優馬はダンジョンに向かうと決めた。予定通りではあるけれど、心配する気持ちもある。
もし優馬が死んだら、私も死ぬつもりではある。だって、彼だけがこの世界を生きる意味だから。
一応、ダンジョンは私の能力で生み出したもの。だから、制御もできる。
だからといって、殴る時に加減を間違えれば死んでしまうように。
うっかり優馬を殺してしまうことだって、あるかもしれない。
その後の世界で、私は何を目標として生きていけば良いのか。
だから、死ぬのはちょうど良いことだと思う。
いくらチート能力だからって、死者を生き返らせることはできないはずだから。
優馬と話し合いをして、彼が死なないように条件を突き詰めていった。
将来のことなんて、私のチート能力でどうにでもできる。
だからこそ、休みをしっかり取ってほしいというのが本音だった。
結局、休日だけダンジョンに向かうことに決めたみたい。
だから、休みの日にすることは決まっている。優馬を眺めることだ。
私の願いを叶える能力で、ダンジョンの中は自由に覗ける。
つまり、優馬の活躍をいくらでも見られるということ。
優馬は私のために戦っている。だから、きっととてもカッコいい瞬間が多いはず。
普段はヘタレで情けないだけの人だけど、私を守るときには、全部変わるから。
素敵な姿を見るために、優馬が向かうダンジョンには、相応の試練を用意するつもりだ。
初めは、私をかばって噛まれてから怖くなったらしい犬でいこう。
きっと、恐怖に震えて、それでも立ち上がってくれるはず。ヒーローにふさわしい姿を見せてくれるはず。
その前に、日常の大切さを教えてあげよう。
一度私が死ぬかもしれないと感じたからこそ、私との生活に色を感じるはず。
私だって、大好きな優馬との最後の時間かもしれないから、しっかり楽しむんだ。
万が一の時には、一緒にあの世に行ってあげるからね。
学校に通うことで、優馬は私と過ごす時間を味わってくれるはず。
だから、ダンジョンに挑むための活力になってくれるだろう。
想い人が、私を好きで居てくれる。とても幸せなことだ。
間違いなく私と優馬は両想い。もしかしたら、ただ告白するだけで全部うまく行ったのかもしれない。
でも、もう引き返せないから。引き返すつもりもないから。
優馬が輝く英雄になる姿を、絶対に見たいんだ。
子供の頃に、犬からかばってくれたように。
スタンピードで、スライムから守ってくれたみたいに。
これから優馬がダンジョンに挑む中で、もっとカッコいい姿だって見られるはず。
未来に向けてワクワクを感じながら、学校へと優馬を迎えに行く。
「今日も迎えに来たよ、優馬君」
そう言いながら笑顔を見せると、こちらに見とれているような顔をしてくれる。
可愛い顔だという自覚はあるけど、優馬の好みだと分かって気分がいい。
私は間違いなく、優馬のヒロインなんだ。そう思える。
私達はいつも通りに雑談をしながら、通学路を進んでいく。
「スタンピードの時は、本当にありがとう。優馬君のおかげだよ」
優馬は顔を真っ赤にしながら、大したことじゃないと返してくる。
とても素敵だったのにね。同じ状況で同じことができる人間が、何人居ることか。
私がただの女だったとしても、きっと優馬を好きになっていたと思う。
それくらいには、彼の勇気は尊いものだったから。
本当は怖くて、逃げ出したくて、それでも私のために立ち上がった。
どれほどすごいかなんて、言葉にできないくらい。
恐怖を知らないわけじゃない。むしろ、人より臆病なくらい。
それなのに、必死の決意で敵に挑むんだから。
優馬の覚悟を笑う人間なんて、全員死んでいいよ。
どうせ、くだらないガラクタなんだからね。
勝てるかどうか分からない。それを理解して挑む勇気は、最高なんだから。
例えば、優馬を目の敵にしている刀也なら。
挑むだけならできるだろう。でも、自分が負けないと思っているだけだから。
つまるところ、ただの蛮勇でしか無い。汚らわしい感情だよね。
学校に到着すると、その刀也の話題が出た。
「そういえば、刀也が居ないね」
「居なくても良かったんだけどね。いくらなんでも、私は嫌いだよ」
確かな本音だ。もっと言えば、死んで欲しい。わざわざ殺すほどの興味はないけれど。
周囲に嫌われている人間だから、今くらいの発言では周りはなんとも思わない。
私を好きになっているみたいだけど、身の程知らずにもほどがある。
優馬は私には同調しない。お優しいことだ。
ハッキリと死ねばいいって言ってしまえばいいのに。
それくらいでは、優馬の輝きは薄れないんだから。
クラスメイトは、私に同意してくれるみたいだけどね。
まあ、どうでもいいことではある。そこまで興味はないかな。
「刀也のやつもバカよね。愛梨に嫌われてるの、気づいてないんだから」
「私が刀也を好きになることなんて、天地がひっくり返ってもありえないよ」
私が優馬に出会っていなかったとしても、絶対に好きにはならなかった。
本当に、どうしようもない小物でしかないから。
私のために立ち上がることなんて、どう考えてもありえない。
「だよなー。あいつ、ダンジョンに挑んでいるらしいぜ。モンスターにやられればいいのにな」
全くだよ。わざわざ殺そうとは思わないけど、死んでくれたほうが嬉しいね。
「つまらない嫉妬で、優馬に突っかかるんだものね。余計に嫌われるだけなのに」
「そんなことにも気づかない頭なんだろうさ。俺だって、あいつは嫌いだよ」
「僕も嫌いだけど、死んでほしいとまでは言えないかな」
「優馬君は良い子ちゃんだよね。私は嫌いじゃないけどね」
むしろ好きだ。でも、もっと敵意くらい持っていてもいいのに。
攻撃してやってもいいのに。私は、いじめられる優馬をどんな気持ちで見ていたか。
いっそこの手で刀也を殺したいと思ったときすらあったのに。
優馬の輝きを奪った、ゴミみたいな存在。結局は、優馬の優しさだったのだろうけれど。
でも、そんな優しさなんていらない。優馬を傷つける人間なんて、排除してくれて良い。
私が手を出すことは、きっと望まれない。だから我慢はするけれど。
「ダンジョンに挑むやつは、もう何人も死んだみたいだな。誰か攻略してくれればいいけど」
「そうなのよね。私達にとっても、他人事じゃないっていうか」
「きっと、大丈夫だよ。私達にはヒーローが現れるはずだから」
優馬が、優馬だけが、ダンジョンを攻略する資格を持っているんだ。
他の誰かになんて、ヒーローはふさわしくない。仮に強かったとしてもね。
私が見た輝きは、きっとこれからもっと増していくはずだから。
「近場にSランクダンジョンがあるのが怖いんだよ。何でなんだろうな」
ただひとつ、優馬の最後の試練として作ったダンジョンが、Sランクダンジョンと呼ばれる。
ちょうど良い運命だよね。優馬の輝きを、すぐそばから見ていられるのだから。
「言っても仕方ないわよ。幸い、Eランクダンジョンだって近くにある。誰かが慣れてくれるって、期待するしか無いわ」
優馬のためのダンジョンなんだから、攻略にはちょうど良い形じゃないとね。
私の手で、しっかりと道筋を作っておいてあげるね。
優馬だって、運命みたいに思えるはずだから。
「人手が足りないみたいだからね。なかなか難しいとは思うけど」
「私も、待っているしかできないからね。悲しいけれど」
そして、優馬の活躍をそばで見ているんだ。
見守られているなんて知らないからこそ、本当の優馬が見られる。
きっと、弱さだってさらけ出してくれると思う。
その上で、必死に勇気を絞り出してくれるんだ。
私を守るために全力な優馬は、とっても素敵。
だから、どんな些細なことだって見守ってあげるね。
「愛梨に何かあったら、僕は泣いちゃうと思うよ」
「優馬君に何かあったら、私は死ぬよ」
もう決めたことだから、ちゃんと私を守ってよね。
私が死んでも、優馬は生きていてくれていいけれど。
それでも、私を心の奥底に刻んでいてほしいな。
いつか恋人ができた時にも、ふとした瞬間に私を思い出すくらい。
自分の幸せの影で、失った私に思いを馳せるくらい。
私を捨てた優馬なんて、もうカッコよくはないよね。
そもそもチート能力があるから、私が死ぬことなんて無い。
私が生きているのに、他の人を選ぶのなら。私は世界を滅ぼすよ。
優馬が裏切る世界なんて、無い方が良いんだから。
「クッソ重いわね! いくらなんでも言いすぎよ」
本気で私は死ぬつもりなんだけどね。優馬は冗談だとは思っていないから、別に他の人に誤解されようが構わないけれど。
ダンジョンで優馬が死んだら、私が殺したようなものなんだから。責任を取るのは当たり前だよ。
「完全に脈がないのに、刀也のやつもよくやるよ」
本当にね。どこまでバカなんだろうか。自分が嫌われているなんて、少しも理解していない。
私に好かれるための行動もしないで、どうして私が惚れると思うのだろう。
「僕が死んでも、幸せになってくれたほうが嬉しいけど」
「優馬君だけが、私の幸せなんだよ。スタンピードの時にハッキリしたんだ」
そして、優馬だけがこの世界に生まれた意味なんだよ。
私の全ては、優馬のためにある。体も、心も、命も、全部。
「いや、優馬も優馬でおかしいわね。想い人に自分の居ないところで幸せになられてもいいなんて」
そうだよね。私だって、優馬を私だけのものにできる方が嬉しいよ。
私の後を追ってほしいとまでは思わないけれど。優馬には、できれば生きていてほしい。
優馬。私を求めて。恋して。愛して。心の全部を、私のものにして。
そうすれば、誰よりも幸せにしてあげられるから。願いを叶えるチート能力だってあるんだから。
英雄になった優馬と、命がけで守った私。その夫婦は、きっと幸福の象徴になるから。
「まあ、割れ鍋に綴じ蓋って感じじゃないか? 良くも悪くもお似合いだよ」
お似合いって言っているから良いけど。
優馬を悪く言うのはどうかと思うんだよね。
だって、この国を救う英雄だよ。誰よりも輝く素敵な人だよ。
「優馬君は、きっと何があっても私を助けてくれるからね」
「その期待に応えられるように、がんばるよ」
優馬の目には、強い炎が灯っている。いつかのようだ。
これなら、最初のダンジョンだって期待できる。
物語のようなヒーローを、きっと見られる。
「お熱いことで。なにか進展でもあったの?」
「あまり茶化してやるなよ。俺が言うのも何だけどさ。こいつらなら、いずれくっつくって分かりきってただろ」
そうだね。私は優馬が好きで、優馬も私が好き。
両想いなんだから、結ばれるのは運命に決まっている。
良いことを言うよね。いざという時は、少しくらい助けてあげてもいいかな。
それから一日は、いつもより優馬のそばに居た。
もしかしたら、最後になるかもしれないからね。優馬を私に刻んでおきたかった。
顔も、声も、仕草も、何もかもを味わい尽くすつもりで。
そして次の日。優馬はダンジョンに向かう。
当然、見送りに向かう。私の大切さを、何度でも思い出してもらうために。
「頑張って。逃げてもいいから、無事に帰ってきてね。ヘタレでも良いんだから」
「もちろんだよ。愛梨を死なせる訳にはいかないからね」
「なら、安心だね。優馬君は臆病だから、ちょうど良いよ」
臆病な優馬だからこそ、ヒーローにふさわしい。
心の恐怖を乗り越えて、強大な敵に挑むんだから。
本当に、ヘタレだからこそ大好きなんだ。それでも、私のために立ち上がってくれるから。
「じゃあ、行ってくるよ。必ず帰ってくるから」
「約束だよ。裏切ったら、死んだ後でも呪っちゃうんだからね」
というか、私も死ぬ。何なら、世界を滅ぼしたって良い。
だけど、優馬は私の言葉を受けて微笑んだ。応援だと思ったんだろうな。間違ってはいないけれど。
優馬が死んだら、魂を手に入れられたりしないかな。それなら、私まで死ぬ必要はないんだけどね。
そして、優馬は私に手を振って去っていく。
だけど、私の視界には常に優馬がいる。チート能力様々だよね。
ダンジョンに向かった優馬は、手続きをして門からEランクダンジョンへと入っていく。
チュートリアルとして用意したダンジョンだ。罠もなければ、厄介なモンスターも居ない。
それでも、死人が出る程度の難易度ではあるからね。しっかりと頑張ってね。
心のなかで応援しながら、ワクワクした気持ちで優馬を見る。
優馬以外の人には、ちょっと普段より危ない目にあってもらう。
うっかり邪魔をされたら敵わないからね。
優馬は悲鳴を耳にして、ちょっと悩んでいたみたい。
だけど、目の前にスライムが現れたことによって、行動は決まったようだ。
当たり前だよね。私の命だってかかっているんだ。
優馬は私だって後を追うという言葉を信じている。
だから、自分の命を簡単には危険にさらせない。
前回の苦戦から学習したみたいで、効率よくスライムを追い詰めている。
うんうん。やっぱり良いね。成長は大事なヒーローの素質だよ。
すぐにスライムは倒されて、優馬は一息つく。
だけど、先ほどの悲鳴を思い出したみたいで、そちらに向かっていく。もう手遅れなんだけどね。
現場にたどり着いた優馬は、敵討ちをしてから遺体に手を合わせる。
やっぱり優しいよね。所詮は他人なんだから、適当でも良いのに。
流石に死体を連れて帰ろうとはしないみたいだけど。
それは当然だよね。優馬は私のために生きて帰る覚悟をしている。
だから、余計な荷物なんて背負っていられないんだから。
ダンジョンを歩きながら考え事をしている様子の優馬。
何を迷っているのかは分からないけど、焦りが見える。
そうだよね。私がスタンピードに巻き込まれたら、終わりだもんね。
いつ起きるかなんて優馬には分からない。
もしかしたら、ダンジョンに潜っている間に私が襲われるのかもしれない。
そんな不安を抱えて戦っているのが、手に取るように分かる。
優馬の想いを感じるだけで、気分が良くなってきちゃう。
私のために尽くしてくれて、私で心を一杯にしていて。
輝くヒーローになれる人が、私だけを想っているんだ。
ちょっと、上り詰めちゃいそうになっちゃうくらいには良い気持ち。
優馬は素敵すぎるよね。罪な男だよ。私をメロメロにしちゃって。
そんな優馬も、弱い心は持っているみたいだね。いや、知っていたんだけどね。
「何をするのが正解なんだろうな……」
そう、漏れ出したような声で言っていたからね。
やっぱり、ダンジョンは怖いのだろう。不安でいっぱいなのだろう。
それでも、私のために戦うしか無いのだろう。素晴らしいよ。
守るべきものがなければ、震えて待っているだけで良かったのにね。
私に死んでほしくないから、頑張るしか道がないんだよね。
ああ、可愛いな。抱きしめてあげたくなる。いっぱい甘やかしてあげたくなる。
でも、最後の最後までお預けだね。
優馬のことだから、緊張の糸が切れるきっかけになりそうだし。
私は英雄になって欲しいだけ。苦難を与えたいわけじゃない。
だから、優馬がうっかり死んじゃいそうなことはしない。
輝く姿を見たいのだから、追い詰めることが目的ではないよ。
優馬は進むことを決めたみたいなので、続けてゴブリンをぶつけていく。
小汚い緑の小人。当然、弱い。
戦い方に慣れてもらうための存在だから、人型も用意しないとね。
モンスターらしいモンスター、武器を持ったモンスター、動物っぽいモンスター。
色々なバリエーションが有る。それらが、更に優馬を成長させるだろうね。
実際、武器を相手にしていることを意識した立ち回りをしていた。
うんうん。しっかりと考えて戦っているね。
勝つための手段をちゃんと考えて、その上で実行する。
やはり、優馬は素晴らしい。いくら急いでいても、怯えていても、破れかぶれにならない。
ヒーローとして、十分な素質だよね。性格以外にも、能力面での適性も高いんだ。
惚れ直しちゃいそうだよ。本当に、いつまで見ていても飽きないな。
怯えた顔をしたり、キリッとした表情をしたり、眺め甲斐があるよね。
結局、大して苦戦せずにゴブリンを倒せたみたい。
ザコとして用意しているから、あまり苦労していても困るんだけどね。
「よし、順調だ。でも、しっかりと気を張っておかないと。ちゃんと生きて帰るために」
優馬は私の言葉をしっかり意識しているみたい。
想い人なんだから、当たり前ではあるんだけどね。
でも、とても嬉しい。私の居ない所でも、私で一杯になっているのが分かるから。
それから気合を入れ直した優馬は、どんどん敵を倒していく。
そして、動きもどんどん良くなっていく。
いわゆるレベル制に近いシステムを用意したからね。強くなった優馬を見たかったから。
「まさか、ゲームみたいに敵を倒せば成長できるのか……?」
なんて言う辺り、優馬も気づいたみたいだね。大正解だよ。
きっと、いずれ優馬は誰よりも強くなる。その瞬間が楽しみだね。
続けて敵を倒していった優馬は、まただんだん強くなっていく。
ああ、いいな。成長を見守る瞬間は楽しいよ。
そのまま優馬は順調に進んでいって、ボスの空間までたどり着いた。
このダンジョンのボスは、優馬専用なんだよ。
しっかりと準備をして、調整した存在なんだからね。
ボス部屋的な場所にするために、結界を用意した。
他の人に邪魔できないようにするためにね。
だから、優馬と犬型のボスとの1対1を見ることができる。楽しみだね。
角の生えた大きい犬だけど、優馬は過去を思い出しているみたい。予定通りだ。
犬に追いかけられた私をかばって、噛まれた瞬間を。
今の私は、傷口に塩を塗っているんだろうね。でも、乗り越えてくれるって信じているよ。
優馬は誰にも負けない、最高のヒーローなんだからね。
犬型の敵だから、優馬は恐怖に震えている。
しばらく止まったままだったけど、すぐに目つきが変わる。ああ、カッコいい顔だ。
決意を込めて、恐怖を克服すると決めた表情だ。
私のためにダンジョンに挑んで、恐れを乗り越えて。最高すぎるよ。
優馬を見ているだけで、興奮が抑えきれない。何なら達しちゃいそう。
ああ、幸せだな。カッコいい優馬をいくらでも見られるなんて。
「今ここで、犬は逃げなくて済む相手にするぞ!」
バットを構えた優馬は、強い意志を秘めた瞳で敵を睨む。
モンスターに攻撃されて、攻撃をバットで妨害する。
噛みつく動きだったのに、冷静に対処できている。
もう、トラウマなんて乗り越えちゃったのかな。
それとも、意志の力で必死に抑えているのかな。どちらでも、素敵だよ。
「行くぞ! お前を倒して、過去と決別する!」
少しだけ、頭が冷えちゃった。
私を助けてくれたことが、邪魔だったように聞こえてしまったから。
分かっているよ。優馬は私のために頑張ってくれているんだって。
だから、また落ち着いた気分で見ることができたけど。
ほんの少しだけ、胸に棘が刺さったかのような気分だった。
そのまま順調にボスは倒されて、犬は消えていった。
必死な顔で敵と戦う優馬も、暴力の興奮に酔っている優馬も、どっちも好きだな。
力に飲み込まれるところまで行ってしまえば、きっと失望するだろうけれど。
優馬の頭の中にあるのは、私を守ることだけだから。まず大丈夫だろう。
これから、優馬はもっと強くなって、もっと輝いて、やがて英雄になる。
そんな優馬と私が結ばれる瞬間は、どれほど甘美なものだろう。
幸せだろうな。楽しいだろうな。温かいだろうな。
想像しただけで、少し震えてしまったよ。
ねえ、優馬。私はずっと待っているからね。
だから、幸せな結婚をして、その先まで過ごそうね。