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第7話 そのランキング、本当に必要ですか?


「お申し出はありがたいのですが……」


 ウェルシェがたおやかに微笑むと目の前の貴族令息は息を飲んだ。それはまさに幻想的な妖精の笑貌で、見惚れて言葉を失ったのである。


「私には婚約者がおりますの。もう声をかけてくるのはお止めいただけません?」


 だが、その愛らしい口から紡がれたのは拒絶の言葉。


「ま、待ってくれ。あんな婚約者よりも俺の方がよっぽど……」

?」


 突き放されて慌てた令息の失言に、ウェルシェの笑顔と声の温度が一気に氷点下へと下がる。


「私の婚約者は第二王子のエーリック様ですわよ?」


 ご存じですよね、とウェルシェが念を押せばさすがに令息は自分の迂闊さに気がついた。


「い、いや、今のは言葉のあやで!」

「あなたは王家に対して叛意をお持ちのようですわね」


 このこと周知してもとのウェルシェの恫喝に令息は青くなって逃げだした。その背中を見送りながらウェルシェの可愛らしいピンクの唇の間からため息が漏れる。


「どうしてあの方達はしつこく誘ってこられるのかしら?」


 今の少年だけではなく、他にも多数の令息から相変わらずウェルシェは言い寄られていた。


「ウェルシェは美人だし、グロラッハ侯爵家との縁は魅力的だからじゃない?」


 そう答えたのは、ウェルシェが学園で初めて作った友人のキャロル・フレンド伯爵令嬢である。


 キャロルは特別美人ではない。だが、栗毛色のくせっ毛に琥珀色の瞳を持つ彼女はとても愛嬌があって親しみやすい。


 そんな裏表の少なそうなクラスメートは最初からウェルシェに気安く接してくれたので、彼女と仲良くなるのに時間はそうかからなかった。


「ですけど、私にはエーリック様という婚約者がおりますわ。だから、殿方のお誘いは受けられないと申し上げていますのに」


 ウェルシェは自分が結婚相手として垂涎すいぜんものであるとの自覚はある。それでも婚約者がいると宣言すれば言い寄られる事もないだろうと考えていた。


 だが、何故かいくら断っても諦めない者達が少なからずいるのだ。婚約者のいる令嬢を口説こうとする彼らの思考がウェルシェにはどうにも不可解でならない。


「ウェルシェほどの好条件だもの。多少の無理は承知の上なんでしょ」

「私の婚約者は第二王子のエーリック様ですよ。王家を敵に回すおつもりですか!?」


 キャロルの推測はリスクとベネフィットが釣り合わない。損得勘定と合理的思考が基本のウェルシェはいよいよ混乱した。


「それほどウェルシェが魅力的なのよ。なんせマルトニア学園3大美少女の一角なんだから」


 入学早々、ウェルシェは学園の話題を掻っ攫った。


 一年に儚げな妖精の如き絶世の美少女が入ってきたと……


 おかげで入学式以来、ウェルシェは『妖精姫』とか『白銀の妖精』とか噂されている。今ではマルトニア学園三大美少女などと訳の分からない分類にカテゴライズされていた。


「それなら、なぜイーリヤ・ニルゲ様には誰も言い寄らないんですの?」

「ああ、イーリヤ様かぁ」


 一学年上のイーリヤ・ニルゲ公爵令嬢もマルトニア学園三大美少女の一人である。


「イーリヤ様はとてもお美しい方ですし、文武共に秀でた才女でもありますわ」


 しかも、魔力量は学園歴代トップであり、魔術の腕もかなりのものだとウェルシェは聞いていた。


「ご自分で商社も経営なさっていて私財もかなりのものとか……」


 情報収集に余念の無いウェルシェは当然イーリヤの履歴も調べている。その調査報告を見たウェルシェはあまりの完全無欠っぷりに度肝を抜かれたものだ。


(あの方に誰が勝負できるんですか?)


 優秀な成績を修めているウェルシェも自分の能力に自信はある。それでも化け物じみたイーリヤには勝てる気がしない。


 そんなスーパーレディのイーリヤを何故か男達は敬遠している節がある。


「明らかに私よりも条件は良いですのに」

「イーリヤ様は……何と言うか近寄り難いじゃない?」


 イーリヤを思い浮かべてキャロルは苦笑いした。


「気さくな方と伺っておりますが?」

「うん、まあ、そうなんだけどね。あの方は自信家の俺様系オーウェン殿下の婚約者だし、本人は本人で迫力美人の上にとても気が強そうだし……」


 しかも、剣でも魔術でも学園内で彼女に勝てる者は誰もいないのだから、確かに言い寄るのは命懸けに思える。


「それに引き換えエーリック殿下は……その、少しぽやってしてるし」

「私の婚約者なのに失礼ですわ!」


 ここにカミラがいれば「自分も頼りないって仰ってたくせに」と言いそうだが、ウェルシェにとって他人から言われるのは許せないらしい。


「ウェルシェはおっとりした生粋のお嬢様って感じだからつけ入る隙があると思われているんでしょ」

「私がそんな簡単になびく軽薄な女と思われているなんてとても不愉快ですわ」


 ウェルシェは眉を寄せてむぅっとむくれた。


 幻想的な美少女のウェルシェがそんな愛らしい表情かおをするから男達の心はかき乱される。それがウェルシェに男達がたかる理由なのだが、それを理解できない彼女にキャロルは苦笑いした。


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