「爵位、ですか」
要は、貴族の地位に興味がないかということだろう。
まいったな。更なる面倒事に巻き込まれている予感がする。
「しかし私は卑しい身分の生まれです。貴種に値するとは、とても」
「そう
まるで、こちらが断ることを想定していないかのような口ぶりだ。
「それに我が孫クルシカを
あ、クルシカ嬢との結婚についてはもう既定路線なんですね……
「確かに、そうですね」
「であるかして、それら委細を先日皇帝陛下に
ちょっと待て! 帝国皇帝に
では僕の返事に関わらず、クルシカ嬢との結婚は決まっていたということか。
いつのまにか内堀が埋められていたことに、僕は
「へ、陛下に?」
「悪く思うな。我が家は皇帝陛下と
「それで、どのような?」
自分が蚊帳の外だったことに
とはいえ、
騎士に
これまでのように自由気ままな冒険者稼業はできなくなるだろうが、その点は致し方ない。
「うむ、アストラ
……今、なんて言った?
へ、辺境伯? 辺境伯って、あの辺境伯か。
僕は思わず自分の耳を疑った。
「辺境伯というと……帝都から遠く離れた広大な土地の防衛と支配を任され、小国の君主と同等の権威を有するという、あの?」
「おいおい、それ以外に何がある」
平民にそんな地位を与えるなんて、一体皇帝陛下は何を考えているんだ。
いや、それよりミレイ卿か。辺境伯の創家などという大事を皇帝に認めさせるなんて。一体裏でどんなコネを使ったんだ。
「恐れながら、アストラ辺境伯というのは――」
「うむ。新たに設けられた爵位ゆえ、お前が知らぬのも無理はあるまい。帝都より北に馬車で二月にある土地だ」
帝都から馬車で北に
そこって、辺り一面荒野の広がるド田舎じゃねーか!
「もとは陛下直轄の領地であったが、これまで管理の行き届いていない地であったゆえ、この度お前に
ハメられた! 笑顔が引きつるのが自分でもわかった。
こんな状況で、出来ないなんて言えるわけがない。
この爺さんそれを分かったうえで、こちらに無理難題を押し付けてきやがったのだ。
全く貴族というやつは、これだから困る。転んでもただでは起きない奴らだ。
しかしそれが分かったからといって、この場を切り抜ける
一体全体、どうしてこうなった?
クルシカ嬢の命を救った僕の選択が間違っていたのだろうか。
……いや、そんなことはない。
この世界において正しい道などないと、いつも自分に言い聞かせているではないか。
『お前は将来、どうやって生きていくつもりなのだ?』
この世界に生まれてからというもの、幾人かの人物に同じことを尋ねられた。
この世界での実の両親、生まれた村の村長、そして何人かの冒険者仲間。
僕はその時の気分によって、いろいろな返事をした。
たとえなんでもできたとしても、実際にはどれもする気がなかった。
冒険者として日雇いの仕事をして、その日一日を乗り切ればそれでいいと思っていた。
……案外、それで楽しかったし。
だが、まさか辺境伯とは。
貴種として人びとを導くなど、想像だにしていなかった。
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