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第5話 北の異民族(2)

「さて、これからの話をしましょうか」


 ある程度場が馴染み、ユリエルは気を引き締めた。それに、残っている全員が厳しい顔に戻ったのである。

 場が引き締まる。その中で真っ先に口を開いたのは、意外にもファルハードだった。


「けどよ、こっから先となると港だろ? 何があるってんだ?」


 相変わらず胡坐をかいてどっかりと座っているファルハードが、行儀悪く肘をついて言う。それにユリエルは笑みを浮かべて頷いた。


「その港に用があるのですよ」

「ってーと?」

「そこに居る海賊に用事があるのです」

「もしかして、俺達にしたのと同じことをするつもりじゃないよね、殿下?」


 目を丸くして問うアルクースに、ユリエルは妖艶な笑みで「えぇ」とだけ答えた。だが、返ってきたアルクースの瞳はとても厳しいものだった。


「まさか、戦力これだけなんて言わないよね?」

「これだけですよ」

「無謀すぎる! あちらは武装中型船だよ! しかも、船団だって噂だ!」


 声を荒げて無謀さを訴えるアルクースに、ユリエルの方が目を丸くする。意外なところから情報が出てきたからだ。


「何か知っているのですか?」

「……襲う相手は大抵商人だからね、話は聞いてる。相手は二隻からなる武装中型船団。最初に先鋒が接舷して、船を占拠。その後から来る船は荷を積みこむ用っぽい。大型船を襲う時は先に砲撃戦を仕掛ける事もあるみたいだよ」

「これはまた、いい情報を貰いました」

「まさか本当にこれだけの人数で挑むつもりなの? 無謀もいいところだよ」

「少数精鋭ってやつかな? 俺も姐さんも強いよ」

「数の優位はそう簡単に覆らないよ」


 落胆したようにがっくりと肩を落とすアルクースは、次にキッとファルハードを睨む。その視線にビクッとなったファルハードにビシッと指を突きつけて、アルクースは厳しい声を上げた。


「お頭はここに残って。この人達には俺がついていく」

「え、だってお前……」

「冷静に状況判断できる人間じゃないと邪魔。その点、お頭は無理。短気で短慮なんだから、絶対に迷惑かける」

「お前、そんな言い方」

「だって、本当じゃないか」


 そこまで言われると反論の余地がないらしい。ファルハードは数回口をパクパクさせたが、次には諦めたように項垂れた。


「誰が頭か分からない二人だね」

「ファルハードの人柄が大事なのですよ。どんなに欠点のある人間でも、妙に人を引き付ける者はいるものです。そういう者が上に立つほうが、組織はまとまるのかもしれません」


 笑いながら話す二人はそれが円満な組織図だと妙に納得した。


「アルクース、ついてきてくれますか?」

「いいよ。でも、お頭はここに置いていってもらう」

「そのつもりです。こちらからも一人ファルハードに同行させます。誰か……」


 ついてきた仲間を見回すと、一番若い給仕をしていた兵が手を上げる。少し恥ずかしそうだが、手を上げた事には躊躇いがない様子だった。


「僕が残ります。この中では一番実力が足りませんし、足手まといになりたくはありません」

「足手まといだとは思っていませんよ」

「いいえ、僕はまだ力不足です。だから今は、ここに残ります」


 そこは揺らぎがないらしい。ユリエルはしばし考えて頷いた。


「それでは、貴方には違う仕事をお願いします。シャスタ族の所に行って、人数と現状を調べておいてください。彼らの求めるものも、現状の問題なども感じたままに伝えてください。お願いします」

「はい、お任せください」

「んじゃ、俺はこれで帰ってよさそうだな。無事終わったら寄りな。場所はアルクースが知ってる」


 しっかりと礼をした若い兵を率いて、ファルハードは立ち上がる。そして、自分の拳で左の胸をドンと叩き、それをユリエルに差し出す。ユリエルも立ち上がり、同じようにして拳を合わせた。


「天と地と精霊の加護が、御身にあるように」

「有難うございます」


 ニッと野性的な笑みを見せ、ファルハードはそのまま去っていく。その背を見送ってユリエルは笑った。随分と気持ちのいい者を得たことに満足していた。


「うちのお頭、魅力的でしょ?」

「まったく、気持ちのいい奴ですね。私が実に卑小に思えます」

「度量の大きさだけで人を束ねているんだろうね、彼」

「否定はしないかな。正直頭は弱いし、勢いと感情が先行する脳筋な人だけどさ。それでも絶対に仲間を裏切らないし、筋は通す。感情のままに泣いたり笑ったり怒ったり。でも、だからこそ放っておけないし、ついて行こうと思えるんだよ」


 とても誇らしげにアルクースは言う。その表情からは本当にファルハードに対する信頼が見えた。

 それに対してユリエルは苦笑する。正直、ファルハードのような人心の集め方はユリエルにはできない。感情のままに振る舞う事も。それほど直情的な人間にはなれない。

 人間性のみで人を引き付けることはできないが、それを羨んではいない。ユリエルにはユリエルの方法がある。そしてその方法を、ユリエルは熟知していた。


「さて、随分夜更かしをしてしまいました。今日はもう休みましょう。明日からまた、忙しくなりますよ」


 ユリエルの言葉で、その場は落ち着きを取り戻していく。だがその心は皆、沢山の思いで複雑だった。

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