ウェルシェの予想は大当たり。
やはり、エーリックは
もともとウェルシェは幼少期より儚げな深窓の令嬢を演じてきている。だから、この擬態は彼女としても全く苦にならない。しかも、カミラも感心する程のウェルシェの猫被りは、海千山千の貴族達さえも
そんなウェルシェの完璧な擬態を前に、未熟なエーリックが
ウェルシェに恋する少年は足繁くグロラッハ家を訪ねており、今日も今日とてウェルシェの手の平の上でコロコロと転がされ中だ。
「ウェルシェも学園へ通うのかい?」
「そのつもりでおりますわ」
そして、今は二人でお茶と会話を楽しんでいたのだが、ふと貴族子女が通う王立マルトニア学園の話題がのぼった。
「そう……なんだ」
「エーリック様は私が学園へ通うのに反対なんですの?」
エーリックが少し浮かない表情になり、ウェルシェはおやっと不思議に感じた。
エーリックは真面目で努力家であり、だから自然と頑張る人間を愛する傾向があるとの情報をウェルシェは掴んでいた。さらに、ウェルシェに想いを寄せている彼は、一時でも長く彼女といたいと望んでいるはずである。
だから、ウェルシェが学園へ一緒に通うのを喜ぶと想定していただけに、彼の顔色が優れないのを
「ウェルシェは学業も魔術も優秀だから、より高みを目指して研鑽を積むのは素晴らしいとは思うよ……だけど」
「だけど?」
頬にそっと手を添えると、ウェルシェは不思議そうな顔で小首を傾げた。
そんな何気ない仕草もあざといほど可愛い。
ウェルシェはエーリックの前では、彼の好みそうな所作が息を吸うように自然にできるようになっていた。
だから、今も特にウェルシェは狙ってやったわけではない。ただ、ウェルシェは無意識にエーリック好みのポーズを取っていたのである。
「くっカワ……」
「エーリック様?」
「こほん……いや、ごめん、学園の話だったね」
ウェルシェに見惚れてしまったのを誤魔化すように、エーリックはわざとらしく咳払いして話題を強引に戻した。
「ウェルシェなら学園に入学しても有意義な学生生活を送れるさ」
「それなら何の問題もありませんわよね?」
「問題は僕が気を揉むからだよ」
ますます意味が分からないと困惑顔になるウェルシェを見てエーリックは苦笑いを浮かべる。
「ウェルシェは美しいだけではなく頭も良く魔術の才もある。しかも、温厚な人柄で品行方正と完璧なんだ……完璧すぎるんだ」
「そんな……褒めすぎですわ」
褒め言葉に両手で頬を押さえてモジモジ照れるウェルシェはエーリックにとって世界一可愛い。まさに才色兼備の超完璧な婚約者だ。
だからこそ彼はとても不安になる。
こんな些細な褒め言葉一つで簡単に男心をくすぐってくるのだ。
しかも、
「そんな完璧な女の子であるウェルシェだから、男達から狙われるに決まってるんだ」
「そんなまさか」
つまり、こんなの男なら口説きにかかるに決まってるやんとエーリックは焦っていたのだ。
「君が他の男に心移りするんじゃないかって気が気じゃないんだ」
「私はエーリック様だけですわ。信じてください」
「僕はウェルシェを信じているよ」
だけどとエーリックは思う。
学園には多くの貴族子弟が通っている。その中には自分などでは男として敵わない者も少なくないとエーリックは自分を卑下していた。
「僕は僕自身を信じられないんだ……自分に自信がないんだよ」
「そんな……エーリック様はとても素敵なお方ですわ」
エーリックとの結婚には利が大きい。ただ、それを抜きにしてもウェルシェにとって善人であるエーリックは好ましい。加えて容姿は完全にウェルシェのドストライクなのだ。
「自信を持ってください」
「だけど、学園には僕なんかより優秀な男子生徒が少なくないんだ」
「私にとっての一番はエーリック様ですわ」
彼女にとってエーリック以外の男性は考えられない。
「ウェルシェは本当に僕でいいのかい?」
「もちろんです……私はエーリック様がいいのです」
何故なら……
(だって、エーリック様はグロラッハ領に富をもたらす金ヅルだもん)
ウェルシェ・グロラッハ――それは恋愛や乙女の夢より