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9話 思いを残し

 その頃ユリエルは門を出て、数キロ先の村へと戻った。そこで綺麗に髪を水で流し、着替えてから隠しておいたローランに鞍をつける。

 髪は特殊な染め粉で色を変えた。幸いユリエルの銀の髪は色が定着しやすく、綺麗に染まる。湯で洗えば綺麗に落ちるが、水でも十分色を落とせるものだ。

 ローランを連れて村を出ようとすると、その出口で困った笑みを浮かべたクレメンスが待っていた。


「律義者ですね」

「そりゃ、主が突然消えれば探しますよ」


 苦笑はするが責めるわけではない。そういう所がクレメンスという男の付き合いやすさだ。これがグリフィスならばきっと凄い剣幕で怒るだろう。


「王都の様子はどうでしたか?」


 共に馬に乗って聖ローレンス砦へと戻る道中、クレメンスは問う。それに、ユリエルは厳しい顔をした。


「街に被害はありません。民の生活にも大きな変化は感じませんでした。それでもやはり、灯が消えたように静かでした。皆、怯えてはいるようです」


 表面上は穏やか。だが、やはり不安は拭えないのだろう。どこか人の目を避けるように生活する人々を見ると、気持ちを新たにしなければならなかった。


「できるだけ急いで取り戻さなければなりませんな、殿下」

「えぇ」


 ユリエルは瞳を閉じて溜息をつく。

 だがふと、その瞼に映った人の姿にユリエルは小さく笑みを浮かべた。


「どうしました?」

「今日、夜と出会ったのですよ」


 夜のように穏やかで、星のような瞳を持つ優しい人。ふと心を温めて包む、そんな不思議な感覚をくれる人。


「私の双子星、また会いましょう」


 隣のクレメンスは不思議そうに首を傾げたが、小さく残したユリエルはそれ以上何も言わず、馬の腹を蹴った。


【1章完 2章へ】

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