夜の街をモノレールが走っている。
木崎市を一周するようにモノレールが走っており、連日深夜まで走行している。
モノレールの線路を見つめながら、少年は立っていた。
少年は世界が嫌いだった。少年は世界に絶望していた。
どうして自分がこのような目に合ってしまうのか、ということを考えていた。
考えるだけで嫌だった。
自分がなぜこうなったのか、なるべく考えないようにと言われ続けた。
だが、そんなこと出来るはずもない。彼は独自で捜索を開始した。
復讐は復讐しか生み出さない。そう言われたにもかかわらず。
彼はとある組織に拾われた。
魔術師に育てられることとなり、その魔術師は一線を退いた。
そして魔術師は医師となり、少年を陰から支えた。その魔術師は、一人だけで魔術師組織を壊滅させるほどの実力を持つと言われていた。
それゆえに、魔術師の引退は衝撃となった。
魔術師は言った。魔術師の仕事よりも彼を育てる方が重要である、と。
なぜ一人の少年に、そこまでする必要があるのか――事情を知らない魔術師は考えた。
組織の一部の人間は語る。
少年は、ある魔術師の子供である、と。
その魔術師の素質を持った子供は、貴重である。
魔術師としての才能があるならば猶更――そう語っている。
少年はその魔術師の下、魔術を学ぶこととなった。
しかし、その魔術師は少年に魔術を教えたくなかった。
少年の目を見てしまったからだ。
少年の目は、一つの火が宿っていた。
燃え盛るその火は――復讐の炎そのものだった。
魔術という手段を手に入れれば、それを使って復讐をするのではないか――その魔術師はそのようなことを考えていた。
復讐は復讐しか生み出さない。
それはその魔術師が常々少年に告げていたことでもあった。
だから、魔術を教えることはしたくなかった。
だが、組織は魔術を教えることを強要し――少年を組織へ同行させた。
魔術師はその命令を逆らうことが出来なかった。
組織は少年に魔術の授業を受けさせた。それにより、少年は組織が考えた通り、魔術師の才能をめきめきと見出していった。
だが、少年にはまだそれに見合う精神が育っていなかった。
それから五年後、少年は魔術を行使、ヘテロダインのアジトの一部を破壊した。
僅かな魔術であったが、被害は甚大。拘束するまで一時間を要した。
拘束後、除籍も考えられたがヘテロダインの上層部によりそれは無くなった。
カウンセリングと称して少年が連れてこられたのは、あの魔術師が勤務している病院だった。
魔術師は保護者となることを了承、カウンセリングを行った。
その一年後。
少年は再びヘテロダインの門戸を叩いた。
それは、魔術師として生きていくことを決意した、ということだった。
もう、あれから四年が経った。
少年は空を見ていた。
遂に両親を殺した相手の足がかりを掴んだ。
それどころか、相手の方からこちらにやってきた。
これは彼にとってチャンスだった。このチャンスを使わない機会は無かった。
「……さあ、始めるとしよう。十年前の反撃を。充分とツケが溜まっているからな。利子もたっぷりつけて返してあげるよ」
少年は呟くと、モノレールの線路がかけられた橋の下を歩き始める。
目的地である病院は、すぐそこまで迫っていた。