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第4話

「まあ!巫女のお告げですって!」


「私の可愛い、ナスターシャ、どうか、静かにしておくれ。これは、父王と、跡を次ぐ私しか知らない事なのだから」


華蓮の宮の一郭にある、ナスラの部屋では、驚きの声があがっていた。


「その様な大事、私に喋ってよろしいの?」


「それが、私の愛の証さ」


斉令さいれいは、膝に乗せ座らせているナスラの首筋に、唇を当てた。


「もう!斉令!」


「ああ、君が余りにも可愛かったからね。それに、私達が、なさぬ仲ということは、皆、知っている事じゃぁないか」


「そういう問題ではなくて!」


「まあ、君が、怒りたくなるのも分かるよ。何が、悲しくて、ナスラなどと、呼ばれなければならないのだろう。ナスターシャという、美しい名前があるのに」


ますます、話がずれて行く、と、ナスラは思いつつも、


「だって、ここの記録係の文官が、ナスターシャって、聞き取れなくて、ナスラなんて、名前にしてしまったんだもの。インドク樣も、同様よ。イングリットってお名前なのに」


拗ねるナスラに、あらら、そんな事がと、斉令は言いつつ、銀色の髪を撫でてやり、ご機嫌を伺った。


「それより、なぜ、巫女に頼るほど華蓮樣の事が問題になるの?」


「そう、それね。全くもって、相手の意図が掴めないからなんだよ。まあ、続きは、ナスターシャの寝台で、ってことで?ね?」


「ちょっと、斉令!」


拒む隙もなく、斉令の唇が、ナスラの紅く熟れた唇へ重なった。






「──と、言うことらしく」


少し頬を蒸気させたナスラが、華蓮へ報告を終えた。


「まあ!では!」


「巫女樣の祝福があったと!」


「あー、そこは、皆様、口外なさらないで!」


「格下すぎる国相手では、祝福があっても、陛下としては、迷われるわね」


なるほど、なるほど、と、インドクとマヤは、納得していた。


「それにしても、ご苦労様だこと。色仕掛けも大変ですわね」


インドクが口角をあげて、ナスラを空々しく労う。


きっと、顔を引き締めたナスラを見た華蓮が、


「はいはい、二人とも、それぐらいにしておきなさい」


と、仲裁に入った。


「まさか、お相手は、格下も、格下、りょう国の王だとは」


「両国に、国交はございまして?」


「それが、かろうじて、あるようですわ」


ナスラが、仕入れてきた情報は、新年の祝賀の儀に招かれた遼国王が、華蓮に一目惚れし、縁組の話を持ち込んで来たというものだった。


そして、どれ程華蓮の事を思っているのか、自らの気持ちを綴った束になった書状を、日々、送りつけて来るのだという。


「まったく、人騒がせな」


「書状は、一通で宜しいでしょうに」


「時に、華蓮樣は、遼国王樣と面識がございまして?」


ナスラ、インドク、マヤ、三人三様の言葉を受けて、華蓮は答える。


「いいえ、私には、まるで身に覚えがありません。そこまで書状を頂く義理もないと思うのですけれど」


王と重鎮達は、どう動けば良いのか困りきっているのだという。


確かに、いきなり、見知らぬ国から、華蓮を求められ、私情入り交じった訳のわからぬ書状を束で送りつけてこられては、何の裏があるのかと、意向を読むにも読みとれない。それで、日々の閣議は、困窮しているのだとか。


「どうあれ、私が、混乱の原因なのですね。わかりました。ナスラ、ご苦労様でした」


言って、華蓮は、すっくと立ち上がる。


「ひ、姫様!華蓮樣!」


部屋を出ていく華蓮の姿に、嫌な予感しかしない、ナスラ、インドク、マヤ、腹心三人組は、声をかけるが、華蓮には、まるで届いていなかった。

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