確かに、閣議が困窮するほど書状を送りつけ、求愛を繰り返してくる相手。三人の言う通り、ヘタに着飾ると余計気持ちが動くかも知れない。
「……そうね、そうだわね」
華蓮達が悩んでいるその時、警備兵達の怒鳴り声が聞こえて来た。
「華蓮樣、奥の御部屋へ!」
「何事か、確認できるまで、お控えを!」
「もしもの時は、隠し扉から!よろしいですね!」
さあ!と、ナスラ、インドク、マヤが、避難を急かす。と同時に、懇願するような男の声がした。
「あー!姫様に招待されて来ただけだ!ご招待の書状もある!こ、これは、土産だ!」
責め立てられて、泣きそうな男の声に、華蓮らの動きは止まった。もしや、あれは──。
「仕方ないわ、収めて来ます」
お待ちを!と、止める声など聞こえぬようで、華蓮は部屋を出ていった。
また、何かやらかすと、腹心三人組は、華蓮を追ったが、見えたものといえば……。
「ああ、華蓮樣自らのお出迎えとは、なんと、心苦しい事でしょうか!」
地面に平伏し、ひたすら頭を擦り付ける男が、もったいなくも、などと、叫んでいた。
危険がないと踏んだ、華蓮は、
「ご苦労様。後は、こちらで片付けますから」
と、兵を下がらせる。その言葉に、平伏男は、もったいないお言葉でーーー!!!と、再び叫んだ。
「ナスラ樣、わたくし、頭が痛くなってきたのですが」
「それは、私も同じですわよ、インドク樣」
「……あれが、と、言うことでしょうか?とにかく、表側へお知らせしないと、きっと、儀礼通り、正門で到着をお待ちになっておりますわよ」
それにしても、裏門、時に、女達専用の通用門となる裏口から、どうして、馬に乗って、ここ、華蓮の宮までたどり着けたのか?
不思議を越えた、招かれた客であろう男を女達は、呆然と見た。
一方、王を含め、宮殿表方では、待機していた面々が報告を受け固まりきる。
いくら小国の王とはいえ、供も付けず、
掴み所のない来賓に、重鎮達は困惑しきった。
その頃、華蓮の宮は、はじけていた。
「確かに、あの男、育てがいはありますわね」
「意外と、化けるかもしれませんよ」
「華蓮樣の腕次第でしょうか?」
宦官を呼び、現れた男──、
「悪い方ではないと思うの。純粋過ぎて、突っ走ってしまうのだと思うわ」
腹心三人組は、華蓮のどこか、乙女のトキメキを匂わす言葉に、顔を見合わせる。
そして、回廊から、こっそりと華蓮の部屋の様子を伺う二つの影が。
「おやまあ、父上、華蓮も、一目ぼれですか」
「な、何をいうか!あの者が、王とは限らんぞ!」
はいはい、とにかく、謁見してから……と、
「巫女だ!巫女!これは、国の大事ぞ!」
父の背中を見送りながら、斉令は呟いた。
「何も、巫女に頼らなくとも。華蓮に任せれば、まとまるものを。あれは、華蓮にしか扱えない男だろうなぁ」
斉令の呟やきに合わせるように、ふふふ、と、華蓮の部屋から、三人組の笑い声がした。