「も、もちろんですわ。私はエーリック様をお慕いしておりますもの」
副音声で(のもたらしてくれる富)と入るが嘘は言ってない。
「ふふふ、今のは嘘くさぁい」
「もう!」
「ごめん、ごめん」
プイッとウェルシェはむくれてそっぽを向く。
キャロルが笑いながら謝罪すると、ウェルシェは横を向いたまま横目で彼女をチラッと見るとため息をついた。
「キャロル、私はエーリック様をお慕いしておりますし、ケヴィン様を好きになるなど絶対にあり得ませんわ」
「ごめんって、もう
「いいえ、この際だからはっきりとさせておきますわ!」
うわぁ、ウェルシェのスイッチ入れちゃったとキャロルの笑いが引き攣った。
「エーリック様を頼りないと仰るけれど、あの方は努力を怠ってはおりませんわ」
「私は頼りないとまでは言ってないんだけど……」
「才能や能力の多寡よりも、そのひたむきな姿勢こそ尊敬に値すると思いますの」
「聞いてないし……」
「それに引き換えケヴィン様は才能も能力もないのに努力をしようともしない。それなのに自尊心ばかり強くって」
ウェルシェは自分の能力に自信がある。だから自信家であること自体は悪いとは思っていない。
だが、自信とは己の才能と能力、それを下支えする努力あってのものだとも考えている。当然ウェルシェは努力を怠ってはいない。
だが、ケヴィンの自信にはまったく根拠がない。彼は才能も能力も無いのに実家の権力を頼っただけで努力をしない自尊心だけが強い顔だけヤローなのである。
「何故ケヴィン様はご自分が選ばれて当然といった口ぶりで迫ってくるのか……本当に生理的に受け付けられませんわ」
世の女性は自分が声をかければ靡くのだとケヴィンは思い上がっているとしか思えない。
「まあ、何度断っても自分に惚れない女はいないから恥ずかしがっているだけだろうと言ってるところは頭がおかしいんじゃない?って私もドン引きしてるけどね」
「国王の権力を笠にエーリック様の婚約者に無理矢理されて、僕の愛が受けられない可哀想な姫よ、などとも言われましたわ」
「あ〜言いそう言いそう」
キャロルはケヴィンの日頃の言動を思い浮かべながらうんうんと相槌を打った。
「ケヴィン様はご自分は次期国王の側近だから、エーリック様よりも偉いと勘違いして増長しているのですわ」
合理的に考えて理解の及ばないケヴィンという男をウェルシェは生理的に受け付けられない。
「エーリック殿下も王族だし、将来はウェルシェと結婚してグロラッハ公爵になるのにね」
「研鑽を積まずにご自分の実家の権威やオーウェン殿下の側近である立場に胡座をかいて……まさに虎の威を借るなんとやらですわ」
「ホントにねぇ……まっ、キツネはもっと可愛げがあるけど」
キャロルがヒョイヒョイっと顔の前で指を走らせると空中に光で絵が描かれていく。
魔術の応用で宙に絵を描く表現魔術の一種だ。
キャロルは芸術センスがあるようで、この表現魔術を得意としていた。何でも卒なくこなすと思われているウェルシェだったが、実は美術センスは壊滅的である。それだけに彼女は自分には使用できないキャロルの表現魔術を見るのが大好きだった。
「まあ! これはケヴィン様ですか?」
ウェルシェよキャロルの間に光のアートが浮かび上がったが、それはマンガチックな似顔絵で、ケヴィンの特徴をよく掴んでいた。
「似てる似てる、凄いわ!」
「ふふふ」
手を叩いて喜ぶウェルシェの姿に気を良くしたキャロルは、その絵にヒゲとケモ耳を更に足した。
「ぷっ!」
「あら? 意外に可愛かったわね」
ケヴィンの似顔絵にいたずら描きしてキツネにしたのだ。だがデフォルメだったせいで思ったより愛らしくなったのが
「実物はこんなに可愛い気はありませんわよ?」
「まあね……オーウェン殿下もあんなのをよく側近にしたものよね」
キャロルの呆れにウェルシェもまったくだと思う。
「そう言えばキャロルの婚約者もオーウェン殿下の側近でしたわよね?」
「えっ、あっ、うん……そう、キーノン伯爵のところのクラインよ」
突然キャロルの歯切れが悪くなり、顔が曇ったのでウェルシェは訝しんだ。
「キャロルの婚約者は幼馴染で仲が良いと伺っておりましたが」
「まあ、子供の頃はよく一緒に遊んでたし、それなりに……ね」
「何かありましたの?」
「えーとねぇ、今はその、あいつは絶賛浮気中なのよ」
あははは、と渇いた笑いを浮かべるキャロル。
「浮気中って……それ笑い事ではないですわ」
「もう諦めたわ」
「キャロルはそれで良いのですか?」
「仕方ないわ。あいつの好みはふわふわした可愛い
あんなね、とキャロルは教室の窓から中庭の方へ目を向けた。それに釣られてウェルシェもそちらに顔を向ければ、視線の先はふわっとした
ウェルシェはベンチに腰掛ける愛らしい少女を見て、驚きで目を大きく見開いて絶句したのだった。