中学校の屋上。
柊木香月と城山春歌は空の下、弁当を食べていた。
数日前終結したヘテロダインとホワイトエビルの全面抗争。結果としてヘテロダインが勝利し、その後魔術師組織のパワーバランスは大きく変化した。
ホワイトエビルに居た若い魔術師はそのままヘテロダインが引き取ることとなり、同時にヘテロダインが魔術師組織の最大勢力となった。
「ま、代表である増山敬一郎がああいう形で死んでしまったのだから、それに関しては致し方ないだろうね。実際問題、ホワイトエビルの支配は増山敬一郎による恐怖政治と同等だったらしいから」
「へえ。ユウさんも優しいのね」
「何言っているんだい。ボスはもともと優しいよ。慈愛の心を持っていると言ってもいいかな。確かに不安に思うのかもしれないけれどね」
「いや、別に不安に思ったわけでは……」
さて。
先ほど香月と春歌しかいないような描写をしたが――実はそうではない。
未だもう一人いる。
時代遅れのセーラー服に身を包み、自分の作った弁当を二人のやり取りを見ながら見つめている。
それは柊木夢実――香月の妹だった。
「それにしても夢実が同じ中学に入ることになるとは思いもしなかったよ」
「同じ中学に入れたほうが管理もしやすい、って言っていたよ。ただ、私は十年前から義務教育を受けていないから、どうやってそういうところを誤魔化したのか解らないけれどね」
「成る程ね。それは確かにそうだ」
香月はそう言ってサンドイッチの最後の一口を口の中に放り込んだ。
「あにさん。ちょっとお時間いいですか」
彼の背後に黒スーツの男が立っていた。
「どうしたんです、井坂さん」
井坂と呼ばれた男はホワイトエビルから引き抜かれ、今は情報屋としてヘテロダインに所属している。魔術はそれなりに使えるが、少し抜けたところがあるため、ユウはそこに配属を命じた。
井坂は恐縮した様子で、
「いえいえ、兄さんの用事があるのなら、そちらを優先してもらって構いませんよ」
「用事? どうせ井坂さんが来たってことは仕事のことだろ。別に構わないからここで言ってくれよ」
「……解りました」
井坂は香月を屋上の少し離れた場所へ連れていく。一応、同じ組織に所属しているとはいえ、秘密は守らねばならない。
香月が離れた隙を狙って、夢実が春歌の隣に座る。
「……ねえ、春歌さん。あなた、お兄ちゃんのことが好きなんでしょう?」
突然の言葉に飲んでいたお茶を吹き出してしまった春歌。
「な、何を……」
「見ていて解るよ。だって、ずっとお兄ちゃんのこと見ていたんだもの」
「そ、そう……」
わざとらしく香月から目をそらした春歌。
「――負けないよ」
「え?」
「お兄ちゃんの妹は私だけだから。お兄ちゃんを好きだと思う気持ちは一番だよ。絶対負けない。だから、二人で頑張りましょう?」
右手を差し出す夢実。
春歌はそれを見て――彼女も右手を差し出した。