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姫君は自らえにしをつかさどる
井川奎
異世界恋愛和風・中華
2024年10月13日
公開日
7,700文字
完結
大国、玄(げん)の姫、華蓮(かれん)は、格下の名も知られていないに等しい、小国、遼(りょう)の王に一目惚れされる。
熱すぎる求婚を受け、玄国は、揺れに揺れた。
煮え切らない重鎮達に、困窮する閣議を見た華蓮は、自分が混乱の原因なのだと責任を感じ、遼国の王を呼び寄せて事の真意を確かめようとする。
そして、出会った、遼国の王と華蓮は……。

中華風、ほっこり後宮ロマンス

第1話

玄国げんこくの王、斉龍さいりゅうは、先程から渋い顔を弛めようとしなかった。


前に控える、巫女から授かった言葉は、到底、二つ返事で従えるものではなかったからだ。


大混乱の末、決議で決まった事と同じものを、まさか、国を守る巫女の口からも聞かされると思っていなかった王は、あからさまな嫌悪の視線を送っていた。


何事なにごとか、まつりごとに支障が起こった場合、玄国歴代の王達は、玉座の後ろにある隠し扉を通り、巫女と呼ばれる、神通力を持つ女が過ごす、巫女の間へ赴いた。


神の言葉、神託を授かる為である。


この巫女の存在は、秘伝とされており、玉座に付く者と跡を継ぐ者にしか知らされていない。


王という存在が、神、そのものと信じられているからだ。


もしその存在が、そして、王が、巫女に頼っていると公に知れてしまえば、王の存在意味がなくなってしまう。


たちまちに、廃位を求められ、いや、これまであざむいてきたのかと、乱の一つ、二つ起こり、巫女を祭り上げ利用しようとする者も現れるだろう。


いかんせん、人をまとめる政と、神託を受けて従うことは、似て非なるもの。


しかし、民にそのまことが分かるはずはなく、より、各々の心を惹き付ける者を求め支持をする。


そうして、王は、すべてを取り上げられ、民から捨てられることになるのだ。その命と共に。


斉龍も、この部屋に居る意味はよくわかっていた。


すべては、国を守るため。神託を受け、何が最善であるかを考えるためと。


しかし、やはり、受け入れられない。


「巫女よ、すまぬが、再度、占なってもらえまいか?国の大事なのだ」


一度くだされた神託は、何度繰り返そうと、変わりはしない。


前に控える、乙女とも、妖婦とも言いがたい、まさに、人を超えた気配を漂わせる女は、王の胸の内を分かっているのか、抗うことなく、床に転がる数個の石を拾い集めると、両手に納めた。


そうして、何やら呪文のようなものを唱え、床に向けて、石を放った。


かつんと、部屋に石の落ちる音が響き、ころころと石は転がった。


ただの散らばっただけの石に見えるが、巫女は、同時に何とも言えない、切ない表情を浮かべる。


「……残念ながら……王のご希望には……添えませぬ。先程、申し上げた通り……、神は……望んでおられます」


巫女は、そっと頭を下げた。はずみに、よく手入れされた艶やかな黒髪がはらりと流れた。


その心遣いに、斉龍は、己を恥じる。ここに来たのは、望みを通す為ではない。まつりごとまことを見る為なのだ。


「巫女よ、無理を言って、すまなかった。どうか、ゆっくり休んでくれ」


巫女は、王の言葉に、深々と頭を下げた。


斉龍は知っていた。たかだか、石を振り落とすだけの事に映る儀式は、巫女の知力と体力、全てをかけて行われているのだと。それを、今日は、己の思う答えが出ないと、再度、行わせてしまった。


巫女の口数が少ないのは、それだけ力を使い果たしたということなのだ。


おそらく、まだ波乱は起こる。その時、巫女が、力を出せなかったなら……。


王の心配をかき消すかのよう巫女は静かに微笑んだ。

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