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第4話 昏い欲望

 優馬はダンジョンに向かうと決めた。予定通りではあるけれど、心配する気持ちもある。

 もし優馬が死んだら、私も死ぬつもりではある。だって、彼だけがこの世界を生きる意味だから。

 一応、ダンジョンは私の能力で生み出したもの。だから、制御もできる。


 だからといって、殴る時に加減を間違えれば死んでしまうように。

 うっかり優馬を殺してしまうことだって、あるかもしれない。


 その後の世界で、私は何を目標として生きていけば良いのか。

 だから、死ぬのはちょうど良いことだと思う。

 いくらチート能力だからって、死者を生き返らせることはできないはずだから。


 優馬と話し合いをして、彼が死なないように条件を突き詰めていった。

 将来のことなんて、私のチート能力でどうにでもできる。

 だからこそ、休みをしっかり取ってほしいというのが本音だった。


 結局、休日だけダンジョンに向かうことに決めたみたい。

 だから、休みの日にすることは決まっている。優馬を眺めることだ。

 私の願いを叶える能力で、ダンジョンの中は自由に覗ける。

 つまり、優馬の活躍をいくらでも見られるということ。


 優馬は私のために戦っている。だから、きっととてもカッコいい瞬間が多いはず。

 普段はヘタレで情けないだけの人だけど、私を守るときには、全部変わるから。


 素敵な姿を見るために、優馬が向かうダンジョンには、相応の試練を用意するつもりだ。

 初めは、私をかばって噛まれてから怖くなったらしい犬でいこう。

 きっと、恐怖に震えて、それでも立ち上がってくれるはず。ヒーローにふさわしい姿を見せてくれるはず。


 その前に、日常の大切さを教えてあげよう。

 一度私が死ぬかもしれないと感じたからこそ、私との生活に色を感じるはず。


 私だって、大好きな優馬との最後の時間かもしれないから、しっかり楽しむんだ。

 万が一の時には、一緒にあの世に行ってあげるからね。


 学校に通うことで、優馬は私と過ごす時間を味わってくれるはず。

 だから、ダンジョンに挑むための活力になってくれるだろう。

 想い人が、私を好きで居てくれる。とても幸せなことだ。


 間違いなく私と優馬は両想い。もしかしたら、ただ告白するだけで全部うまく行ったのかもしれない。

 でも、もう引き返せないから。引き返すつもりもないから。


 優馬が輝く英雄になる姿を、絶対に見たいんだ。

 子供の頃に、犬からかばってくれたように。

 スタンピードで、スライムから守ってくれたみたいに。


 これから優馬がダンジョンに挑む中で、もっとカッコいい姿だって見られるはず。

 未来に向けてワクワクを感じながら、学校へと優馬を迎えに行く。


「今日も迎えに来たよ、優馬君」


 そう言いながら笑顔を見せると、こちらに見とれているような顔をしてくれる。

 可愛い顔だという自覚はあるけど、優馬の好みだと分かって気分がいい。

 私は間違いなく、優馬のヒロインなんだ。そう思える。


 私達はいつも通りに雑談をしながら、通学路を進んでいく。


「スタンピードの時は、本当にありがとう。優馬君のおかげだよ」


 優馬は顔を真っ赤にしながら、大したことじゃないと返してくる。

 とても素敵だったのにね。同じ状況で同じことができる人間が、何人居ることか。


 私がただの女だったとしても、きっと優馬を好きになっていたと思う。

 それくらいには、彼の勇気は尊いものだったから。

 本当は怖くて、逃げ出したくて、それでも私のために立ち上がった。


 どれほどすごいかなんて、言葉にできないくらい。

 恐怖を知らないわけじゃない。むしろ、人より臆病なくらい。

 それなのに、必死の決意で敵に挑むんだから。


 優馬の覚悟を笑う人間なんて、全員死んでいいよ。

 どうせ、くだらないガラクタなんだからね。

 勝てるかどうか分からない。それを理解して挑む勇気は、最高なんだから。


 例えば、優馬を目の敵にしている刀也なら。

 挑むだけならできるだろう。でも、自分が負けないと思っているだけだから。

 つまるところ、ただの蛮勇でしか無い。汚らわしい感情だよね。


 学校に到着すると、その刀也の話題が出た。


「そういえば、刀也が居ないね」


「居なくても良かったんだけどね。いくらなんでも、私は嫌いだよ」


 確かな本音だ。もっと言えば、死んで欲しい。わざわざ殺すほどの興味はないけれど。

 周囲に嫌われている人間だから、今くらいの発言では周りはなんとも思わない。

 私を好きになっているみたいだけど、身の程知らずにもほどがある。


 優馬は私には同調しない。お優しいことだ。

 ハッキリと死ねばいいって言ってしまえばいいのに。

 それくらいでは、優馬の輝きは薄れないんだから。


 クラスメイトは、私に同意してくれるみたいだけどね。

 まあ、どうでもいいことではある。そこまで興味はないかな。


「刀也のやつもバカよね。愛梨に嫌われてるの、気づいてないんだから」


「私が刀也を好きになることなんて、天地がひっくり返ってもありえないよ」


 私が優馬に出会っていなかったとしても、絶対に好きにはならなかった。

 本当に、どうしようもない小物でしかないから。

 私のために立ち上がることなんて、どう考えてもありえない。


「だよなー。あいつ、ダンジョンに挑んでいるらしいぜ。モンスターにやられればいいのにな」


 全くだよ。わざわざ殺そうとは思わないけど、死んでくれたほうが嬉しいね。


「つまらない嫉妬で、優馬に突っかかるんだものね。余計に嫌われるだけなのに」


「そんなことにも気づかない頭なんだろうさ。俺だって、あいつは嫌いだよ」


「僕も嫌いだけど、死んでほしいとまでは言えないかな」


「優馬君は良い子ちゃんだよね。私は嫌いじゃないけどね」


 むしろ好きだ。でも、もっと敵意くらい持っていてもいいのに。

 攻撃してやってもいいのに。私は、いじめられる優馬をどんな気持ちで見ていたか。

 いっそこの手で刀也を殺したいと思ったときすらあったのに。


 優馬の輝きを奪った、ゴミみたいな存在。結局は、優馬の優しさだったのだろうけれど。

 でも、そんな優しさなんていらない。優馬を傷つける人間なんて、排除してくれて良い。

 私が手を出すことは、きっと望まれない。だから我慢はするけれど。


「ダンジョンに挑むやつは、もう何人も死んだみたいだな。誰か攻略してくれればいいけど」


「そうなのよね。私達にとっても、他人事じゃないっていうか」


「きっと、大丈夫だよ。私達にはヒーローが現れるはずだから」


 優馬が、優馬だけが、ダンジョンを攻略する資格を持っているんだ。

 他の誰かになんて、ヒーローはふさわしくない。仮に強かったとしてもね。

 私が見た輝きは、きっとこれからもっと増していくはずだから。


「近場にSランクダンジョンがあるのが怖いんだよ。何でなんだろうな」


 ただひとつ、優馬の最後の試練として作ったダンジョンが、Sランクダンジョンと呼ばれる。

 ちょうど良い運命だよね。優馬の輝きを、すぐそばから見ていられるのだから。


「言っても仕方ないわよ。幸い、Eランクダンジョンだって近くにある。誰かが慣れてくれるって、期待するしか無いわ」


 優馬のためのダンジョンなんだから、攻略にはちょうど良い形じゃないとね。

 私の手で、しっかりと道筋を作っておいてあげるね。

 優馬だって、運命みたいに思えるはずだから。


「人手が足りないみたいだからね。なかなか難しいとは思うけど」


「私も、待っているしかできないからね。悲しいけれど」


 そして、優馬の活躍をそばで見ているんだ。

 見守られているなんて知らないからこそ、本当の優馬が見られる。


 きっと、弱さだってさらけ出してくれると思う。

 その上で、必死に勇気を絞り出してくれるんだ。


 私を守るために全力な優馬は、とっても素敵。

 だから、どんな些細なことだって見守ってあげるね。


「愛梨に何かあったら、僕は泣いちゃうと思うよ」


「優馬君に何かあったら、私は死ぬよ」


 もう決めたことだから、ちゃんと私を守ってよね。

 私が死んでも、優馬は生きていてくれていいけれど。

 それでも、私を心の奥底に刻んでいてほしいな。


 いつか恋人ができた時にも、ふとした瞬間に私を思い出すくらい。

 自分の幸せの影で、失った私に思いを馳せるくらい。

 私を捨てた優馬なんて、もうカッコよくはないよね。


 そもそもチート能力があるから、私が死ぬことなんて無い。

 私が生きているのに、他の人を選ぶのなら。私は世界を滅ぼすよ。

 優馬が裏切る世界なんて、無い方が良いんだから。


「クッソ重いわね! いくらなんでも言いすぎよ」


 本気で私は死ぬつもりなんだけどね。優馬は冗談だとは思っていないから、別に他の人に誤解されようが構わないけれど。

 ダンジョンで優馬が死んだら、私が殺したようなものなんだから。責任を取るのは当たり前だよ。


「完全に脈がないのに、刀也のやつもよくやるよ」


 本当にね。どこまでバカなんだろうか。自分が嫌われているなんて、少しも理解していない。

 私に好かれるための行動もしないで、どうして私が惚れると思うのだろう。


「僕が死んでも、幸せになってくれたほうが嬉しいけど」


「優馬君だけが、私の幸せなんだよ。スタンピードの時にハッキリしたんだ」


 そして、優馬だけがこの世界に生まれた意味なんだよ。

 私の全ては、優馬のためにある。体も、心も、命も、全部。


「いや、優馬も優馬でおかしいわね。想い人に自分の居ないところで幸せになられてもいいなんて」


 そうだよね。私だって、優馬を私だけのものにできる方が嬉しいよ。

 私の後を追ってほしいとまでは思わないけれど。優馬には、できれば生きていてほしい。


 優馬。私を求めて。恋して。愛して。心の全部を、私のものにして。

 そうすれば、誰よりも幸せにしてあげられるから。願いを叶えるチート能力だってあるんだから。


 英雄になった優馬と、命がけで守った私。その夫婦は、きっと幸福の象徴になるから。


「まあ、割れ鍋に綴じ蓋って感じじゃないか? 良くも悪くもお似合いだよ」


 お似合いって言っているから良いけど。

 優馬を悪く言うのはどうかと思うんだよね。

 だって、この国を救う英雄だよ。誰よりも輝く素敵な人だよ。


「優馬君は、きっと何があっても私を助けてくれるからね」


「その期待に応えられるように、がんばるよ」


 優馬の目には、強い炎が灯っている。いつかのようだ。

 これなら、最初のダンジョンだって期待できる。

 物語のようなヒーローを、きっと見られる。


「お熱いことで。なにか進展でもあったの?」


「あまり茶化してやるなよ。俺が言うのも何だけどさ。こいつらなら、いずれくっつくって分かりきってただろ」


 そうだね。私は優馬が好きで、優馬も私が好き。

 両想いなんだから、結ばれるのは運命に決まっている。

 良いことを言うよね。いざという時は、少しくらい助けてあげてもいいかな。


 それから一日は、いつもより優馬のそばに居た。

 もしかしたら、最後になるかもしれないからね。優馬を私に刻んでおきたかった。

 顔も、声も、仕草も、何もかもを味わい尽くすつもりで。


 そして次の日。優馬はダンジョンに向かう。

 当然、見送りに向かう。私の大切さを、何度でも思い出してもらうために。


「頑張って。逃げてもいいから、無事に帰ってきてね。ヘタレでも良いんだから」


「もちろんだよ。愛梨を死なせる訳にはいかないからね」


「なら、安心だね。優馬君は臆病だから、ちょうど良いよ」


 臆病な優馬だからこそ、ヒーローにふさわしい。

 心の恐怖を乗り越えて、強大な敵に挑むんだから。

 本当に、ヘタレだからこそ大好きなんだ。それでも、私のために立ち上がってくれるから。


「じゃあ、行ってくるよ。必ず帰ってくるから」


「約束だよ。裏切ったら、死んだ後でも呪っちゃうんだからね」


 というか、私も死ぬ。何なら、世界を滅ぼしたって良い。

 だけど、優馬は私の言葉を受けて微笑んだ。応援だと思ったんだろうな。間違ってはいないけれど。

 優馬が死んだら、魂を手に入れられたりしないかな。それなら、私まで死ぬ必要はないんだけどね。


 そして、優馬は私に手を振って去っていく。

 だけど、私の視界には常に優馬がいる。チート能力様々だよね。


 ダンジョンに向かった優馬は、手続きをして門からEランクダンジョンへと入っていく。

 チュートリアルとして用意したダンジョンだ。罠もなければ、厄介なモンスターも居ない。


 それでも、死人が出る程度の難易度ではあるからね。しっかりと頑張ってね。

 心のなかで応援しながら、ワクワクした気持ちで優馬を見る。


 優馬以外の人には、ちょっと普段より危ない目にあってもらう。

 うっかり邪魔をされたら敵わないからね。


 優馬は悲鳴を耳にして、ちょっと悩んでいたみたい。

 だけど、目の前にスライムが現れたことによって、行動は決まったようだ。


 当たり前だよね。私の命だってかかっているんだ。

 優馬は私だって後を追うという言葉を信じている。

 だから、自分の命を簡単には危険にさらせない。


 前回の苦戦から学習したみたいで、効率よくスライムを追い詰めている。

 うんうん。やっぱり良いね。成長は大事なヒーローの素質だよ。


 すぐにスライムは倒されて、優馬は一息つく。

 だけど、先ほどの悲鳴を思い出したみたいで、そちらに向かっていく。もう手遅れなんだけどね。


 現場にたどり着いた優馬は、敵討ちをしてから遺体に手を合わせる。

 やっぱり優しいよね。所詮は他人なんだから、適当でも良いのに。


 流石に死体を連れて帰ろうとはしないみたいだけど。

 それは当然だよね。優馬は私のために生きて帰る覚悟をしている。

 だから、余計な荷物なんて背負っていられないんだから。


 ダンジョンを歩きながら考え事をしている様子の優馬。

 何を迷っているのかは分からないけど、焦りが見える。

 そうだよね。私がスタンピードに巻き込まれたら、終わりだもんね。


 いつ起きるかなんて優馬には分からない。

 もしかしたら、ダンジョンに潜っている間に私が襲われるのかもしれない。

 そんな不安を抱えて戦っているのが、手に取るように分かる。


 優馬の想いを感じるだけで、気分が良くなってきちゃう。

 私のために尽くしてくれて、私で心を一杯にしていて。

 輝くヒーローになれる人が、私だけを想っているんだ。


 ちょっと、上り詰めちゃいそうになっちゃうくらいには良い気持ち。

 優馬は素敵すぎるよね。罪な男だよ。私をメロメロにしちゃって。


 そんな優馬も、弱い心は持っているみたいだね。いや、知っていたんだけどね。


「何をするのが正解なんだろうな……」


 そう、漏れ出したような声で言っていたからね。

 やっぱり、ダンジョンは怖いのだろう。不安でいっぱいなのだろう。

 それでも、私のために戦うしか無いのだろう。素晴らしいよ。


 守るべきものがなければ、震えて待っているだけで良かったのにね。

 私に死んでほしくないから、頑張るしか道がないんだよね。

 ああ、可愛いな。抱きしめてあげたくなる。いっぱい甘やかしてあげたくなる。


 でも、最後の最後までお預けだね。

 優馬のことだから、緊張の糸が切れるきっかけになりそうだし。

 私は英雄になって欲しいだけ。苦難を与えたいわけじゃない。


 だから、優馬がうっかり死んじゃいそうなことはしない。

 輝く姿を見たいのだから、追い詰めることが目的ではないよ。


 優馬は進むことを決めたみたいなので、続けてゴブリンをぶつけていく。

 小汚い緑の小人。当然、弱い。


 戦い方に慣れてもらうための存在だから、人型も用意しないとね。

 モンスターらしいモンスター、武器を持ったモンスター、動物っぽいモンスター。

 色々なバリエーションが有る。それらが、更に優馬を成長させるだろうね。


 実際、武器を相手にしていることを意識した立ち回りをしていた。

 うんうん。しっかりと考えて戦っているね。


 勝つための手段をちゃんと考えて、その上で実行する。

 やはり、優馬は素晴らしい。いくら急いでいても、怯えていても、破れかぶれにならない。

 ヒーローとして、十分な素質だよね。性格以外にも、能力面での適性も高いんだ。


 惚れ直しちゃいそうだよ。本当に、いつまで見ていても飽きないな。

 怯えた顔をしたり、キリッとした表情をしたり、眺め甲斐があるよね。


 結局、大して苦戦せずにゴブリンを倒せたみたい。

 ザコとして用意しているから、あまり苦労していても困るんだけどね。


「よし、順調だ。でも、しっかりと気を張っておかないと。ちゃんと生きて帰るために」


 優馬は私の言葉をしっかり意識しているみたい。

 想い人なんだから、当たり前ではあるんだけどね。

 でも、とても嬉しい。私の居ない所でも、私で一杯になっているのが分かるから。


 それから気合を入れ直した優馬は、どんどん敵を倒していく。

 そして、動きもどんどん良くなっていく。

 いわゆるレベル制に近いシステムを用意したからね。強くなった優馬を見たかったから。


「まさか、ゲームみたいに敵を倒せば成長できるのか……?」


 なんて言う辺り、優馬も気づいたみたいだね。大正解だよ。

 きっと、いずれ優馬は誰よりも強くなる。その瞬間が楽しみだね。


 続けて敵を倒していった優馬は、まただんだん強くなっていく。

 ああ、いいな。成長を見守る瞬間は楽しいよ。


 そのまま優馬は順調に進んでいって、ボスの空間までたどり着いた。

 このダンジョンのボスは、優馬専用なんだよ。

 しっかりと準備をして、調整した存在なんだからね。


 ボス部屋的な場所にするために、結界を用意した。

 他の人に邪魔できないようにするためにね。

 だから、優馬と犬型のボスとの1対1を見ることができる。楽しみだね。


 角の生えた大きい犬だけど、優馬は過去を思い出しているみたい。予定通りだ。

 犬に追いかけられた私をかばって、噛まれた瞬間を。


 今の私は、傷口に塩を塗っているんだろうね。でも、乗り越えてくれるって信じているよ。

 優馬は誰にも負けない、最高のヒーローなんだからね。


 犬型の敵だから、優馬は恐怖に震えている。

 しばらく止まったままだったけど、すぐに目つきが変わる。ああ、カッコいい顔だ。


 決意を込めて、恐怖を克服すると決めた表情だ。

 私のためにダンジョンに挑んで、恐れを乗り越えて。最高すぎるよ。


 優馬を見ているだけで、興奮が抑えきれない。何なら達しちゃいそう。

 ああ、幸せだな。カッコいい優馬をいくらでも見られるなんて。


「今ここで、犬は逃げなくて済む相手にするぞ!」


 バットを構えた優馬は、強い意志を秘めた瞳で敵を睨む。

 モンスターに攻撃されて、攻撃をバットで妨害する。


 噛みつく動きだったのに、冷静に対処できている。

 もう、トラウマなんて乗り越えちゃったのかな。

 それとも、意志の力で必死に抑えているのかな。どちらでも、素敵だよ。


「行くぞ! お前を倒して、過去と決別する!」


 少しだけ、頭が冷えちゃった。

 私を助けてくれたことが、邪魔だったように聞こえてしまったから。


 分かっているよ。優馬は私のために頑張ってくれているんだって。

 だから、また落ち着いた気分で見ることができたけど。

 ほんの少しだけ、胸に棘が刺さったかのような気分だった。


 そのまま順調にボスは倒されて、犬は消えていった。

 必死な顔で敵と戦う優馬も、暴力の興奮に酔っている優馬も、どっちも好きだな。


 力に飲み込まれるところまで行ってしまえば、きっと失望するだろうけれど。

 優馬の頭の中にあるのは、私を守ることだけだから。まず大丈夫だろう。


 これから、優馬はもっと強くなって、もっと輝いて、やがて英雄になる。

 そんな優馬と私が結ばれる瞬間は、どれほど甘美なものだろう。


 幸せだろうな。楽しいだろうな。温かいだろうな。

 想像しただけで、少し震えてしまったよ。


 ねえ、優馬。私はずっと待っているからね。

 だから、幸せな結婚をして、その先まで過ごそうね。

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