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月は夜に抱かれて
凪瀬夜霧
BLファンタジーBL
2024年10月13日
公開日
74,059文字
連載中
毎週木・土・日更新予定!
建国の夜、詩人が語る物語。それは統一王国樹立の裏で愛し合った二人の王の愛の物語。
タニス王太子ユリエルは不遇の王太子だった。王は聡明なユリエルを嫌ったのだ。そうして王都を追われた直後、タニス王都は戦火に包まれる。
敵国ルルエに落ちた王都を詩人に扮して訪れたユリエルの前に、黒衣の旅人が現れる。
二人はどこか引かれ合うものを感じ、言葉を交わし、徐々に思い合うようになっていく。
まさか相手が、敵国の王であるとも知らずに。
敵国の王同士、知らず愛した二人が目指したのは争いの終結と統一王国の樹立。それは困難極まりない道のりであった。

他サイトにも掲載しております作品をネオページ用にアレンジしております。
よろしければご覧ください。

第1話 詩人

 街の広場では、大きな祭壇に赤々と火が燃え上がる。

 一列に並んだ人々は手に花を持ってその炎へと捧げている。

 コバルトの空を染める赤い炎は人々の献花の度に一瞬揺らめき、パチンと赤い鱗粉を放った。

 広場の周囲と、そこへ続く大きな道は祭りのような賑わいだ。行商が道端に品を並べ、酒屋では飲めや歌えの大騒ぎ。この日ばかりは子供も遅くまで起きる事を許され、露店の菓子や食べ物を手にはしゃいでいる。


 広場の中央にある噴水に、一人の青年が腰を下ろした。白い薄手の、肌の見える衣服を身に着け、胸元には旅人のお守りを下げている。

 青年は噴水から目の前の祭壇を見ていた。人々の列と、捧げられた花によって音を立てて揺らめく炎を見ながらジェードの瞳を細める。そして、手にした竪琴の弦を弾いた。


「二王並び立つことはなく

 夜を失った月は涙にくれる

 夜よ、どうか願わくば

 昇る空を失った月を導き給え」


 喧騒に溶ける事のない美しい声と竪琴の音色に、周囲の人々は足を止めた。

 近づいてきた子供たちが無邪気な笑みで青年を見上げる。


「詩人さん、さっきの詩はなに?」

「この国の王様に捧げられた詩ですよ」


 青年は柔らかい口調で子供達に言った。その間にも竪琴の弦を爪弾きながら。


「王様?」


 子供たちは不思議そうだった。その様子に、青年はふわりと笑みを見せる。まるで天使のような笑みだ。


「今日が何の日か、知っていますか?」

「知ってるよ! 国が出来た日でしょ」

「そう。二つに分かれていた国が一つとなった記念すべき日です。けれど、国が一つとなるには沢山の悲しい出来事もあったのですよ」


 子供たちは疑問そうに首を傾げる。だが、大人たちはそれぞれに複雑な顔をしている。そんな人々を前に、青年はやんわりと笑いかけた。


「まぁ、お座りなさい。教えてあげましょう、今日という日を迎えるまでの、苦しく長い戦いの物語を。そして、二つの国の王の、深い愛の物語を」


 青年の声が静かに響く。物語を詠う詩人の前には、いつの間にか沢山の人々が集まっていた。

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