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第36話 エンディング002 次の物語はすぐそこに

 白衣を着た科学者――ハイドは街を歩いていた。

 人々はすれ違うが、それでもハイドの姿を視認していない。当然ながら、彼の住んでいる世界と人間が住んでいる世界は次元的に別物であるということが理解できる。


「コンパイルキューブを用いた多元精神力供給実験は、成功した。だが、キャパシティの問題と根底にあった人間の確保が難しい。それが課題となるだろう」


 歌うようにハイドは言った。

 今回の結末を。

 まるで遊戯の如く、言った。

 ハイドは思い出したように笑みを浮かべる。


「それにしても、あの魔術師――名前は柊木香月だったか。彼は面白い人間だったなあ。魔術師としても優秀な人材だったし、研究し甲斐のある存在だ」


 白衣のポケットからメモ帳を取り出し、すらすらと何かを書いた。


「柊木香月。君のことは忘れないよ。また……いや、確実に会えるだろうね。その時を待っているがいい。今は平和な日常を味わっているといい。暫くしたら、僕はまた君に姿を見せる。その時君がどういう対処をするか……楽しみで仕方がない」


 ハイドは姿を消えた。

 彼の行く先は――誰にも解らない。



◇◇◇



 ヘテロダイン・会議室。

 柊木夢月、香、ユウ・ルーチンハーグが話をしていた。


「……それにしても、ハイド・クロワース、か……。まさかその名前をここでまた聞くことになろうとはね」


 ユウはワインを嗜みながら夢月に言った。

 夢月は神妙な面持ちで答える。


「私も理解できなかったよ。まさかこんなことになろうとはね……。実際問題、私が捕まった時もコンパイルキューブは『封印されていた』。まるで何か別の力を使われたかのように」

「コンパイルキューブのブラックボックス……あまりにも深い闇、ということだ。まったくもって、理不尽と言える。人間が使うべきものではないのかもしれないな。まさにオーバーテクノロジーと言えるだろう」

「そうであっても、それを理解したとしても、魔術師はもはやコンパイルキューブなしでは魔術を行使できません。コンパイルキューブが無くなってしまえば、魔術師は魔術師では無くなるのです」

「解っている。だが……」

「ユウ。ひとまず、この案件私たちに預けてくれないか?」


 夢月の提案に首を傾げるユウ。


「組織でこの案件を動かすには、少々フットワークが悪い。それにホワイトエビルとヘテロダインの再編でお前もいろんな問題を抱えていることだろう。だから、一先ずは私たちだけでやらせてはくれないか? もちろん逐次連絡はするつもりだ。もうこれ以上君に迷惑をかけたくない」

「そうか……。解った、ならば君たちに任せる。しかし、何かあったらすぐ連絡してくれ。報連相だ。よろしく頼むぞ」


 了解、と短く答えて夢月と香は頷いた。

 今回の物語は幕を閉じ、一先ずの平和を迎えた。

 しかし、次の物語は――すぐそこに迫ってきている。


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