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第6話

確かに、閣議が困窮するほど書状を送りつけ、求愛を繰り返してくる相手。三人の言う通り、ヘタに着飾ると余計気持ちが動くかも知れない。


「……そうね、そうだわね」


華蓮達が悩んでいるその時、警備兵達の怒鳴り声が聞こえて来た。


「華蓮樣、奥の御部屋へ!」


「何事か、確認できるまで、お控えを!」


「もしもの時は、隠し扉から!よろしいですね!」


さあ!と、ナスラ、インドク、マヤが、避難を急かす。と同時に、懇願するような男の声がした。


「あー!姫様に招待されて来ただけだ!ご招待の書状もある!こ、これは、土産だ!」


責め立てられて、泣きそうな男の声に、華蓮らの動きは止まった。もしや、あれは──。


「仕方ないわ、収めて来ます」


お待ちを!と、止める声など聞こえぬようで、華蓮は部屋を出ていった。


また、何かやらかすと、腹心三人組は、華蓮を追ったが、見えたものといえば……。


「ああ、華蓮樣自らのお出迎えとは、なんと、心苦しい事でしょうか!」


地面に平伏し、ひたすら頭を擦り付ける男が、もったいなくも、などと、叫んでいた。


危険がないと踏んだ、華蓮は、


「ご苦労様。後は、こちらで片付けますから」


と、兵を下がらせる。その言葉に、平伏男は、もったいないお言葉でーーー!!!と、再び叫んだ。


「ナスラ樣、わたくし、頭が痛くなってきたのですが」


「それは、私も同じですわよ、インドク樣」


「……あれが、と、言うことでしょうか?とにかく、表側へお知らせしないと、きっと、儀礼通り、正門で到着をお待ちになっておりますわよ」


それにしても、裏門、時に、女達専用の通用門となる裏口から、どうして、馬に乗って、ここ、華蓮の宮までたどり着けたのか?


不思議を越えた、招かれた客であろう男を女達は、呆然と見た。


一方、王を含め、宮殿表方では、待機していた面々が報告を受け固まりきる。


いくら小国の王とはいえ、供も付けず、驢馬ろばと見間違えるような、馬に乗って、裏庭を通り抜け、華蓮の宮に乗り込んでくるとは。礼儀をわきまえていないを越えていた。それとも、わざと、事を行い、玄国げんこくを混乱させようとしているのか。


掴み所のない来賓に、重鎮達は困惑しきった。


その頃、華蓮の宮は、はじけていた。


「確かに、あの男、育てがいはありますわね」


「意外と、化けるかもしれませんよ」


「華蓮樣の腕次第でしょうか?」


宦官を呼び、現れた男──、りょう国の王、丹厳たんげんとやらを別室で身繕いさせている。そのままでは、下男以下の姿だったからだ。


「悪い方ではないと思うの。純粋過ぎて、突っ走ってしまうのだと思うわ」


腹心三人組は、華蓮のどこか、乙女のトキメキを匂わす言葉に、顔を見合わせる。


そして、回廊から、こっそりと華蓮の部屋の様子を伺う二つの影が。


「おやまあ、父上、華蓮も、一目ぼれですか」


「な、何をいうか!あの者が、王とは限らんぞ!」


はいはい、とにかく、謁見してから……と、斉令さいれいが、言うが早いか、斉龍さいりゅうは、王の面持ちを見せると駆け出した。


「巫女だ!巫女!これは、国の大事ぞ!」


父の背中を見送りながら、斉令は呟いた。


「何も、巫女に頼らなくとも。華蓮に任せれば、まとまるものを。あれは、華蓮にしか扱えない男だろうなぁ」


斉令の呟やきに合わせるように、ふふふ、と、華蓮の部屋から、三人組の笑い声がした。

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