それを聞いた増山敬一郎は一瞬目を丸くしたが、すぐに笑い出した。
「ハハハ! やはり解っていたか。流石はあの『魔術師夫婦』の娘だけはある。忌まわしきあの二人の娘だな……。まあ、それくらい予想の範疇だったが」
「何ですって……」
「だって君たちは何も知らないではないか! 実際問題、世界はどうなっている? エネルギー問題だけではない! 食糧問題に人口問題! それ以外にも様々な理由が絡み合っている。この星に人間が増え続けることは、もうあってはならないのだよ。だから、僕が粛正する」
「そんなこと許されると思っているの!? 神にでもなったつもり!!」
「ああ。少なくとも、僕は神と同じ存在だ」
はっきりと。
言い切った。
「そんなつまらない考え方をしていたのかい? だとしたら、君はやはりあの二人の娘だということになる。観察力が高い。いや、それよりも、実際に問題となっていることを片付けなくてはなるまい。君も気になっているのだろう? あの巨大な筐を」
「当然でしょ。ずっとあれの保護を任されてきて、何も知りませんでしたなんて信じられる?」
「本当は教えたくないのだけれど……。別にいいか。あの筐は巨大なコンパイルキューブだ。コンパイルキューブだということは知っていたのかい?」
「何となく、ね」
「まあ、だろうね。それしか情報が流通していないからね。なら、君に教えよう。メイドの土産として受け取るがいいよ。あのコンパイルキューブは特別製だ。あれはエネルギーが特別でね。エネルギー源は何か、って? 簡単だよ、あの飛行機事故を思い出せばいい。飛行機事故では何が起きた? 君たち兄妹以外の人間がほんとうに死んだと思っているのか?」
ざわ、と鳥肌が立った。
同時に自分の考えたことがとんでもないことだと思って――悲しくなった。
「そう、その通りだよ。君が考えたこと、それがそのままだ。コンパイルキューブは人間の精神力を魔力に変換する。ならば、それをすればいい! だが、残念ながらその実験は人間の考えでは『異端』と言われる。当然だろう、人間の命を使うのと同じ実験になるのだからな。しかし、それでも私は諦めなかった! 諦めたくなかった! だから、僕はある事故に乗じて人間を奪うことにした。……そこまで言えば、それがどういうことか理解出来てくるだろう?」
「まさか……」
増山敬一郎はシニカルに微笑む。
「そうだ。あの飛行機事故は偶然ではない。我々ホワイトエビルの計画に……『コンパイルキューブ』の糧になってもらうために、わざと引き起こした事故なのだよ」
◇◇◇
その頃、香月と春歌は廊下を走っていた。
「恐ろしいくらいに誰も居ないな……。罠だと思ってしまうほどだ」
香月は廊下を走りながら、部屋の様子を眺める。しかし人の気配が一切見られないため、何も言いようが無かった。
春歌はそれを後ろから追うだけだった。
「ここは……」
扉が開いていた。
そこからゴウンゴウンと音が聞こえてきた。
「何の音だ……?」
香月は慎重に、警戒をしながら中へと入って行った。
中に入ると、そこにあったのは巨大な黒い筐だった。
それについて春歌はまったく解らなかった――対して香月はすぐに理解出来た。
「まさかこれ……コンパイルキューブか?」
「え、コンパイルキューブ……って、こんな巨大なものが出来るのですか? だって今まで見てきたのは手のひら大の大きさ程のしか見たことが……」
「まあ、そう思うのも仕方ない」
コツ、と足音が聞こえた。
そこに立っていたのはスーツを着た男――そして彼は気を失った夢実を引きずっていた。
「やはり、コイツは裏切ったか。まあ、致し方ないことだ」
夢実をその場に投げ捨てる。
「これはコンパイルキューブだよ。もっと言うならば、このコンパイルキューブは巨大で、たった一人の精神力だけでは魔力に変換しても微力なものしか生み出さない。だから大量の人間の精神力を必要とするけれどね。それによって魔力は生まれ、魔術として行使される」
「魔術として……。だが、その精神力はどうするんだ。実際問題、人間一人ひとりの精神力なんて高が知れている」
「一人ひとりの精神力は少ない。それは当然のことだ。だが、考えてみてほしい。一人ひとりがダメならば、それが十人、二十人……百人となればどうなる? 単純計算で百倍になるだろう?」
「百人? いったいどうやって集めると――」
そこで――彼は理解した。
同時に、笑みを浮かべる増山敬一郎。
「――まさか!」
「そう、その通りだよ。――飛行機事故では、誰も死んじゃいない。死んだと見せかけただけに過ぎない。あの時の飛行機事故……乗客は二百人近くだったか? あの時の乗客は全員、コンパイルキューブに流し込むために精神力のタンクとさせてもらったよ。もちろん、君たち兄妹は出来なかったがね」