ふるーるたうん木崎は、木崎湾に面する臨海地区に作られた比較的新しい
深夜、もう電気もついておらず人通りも少ないくらい何も無い。
そんな場所に香月と春歌はやってきた。
「春歌、ここを知っているか?」
「……ここはショッピングモールですよね。去年完成したばかりの比較的新しい場所です。毎日大勢の人でごった返していますから、よく知っています」
「そう。ここはそういう場所だ。……だが、それと同時に人の思いが集まりやすい場所でもある。考えてみろ、たくさんの人間が集まっている場所……一人一人が負の概念を持っていても僅かなものだが、しかし、そういう概念が十人、百人と生まれた場合は? 同じ場所に姿を見せたとしたら?」
「……どうなるのですか?」
「簡単なことだ。それが一つとなり、一つの巨大な『塊』となる。それがどういう意味を為すのかは、魔術師のことを少しでも知った君ならば当然解る話だ」
「……それが魔力と言うんですか」
春歌は青ざめたような表情でそう言った。
香月はそれを聞いてゆっくりと歩き始める。出入り口から入れないかどうか、模索しているようだった。
「その通り。それが『魔力』だよ。人間の魂から得たエネルギー……それをコンパイルキューブによって
「神への……冒涜」
「ま。僕は神様なんて一切信じていないけれど。そんな存在が居るなら救われるべき存在はとっくに救われている」
軽いニュアンスだった。しかしその言葉は彼女に重くのし掛かった。
間違いを否定しているわけではない。正論を徹底的に肯定しているのだ。そんなことをする必要が、と言われればそれかもしれない。しかしながら、香月はそんなニュアンスを敢えて使った。
「ニュアンスの問題だ。実際問題、ニュアンスの相互が満たされずうまくいかないことだってある。うまくいかなくなった場合は……問題を切り捨てる可能性だって肯定せざるを得ない」
「……ところで、どうして私たちはここに?」
春歌は小さく呟いた。何故ここに呼ばれたのかいまだに理解していないためである。
それを聞いた香月は首を傾げる。
「どうして、って……。寧ろどうして何も気が付かないのか。僕と君がここに来たのはこれが原因だよ」
「これ?」
香月が取り出したのは先ほど果からもらったメモだった。
メモには何が描かれていたのだろうか? 春歌は思ったが、香月に聞いても教えてくれなかったので半ばそのことを聞くのは諦めかけていた。
「……さっきは言えなかったが、これにはここの場所とあるものが書かれていた」
唐突に。
この場所について香月が話し始めた。
春歌はそれに耳を傾ける。
「あるもの、とはここを経営している人間の名前だった。名前に見覚えはないが……おそらくホワイトエビルの関係者なのだろう。ここにショッピングモールを作った理由は、はっきり言って理解できないが、何かあるのだろう。それは確かだ。そうでなくては、僕がここに来た理由も無い」
「そんな曖昧な証拠だけでここまで来たんですか?」
「そうだな。君にはそう言われるかもしれない。いや、魔術師以外の人間がそれを聞いたならばそう思うかもしれない。しかし、魔術師がそれだけの情報を受け取ればそのように認識できる」
「魔術師にしか認識できない、暗号でも混ざっているんですか?」
「暗号? 違うね。どちらかと言えば符号と言えばいいだろう。点字に近いものだ」
コツ、コツ、とショッピングモールの廊下を歩く香月と春歌。
誰も居ないショッピングモールは非常口の誘導灯だけが怪しく光っていた。
それが不気味で、彼女にとってとても気持ち悪かった。出来ることならすぐに帰りたかった。
「……あの、何も見つからないなら急いで帰った方がいいと思いますよ? 魔術師だからって、現代の法律を無視していいというわけでも無いですし」
「現代の法律を無視していい訳が無いだろう。魔術師だって社会に必要な存在として、認識されている。だが、社会からしてみれば『魔術』という危険なものを使っているテロリスト予備軍に過ぎない。そんな人間が、一人でもルールを無視してみろ? それを口実に魔術師の殲滅が行われかねない。いくら魔術が使えるとはいえ、科学技術に勝てるかと言われると難しいところだからね」
香月はある場所で立ち止まった。
そこにあったのは非常階段だった。
「非常階段……?」
「ああ、きっとここに地下室がある」
「それは魔術で?」
「ここの施工図を見たが、必要の無い地下空間が存在することが判明したからね。恐らくそこに何かがある」
非常階段の扉――そのノブをひねった。
ドアは開いており、ドアを押すと、ゆっくりとドアが動き始める。
それを見て、香月は頷く。香月はそのまま階段の中へと入っていく。春歌もそれに乗り遅れないように急いでその後を追いかけていく。