――蘭華と門番達の
二人とも二十代半ばくらいであろうか?
一人は
もう一人も背は高いがすらりと細く、深い青の瞳が涼やかな青年だ。白銀の長髪をたなびかせ、女と見紛う程の白皙の美しい青年である。だが、見た目と違い藍染めの衣の下に隠れた身体は、しっかりと筋肉で引き締まっていた。
彼の特質すべき点は腰に宝飾のある剣を帯び、高価な
この美青年がやんごとなき貴人であるのは間違いない。
「
「馬鹿者、そんな大声を出すな」
「も、申し訳ございません」
「それでなくとも
どうやら大柄な青年は
「それで、どうした?」
「何故に
刀夜と呼ばれたこの美青年は日輪の国の第五皇子である。とある事件の調査の為、直臣である夏琴を伴い月門の邑へと向かっているところだった。
「皇子と言っても俺は五番目だ」
日輪の国には他にも第一皇子の
「どうせ帝位は
その中でも第一皇子の泰然は品行方正な人物であり、次代の
「俺は兄上を補佐できれば良い」
泰然以外は刀夜より歳下なのだが、生みの母の身分が低い為に彼の序列が最も低い。
「それに、俺が授かった
千剣之仙は比類なき剣才を与える強力な
また、刀夜自身も剣を好む性分で、権謀術数の渦巻く宮中は息苦しい。いずれ臣籍降下して軍部に入ろうと考えていた。
「夏琴だって人格者である兄上が帝になった方が民の為だと思わないか?」
そう言って刀夜はからりと笑う。
「
だが、夏琴は釈然としない。
刀夜は
そんな傑物である自分の主人を夏琴は誇りに思っている。だから、泰然はともかく他の三人の皇子の下に刀夜が置かれているのが我慢ならない。
「刀夜様は悔しいとは思われないのですか?」
「二位だろうと五位だろうと帝位に着かないならどちらも同じだ」
「それはそうなのですが……」
「お前の心配も分からんでもないが」
言葉にこそしないが、夏琴の不満や不安は刀夜にも理解できる。
まだ幼い第四皇子の秀英は問題ない。だが、第二皇子の聆文と第三皇子の瑞燕の周囲には貴族の利権を守ろうとする者達が集まっていた。
それら蜜に群がる羽虫の駆除を行っているのが泰然である。
だから、泰然の即位を望まぬ者も少なくない。今回の件も泰然の失脚を目論む聆文か瑞燕の仕業に違いないと睨んでいる。
「だからこそ内々に今回の件を処理しなければならん」
珍しく刀夜の顔が苦々しくなった。
「十二獣の一柱が行方不明だなどと知られては
十二獣とは日輪の国を守護する十二体の霊獣である。
その内、宮中に巣食う
事が公になれば守護霊獣が帝を見限ったと思われかねない。秘密裏に捜索されたが行方は一向に判明しなかった。
ところが先日、
それも最悪の形で――
「帝を守護する霊獣が人を襲ったとなれば一大事」
虎の
「しかも場所が問題だ」
月門の邑は泰然の直轄だ。場合によっては窮奇が姿を消した責任さえも泰然が取らされかねない。
「このままでは泰然兄上の責任が問われかねないだろう」
皇位継承権の順位が変わる可能性さえある。
「最悪、
性は酷薄無情、自らの小知を以て他者を見下し、
聆文が帝座に就けば民は苛政で苦しむのは必定。
国内が
「
聆文が帝となって君臨する姿を想像して夏琴が顔を
「まさか今回の件は聆文様が裏で糸を引いているのでは?」
「滅多な事を申すな。お前はそれでなくとも声が大きいのだ」
何処で聞き耳を立てられているか分からない。他者を貶める言動は後々に攻撃の材料にされるかもしれない。
「も、申し訳ありません」
「お前の言いたい事も分からないではないが……」
聆文は無用に権謀術数を好む癖がある。それを知るだけに、窮奇の失踪から月門の邑での
(口惜しいが証拠がない以上は糾弾もできん)
それに今回の事件に関わっていないとしても、帝位を狙っている野心家の聆文が泰然の失脚を目論んでいるのは間違いない。
泰然を帝にしたい刀夜にとって、聆文はいずれ排除せねばならない政敵なのだ。
「とにかく犯人が誰であれ泰然兄上の
「しかし、泰然様は
「分からん」
それは刀夜も疑問だった。
「兄上にも何かお考えがあるのだろうが……」