気がする。
私の想いが、私の心に棘を刺す。
優馬の笑顔を見たって、何も嬉しくはなかった。
どうせ、夏鈴と一緒のほうが楽しいんでしょ?
私の気持ちなんて、本当は伝わっていないんでしょ?
だからだよね。夏鈴と出かけるなんてこと。
「何か悩みがあるのなら、言ってほしいよ。悲しそうな愛梨を見るのは、つらいから」
言える訳がない。夏鈴とのデートをやめろだなんて。
私がなぜ知っているのか、疑われてしまうだけだ。
やめてよ。中途半端な優しさは。私は余計に苦しいだけだよ。
「ううん、大丈夫だよ。優馬君は自分の心配をしていて。死んじゃったら、元も子もないんだから」
「無事にダンジョンを攻略できても、愛梨が苦しんでいるのなら意味がないよ」
それなら、どうして夏鈴と一緒にいるのさ。どうして全力で助けたのさ。
私の命も背負っているのに、夏鈴を捨てられなかった。それが優馬の気持ちなんだよね。
ふざけないでよ。他の女のついでくらいに扱われて、どうして嬉しいと思うんだよ。
「良いから! 放っておいてよ! ……ごめんね。少し、頭を冷やしてくる。また、明日ね」
自分でも、理不尽だとは分かっていた。
私は優馬の生活なんて知っているはずなくて、優馬と私は付き合っていない。
なのに、怒りをぶつけるのが正しいのか。そんな訳がない。
だけど、優馬は私の全てなんだよ。分かってくれてもいいじゃん。
それからも、優馬とは距離を感じたままで。
夏鈴との距離は近づいているような気がして。
私の想いはぐちゃぐちゃになりそうだった。
いつから間違っていたのかなんて、初めから分かり切っている。
だからこそ、何もできないでいた。
結局のところ、私のせいでしかない。
優馬に助けてもらった時の想いが、歪んでいったせい。
そうだよ。私の本当の望みは、優馬のそばに居ることだったのに。
なんで、英雄になんてしようと考えちゃったんだろう。
私が間違えたばっかりに、優馬との距離が遠ざかっていく。
どうしてなんだろう。願いを叶える力なんて、無い方が良かったのかな。
私の欲望は叶って、本当の想いは離れていく。
皮肉なものだ。一番欲しいものを失って叶う願いなんてね。
私はバカだった。ダンジョンなんて無ければ、全てがうまくいったのに。
優馬も私も、苦しまなくて済んだのに。
分かりきったことだよ。想い人を命がけの戦いに送り込む人間なんて、終わっている。
優馬と夏鈴が結ばれた方が、当人たちにとっても良いのかもしれない。
そんな考えに侵されながら、優馬と夏鈴のデートをながめていた。
「優馬さん、不安そうですねっ。大丈夫ですよ。優馬さんの気持ちは伝わりますっ」
「本当かな? 仲直りできるかな? 情けないけど、怖くて仕方ないよ」
「ケンカしちゃったんですか? なら、想いを伝えちゃいましょう。仲直りしたいって、素直な気持ちを」
いい子ぶってくれちゃって。どうせ、私と優馬がこじれたほうが都合がいいんだろう。
優馬に嫌われたくないから、綺麗事を言っているだけだろう。
そんな考えをする私は、どれだけ醜いんだろうな。
優馬も夏鈴も、私よりも素晴らしい人なんだって、スタンピードの時に実感したのにね。
「そうだね。そうするしか無いと思う。他の手段は、思いつかないよ」
そのまま優馬達はアクセサリー屋に向かっていく。
この2人が結ばれたならば、私はどこに行けば良いんだろう。
優馬と私は釣り合わない。そんな風に考えるけれど。
だけど、諦めたくないよ。初恋なんだ。結ばれたいんだ。
「何か気に入ったものはありますかっ?」
「うーん。女の子のアクセサリーって、よく分からないや」
「そうですかっ。なら、このブレスレットはどうですか?」
夏鈴が選んだものなんて、どうでもいいよ。
細かく見る気にもなれなくて、ただぼーっと眺める。
本当に、なんでこんなものを見せられているんだろう。
分かっている。ちゃんと優馬の気づかいを受け入れていれば、まだマシだったって。
私は間違い続けてしまう。
もしかして、私がいない方が、優馬は幸福だったのかもしれない。
そんな考えすら思い浮かんで。でも、逃げ場もなくて。
他の男と結ばれるなんて、考えられない。
だけど、優馬に私はふさわしくないんだ。
「良いね。なら、それで行こうかな」
「もっと色々なものから選ばなくて良いんですか?」
「夏鈴さんを信じているから。きっと、大丈夫だよ」
私はなんて無様なんだろう。
優馬が他の女を信じる姿を、ただ遠くから見ているだけ。
出会いのきっかけも、仲を深める時間も、全部私が用意したようなもので。
きっと、私の行動を知る誰かが居たら、哀れみすら感じるのだろうな。
それでも優馬の様子から目を離せないままで。
すると、夏鈴のアドバイスを得ずにアクセサリーを選んでいた。
きっと、夏鈴に贈るものだろう。そう考えて、目をそらしていた。
奪われるのをただ見ていることすらできない、いくじなし。それが私。
抵抗するどころか、現実から逃げるだけ。なんて情けないのだろう。
優馬は会計を済ませて、夏鈴と話す。
私はとんだ負け犬じゃないか。笑い合っている男と女を、ただ何もできずに見ているなんて。
「ありがとう、夏鈴さん。おかげで、いい買い物ができたよ」
「ふたつロケットを買っているの、見ちゃいましたっ。期待して良いんですか?」
ふたつ? つまり、夏鈴だけじゃない?
わずかに希望が芽生えたような気がして、思わず胸元を握った。
「もちろんだよ。これ、どうぞ」
「ありがとうございますっ。……こっちの方でしたかっ。大事にしますねっ」
夏鈴はがっかりしている。まさか、本命と思われるものが残っている?
それなら、優馬は私に自分で選んだ本命のアクセサリーを渡してくれる?
だったら、私だって前を向ける。優馬との未来のために、頑張れる。
「気に入ってくれたら嬉しいよ。でも、無理に使わなくてもいいからね」
「いえ、大切に使いますよっ。優馬さんからの贈り物ですからっ」
「ありがとう。夏鈴さんには、助けられてばかりだね」
ふと、心が痛んだ。
私が優馬を助けたこと、あるだろうか。
それどころか、追い詰めてばかりじゃないだろうか。
だったら、私は。
優馬がまだ好きで居てくれるのなら、これからの人生を捧げよう。
そうすることで、私だって幸せになれるはずだから。
大好きな優馬を助けられることは、きっと素敵なことだから。
「お礼を言うのはこっちの方ですよっ。素敵な贈り物、ありがとうございましたっ」
夏鈴が去っていくことで、優馬は私のところへ帰ってくる。
本当、優馬の両親の存在は都合がいいよね。
私を信じてくれて、優馬を任せてくれるんだから。
しばらく経って、優馬がドアを開ける。
待ちきれずに、すぐに優馬のところへ向かった。
「お帰り、優馬君。今日はどこに出かけていたの?」
「ちょっとね。ねえ、愛梨。これ、受け取ってほしいな」
優馬から渡されたのは、ハート型のロケット。
この形ってことは、つまり。
私は報われるのかもしれない。そう思えた。
つい嬉しくなって、胸元にロケットを抱える。
優馬の方へ向くと、つい笑顔が浮かんだ。
そのまま心を形にしていく。
「この形は、優馬君の気持ちって事でいいんだよね。ありがとう」
「う、うん。自分で言うのは恥ずかしいね」
「そうかもね。でも、いつかちゃんと言葉にしてほしいな。待っているから」
もう、優馬を追い込むのはやめよう。
そして、できるだけ早く私から告白するんだ。
私の望みは、優馬と穏やかに過ごすこと。それがようやく理解できたから。
優馬が英雄になることなんて、本当は必要ないんだって思えたから。
そして次の日、Aランクダンジョンへと向かう優馬を見送った。
これからは、もう優馬を苦しめたりしない。そう決意しながら。
ダンジョンに入った優馬は、素早く敵を倒していく。
拍子抜けしたような顔をしていて、少し可愛い。
でも、これまで苦労した分、しっかり気楽に攻略させてあげるね。
と思ったけれど、優馬はちょっと困っているみたい。
これまで、ちゃんと苦戦させてきたからね。
だけど、これからは不安に思わなくて良いんだよ。
私が、これまでの苦労に見合うご褒美をあげるからね。
優馬はボスまで進んでいき、そのまま片付けてしまう。
大型のロボとはいえ、弱い設定だと簡単だよね。
これから先は、優馬の無双タイムだよ。
あなたはこの国を救った英雄になって、私に告白されるんだよ。
そんな未来を夢見ていると、突如ダンジョンに異変が襲った。
私の手から制御が離れて、優馬の周りが輝いていく。
そして、真っ白な印象の女。私をこの世界に転生させた女神が現れた。
私にはディアフィレアと名乗っていた女神は、遊真に向けて話し始める。
「こんにちは、笹木優馬さん。私は、女神と呼ぶべきもの。今日は、あなたに話したいことがあって来ました」
いったい何だ。嫌な予感しかしない。
私には、この世界で自由にしろと言っていた。
なのに、今さら現れて何をするつもりなの?
私の警戒も通じないまま、話は進んでいく。
「なるほど。話したいことというのは、なんですか?」
「その前に、まずは私を信じてもらわないといけません。ディアフィレアの名において命じます。優馬さん、息を止めてください」
ディアフィレアの言葉と同時に、優馬は顔を青くしていく。実際に息が止まっているのだろう。
私の優馬になんてことをするんだ。別の手段ででも、優馬に信じさせることはできたはずなのに。
「すみません、苦しめてしまって。ですが、これが手っ取り早かった。優馬さん、もう大丈夫ですよ」
ディアフィレアは申し訳無さそうな顔をしている。
だけど、私には分かる。絶対に悪いとは思っていない。
そうじゃなかったら、そもそも優馬の息を止める必要なんて無いんだから。
わざわざ苦しめるため。そうとしか思えない。
だけど、女神に対してはチート能力は通じないだろう。
本音を言えば、今すぐにでもディアフィレアを殺したいけれど。
与えられた力で勝てると思うほどバカじゃないつもりだ。
何か手段があるのならば、どうにかして殺すのだけれど。
「ディアフィレアさん、でいいですか? 伝えるのは、僕じゃないとダメなんですか?」
「どちらにもはいと答えます。あなたが全ての中心だからこそ、語るべきことなんです」
私の行動は、間違いなく見抜かれている。当たり前か。神なんだから。チート能力を与えられるほどの。
つまり、これから優馬に私の本性が気づかれてしまう?
そう考えたら、体が勝手に動いていた。
ディアフィレアに向けて、チート能力で死を願う。
だけど、何の効果も現れない。当然のことでしかない。
なのに、心には強い無力感が襲いかかってきた。
このままじゃ、私は優馬に嫌われてしまう。
いくらなんでも、ダンジョンで大勢を殺した私を、許しはしないだろう。
優馬には真っ当な良心がある。私とは違って。どれだけでも殺してきた私とは。
「分かりました。続けてください」
「可愛い子。あなたが選ばれるのも、納得ですね。愛梨の計画の、その中心に」
可愛いというのは、どういう意味だろうか。
なんとなく、素直に褒めているとは思えない。
人が働きアリの必死さを可愛いというような、歪んだ欲を感じる。
単に敵だから、疑っているだけだろうか。優馬にとって、悪い未来でなければ良いのだけど。
もう、きっと私は嫌われてしまうだろう。
それでも、優馬には幸せで居てほしい。
私に教えてくれた幸福は、本物だったから。
誰よりも、大好きな人だから。
私のように、女神に運命を狂わせられないでほしい。
なんて、私の自業自得ではあるんだけどね。
でも、チート能力がなければ、ただ優馬と穏やかに過ごせたから。
私の望みは、願いを叶える能力なんてなくても叶っていたんだ。
余計な欲を持ったせいで、歪み切ってしまったけれど。
私を弄ぶために、女神が与えた力。なんて、悪く言いすぎだろうか。
「愛梨の魂は、私がこの世界に呼び寄せました。あなたに伝わるように言うと、転生ですね」
思わず悲鳴を上げそうになった。
私の本性が知られるのは、もう諦めた。
それでも、元が男だなんて知られたくない。
気持ち悪いだなんて、思われたくない。
せめて優馬には、可愛い女の子だと思っていてほしいよ。
TSしたなんて知られて、どんな目で見られるのか。想像したくない。
優馬だけなんだよ。私が好きになった人は。
だから、せめて。せめて異性だと認識されていたい。
「その際に、私はとある力を与えました。願いを叶える能力とでも呼べる力です」
ふふ、もう確定しちゃったね。私が黒幕だって優馬に伝わることは。
でも、男だったと知られないのならそれでいいかな。
嫌われたとしても、少しでも綺麗だと思われたい。
ただ、変な趣味を持っただけの人だと思われたくない。
「私が与えた力で、愛梨はダンジョンという災害を引き起こしました。優馬さん、あなたを英雄にするために」
その通りだよ。
私は優馬の輝く姿を見たかった。
幼い頃、犬から私を助けてくれたみたいに。
でも、間違っていた。本当は、ただ結ばれるだけで良かった。
ああ、過去に戻れたならな。
そうすれば、優馬に告白して、付き合って、やがて結婚して。
今となっては、遥か遠くでしかないんだけどね。
「Sランクダンジョンに向かってください。そこに、全てを終わらせる鍵があります」
Sランクダンジョンを攻略すれば、ダンジョンは終わる。私が終わらせる。そのつもりだった。
だけど、ディアフィレアが言っている意味は違うように思える。
鍵ってなんだろう。私はそんなもの、用意していない。
「優馬さん、ゆっくりと考えてください。スタンピードは、私が起こさせませんから」
ああ、この言い方をされたら、私がスタンピードを起こしたって気づかれちゃったな。
夏鈴を殺すためにモンスターを出現させたのも、バレちゃっただろうな。
これから私は、どうやって優馬と会話すればいいのだろう。
結局のところ、優馬は私を信じてくれなかったな。
いや、全部私が原因なんだけどね。だけど、胸が引き裂かれそうだ。
さっき出会ったばかりの女神を、私より信じてしまうなんて。
でも、私のせいなんだけどね。
優馬を追い詰めて、苦しめて、そんな姿を眺めていた。
私への罰として、優馬に嫌われるというのは有効だよ。
私はもともと、優馬が好きだった。
その気持ちを一番大事にしていれば、それで良かったのにね。
ごめんね、優馬。あなたには謝るよ。
だから、今は顔を合わせられない。
きっと、いま話をしても、何も良いことはないから。
私だって感情的になってしまうはず。
だから、優馬とはいったん離れるよ。
できれば、私が敵になったとしても、好きで居てほしい。
だけど、高望みがすぎるよね。
私の想いは、もう届かない。だから、せめて思い出だけでも。
優馬にもらったロケットを手にとって、犬から助けてもらった頃の写真を入れる。
それから、優馬に別れの手紙を書いた。
次に会うのは、Sランクダンジョンでだね。だから、できるだけ早く来てほしいな。
私と優馬がどうなるにしろ、運命の分かれ目になる日を待っているから。
もし優馬に殺されるのだとしても、私は出会えてよかったと思うよ。
だから、優馬も嬉しいと思っていてくれたらな。なんて、望み過ぎか。
あるいは、優馬と私の最後の邂逅。
その瞬間を、心を整理しながら待っているね。
きっと、優馬はダンジョン問題を解決した英雄になる。
そんなもの、私の本当の願いじゃなかったのにな。
もし最後になるのなら、せめて私の想いを伝えたいよ。
拒絶されるのだとしても、好きだって言いたいよ。
私のことを、どうかいつまでも覚えていてほしい。
仮に私が死んでしまったとしても、永遠に。
優馬、ごめんね。大好きだよ。
ずっと一緒にいてほしいのは、私の本音だったんだよ。
だから、せめて私をあなたの傷にして。
お願いだよ、優馬。私を忘れないでね。どんな未来でも。