日輪の国は『常夜の森』と呼ばれる大森林に囲まれている。途方もなく広大な森の中央部を大きく繰り抜き、その輪っかの中にすっぽりと国が収まっていると連想するのが近い。
しかし、この森には人に仇なす
また、日輪の国を中心に、森を切り拓いた大道が真っ直ぐと四方へと伸びている。それぞれ、東は大海に面したこの国唯一の
東海の
それらに繋がる四つの大道が、日輪の国の流通の要であり生命線と言っても過言ではない。故に、道の両側も結界が張られ
その大道のうち北の月の国へと伸びる街道沿いの森から、美しい
「森から出るのも久しぶりね」
蘭華は
「眩しい……」
木々が
「前に
「僕も荷を運ぶから~、今度はもっと長く篭れるくらい買い込もうよ~」
蘭華に語り掛けたのは、足元に纏わりつく真っ白な猫と蘭華の頭の上に乗る羽つきの兎。白虎の芍薬と羽兎の百合である。
「百合では大して役に立つまい」
「僕だって頑張れば出来るさ~」
百合が胸を反らして主張したが、無理無理と芍薬は
「我が本来の姿に戻って運ぶから任せておけ」
「芍薬が本性を晒したら
芍薬は自信満々に胸を張ったが、蘭華は苦笑いして思い止まらせた。
「お主らが張り切ると
顔が竜の赤い馬、
「
「ありがとう牡丹」
「ふふふ、妾は頼りになるであろう?」
「ええ、まったく」
使い魔である彼らは主人の蘭華には喜んでもらいたいのだ。
(三人はいつも私を慮ってくれている)
彼らはいつだって蘭華を一番に考えてくれている。そんな自分の霊獣達の思いやりに、蘭華の心は温かくなった。
何故か
それから蘭華らが
常夜の森は大海の如く広い。その全てに結界を張るのは不可能であるし、定期的に手入れの出来ない部分には綻びも生じる。そんな結界の隙をついて国内に
実際、年に数件ほど日輪の国では
その為、
特に他国へと繋がる四方へ連なる大道の宿場町は交通の生命線。人が少ない
蘭華達の前に現れた城郭に囲まれているのは
そこは日輪の国から月の国へ伸びる大道の入り口にある交通の要所で、人口千人程のこの辺りでは一番の
常夜の森の近くに立地していることもあり、城郭はかなり高く頑丈に造られている。
「相変わらず物々しい所よ」
「人は
普通の人は蘭華のように強力な魔術を使えなければ強大な霊獣に守られてもいない。
「城郭で守られていない場所では生きていけないのよ」
「それなら何故こんな常夜の森のど真ん中に国を築いたんだ?」
全く我には理解不能だと芍薬は呆れた。
数百年前、外敵の脅威に晒されていた民がいた。亡国の危機に一人の若者が立ち上がり、常夜の森を切り拓いた。そして、常夜の森を防波堤に民を守って国を興したというのが、日輪の国の建国神話だ。
「だから、この国は
「やはり良く分からん」
霊獣である白虎には人間の心情が不可解極まりない。
「それは何百年も前の話であろう。既に外敵もないのだから別の土地へ移れば良かろう」
「土地に根ざした人間はそう簡単に移動できないものなのよ」
「一度は移り住んだではないか。一度も二度も変わらないだろう?」
蘭華の説明にも芍薬はどうにも納得してくれない。
「人とは何とも理屈に合わぬ不合理な生き物よ」
「
「種により都合はあるものじゃ。己の狭い理屈だけで判断するでない」
「むぅ」
少し不満げな様子を見せながらも芍薬は耳を横に垂れて引き下がった。どうやら芍薬は牡丹に頭が上がらないようだ。
霊格は
そんな二人の関係に蘭華は
「ねぇねぇ、何だか
突然、百合が飛び立ち前方に注意を促した。
「ふむ、確かに人
「何ぞ事件かえ?」
羽兎は力の弱い霊獣であるが、それだけに色々な感覚が優れている。視覚もその一つで、これに関しては芍薬や牡丹も敵わない。
「なんかこっちを指さしているよ」
「ああ、我にも見えた」
「こちらへ向かってくるようじゃ」
ふいに蘭華の胸が騒つく。
どうにも嫌な予感がする。
「来たな常夜の魔女!」
やって来たのは剣や槍で武装した十人程の男達。
そして、何故か蘭華に怒りの形相を向けてきた。
「よくものこのこ姿を現せたものだな」
「貴様の悪事もここまでだ」
しかも、あろう事か彼らはその矛先を蘭華へ向けてきたのだった。