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第5話

「単刀直入に質問しよう。……なぜ僕を狙った? その口ぶりからして、ランキングホルダーだから狙ったわけではないだろう?」

「ああ、そうだ」


 少女は意外にもすぐに返答した。


「ならば、なぜ?」

「――お前は今日、ある魔術師を倒し、少女を救った」

「速いね。いったいそれはどこから回ってきたのか、気になるものだけれど、伝えてくれることは出来ないのだろうね」

「それは伝えることなんて出来ない。私が殺されてしまうからね」


 殺されてしまうという言葉に思わず香月は吹き出しそうになった。なぜなら現在進行形で殺されているというのに。

 少女の話は続く。


「……まあ、それはいい。その少女が私の上……そうだな、雇い主とでも言えばいいか。そちらさんが欲しがっている」

「お前に任務を与えた人間が居る、と?」


 少女は首肯。


「その任務が、少女を手に入れること――だと」


 少女の名前を知っているだろうが、取り敢えずその名前を隠しておく。


「そうだ。その少女がどういう力を持っていて、なぜ欲しがっているのかは解らないが……。まあ、任務を与えられたのだからやるしかない。それが魔術師というものだ」

「少女を手に入れる? 彼女には魔術を使える力があるとは思えないが……。まあ、いい。それさえ聞けば十分だ。……ff」


 最後、コンパイルキューブに囁きかけて、踵を返す。

 直後、少女の包まれている炎が、さらにその勢いを増していく。

 そして彼女の身体は燃え尽きた。



 ◇◇◇



「もしもし。ああ、僕だ」


 香月は夜道を歩きながら電話をしていた。少女を組織が狙っているという話を聞いたからとはいえ、それは香月には関係のないことだった。


「そう。彼女は出ていったか。……なに? 僕の場所を聞いた、だって?」 


 それを聞いて溜息を吐く香月。これで漸く解放されたと思ったから、また忙しくなるのかと思うと溜息しか出ないものだ。

 マンションに着いて、エレベーターに乗り込む。五階のボタンを押して、扉を閉める。



 ――閉めようとしたのだが。



「待ってください!」


 それに割り入るように、誰かがエレベーターの中に入ってきた。

 その姿は彼も見覚えのある少女だった。


「確か、君の名前は……」

「城山春歌、です」


 そう言って春歌は頭を下げる。

 香月は鬱陶しそうな表情を浮かべながら、購入した缶コーヒーを開ける。

 エレベーターの扉は閉まり、ゆっくりと目標の階に向けて動き始める。


「……それで? どうしてこうして、僕を呼び止めたわけ? 君は魔術師から救われた。僕は魔術師を倒したから報酬がもらえる。それでいいじゃないか。ウィンウィンな関係というわけだよ。それの何が不満だというのか。怪我とかは病院で見てもらっただろうし、きっと湯川のことだろうから完璧に治してもらったのだろうけれど」

「いえ、そういうことでは……。あ、あの……」


 苛立ちを隠せない香月は缶コーヒーをもう一口。


「何だね。言ってみればいいんじゃないかな。取り敢えず、考え事をまとめてから」

「ありがとうございます。助けていただいて」


 再び頭を下げる春歌。

 それを見て目を丸くする香月。

 頭を上げてもなお、香月は目を丸くしたままだった。


「あ、あの……。どうしましたか?」

「いや、まさか……。それだけを言うために来たのではないだろうね?」

「はい」


 同時に扉が開く。どうやら目的の階に着いたらしい。

 そしてそれと同時に目に入ったのは、黒いスーツの男だった。背丈は二メートル以上ある。

 男は春歌を見つめながら、言った。


「城山春歌で、相違ないな?」

「……不味い!」


 刹那、香月は春歌の腰を手に取り、彼女を引き寄せた。

 直後、春歌の居た場所に網が張り巡らされた。


「……流石というか、なんというか。やはり、ランキング七位の魔術師だけはある」


 コキコキと首を鳴らし、男は鼻で笑った。その目つきはサングラスをしているためか、薄らとしか見ることが出来ない。


「――だからこそ、殺し甲斐があるというものだ」


 男はポケットからあるものを取り出した。

 それはナイフだった。ナイフを舐めながら、ゆっくりと香月の方に近付いてくる。


快楽殺人鬼 シリアルキラーって聞いたことがあるか? 殺人を主にして行動する犯罪者、だったか。まあ、ここで定義のことをとやかく言うのはあまりよろしくないが……俺はそういうものに属する存在というわけだ」

「魔術で人を殺す……ということか。そのナイフは魔術伝達の媒体ということだろう?」


 男は頷く。その表情は笑みを含んでいた。


「流石だな。そこまでまるわかりとは。……だからこそ、俺も全力を出せるというもの……!」


 男は手首に口を近づけ、呟く。

 基礎コード――その入力。

 それに気付いたからこそ、彼は背を向ける。

 そこにはエレベーターの壁があるだけだった。


「恐れをなしたか!」


 男の言葉を無視して、彼はコンパイルキューブに基礎コードを入力する。


「ej・bek・afl・zz!」


 基礎コードがコンパイルキューブに通され、『コンパイル』される。

 直後、香月の目の前にあった壁が崩落し、穴が出来た。その大きさはちょうど一メートル六十センチ程。香月も春歌も少しだけ屈めば入ることの出来る大きさだ。その穴からは空が確認できる。


「逃げるつもりか!」

「残念ながら、一般人が居るからね」


 そして、香月は春歌を抱えたまま空へ飛び込んでいった――。

 急いで後を追ったスーツの男だったが――あいにく飛行魔術を使えず――ただ下を眺めるだけだった。

 スーツの男はスマートフォンを取り出し、ある場所に電話をかける。

 電話はすぐに繋がった。


「もしもし、俺だ。ターゲット及び魔術師が逃走した。ああ、申し訳ない。急いで後を追ってくれ。今、座標を転送する――」


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