前に控える、巫女から授かった言葉は、到底、二つ返事で従えるものではなかったからだ。
大混乱の末、決議で決まった事と同じものを、まさか、国を守る巫女の口からも聞かされると思っていなかった王は、あからさまな嫌悪の視線を送っていた。
神の言葉、神託を授かる為である。
この巫女の存在は、秘伝とされており、玉座に付く者と跡を継ぐ者にしか知らされていない。
王という存在が、神、そのものと信じられているからだ。
もしその存在が、そして、王が、巫女に頼っていると公に知れてしまえば、王の存在意味がなくなってしまう。
たちまちに、廃位を求められ、いや、これまで
いかんせん、人をまとめる政と、神託を受けて従うことは、似て非なるもの。
しかし、民にその
そうして、王は、すべてを取り上げられ、民から捨てられることになるのだ。その命と共に。
斉龍も、この部屋に居る意味はよくわかっていた。
すべては、国を守るため。神託を受け、何が最善であるかを考えるためと。
しかし、やはり、受け入れられない。
「巫女よ、すまぬが、再度、占なってもらえまいか?国の大事なのだ」
一度くだされた神託は、何度繰り返そうと、変わりはしない。
前に控える、乙女とも、妖婦とも言いがたい、まさに、人を超えた気配を漂わせる女は、王の胸の内を分かっているのか、抗うことなく、床に転がる数個の石を拾い集めると、両手に納めた。
そうして、何やら呪文のようなものを唱え、床に向けて、石を放った。
かつんと、部屋に石の落ちる音が響き、ころころと石は転がった。
ただの散らばっただけの石に見えるが、巫女は、同時に何とも言えない、切ない表情を浮かべる。
「……残念ながら……王のご希望には……添えませぬ。先程、申し上げた通り……、神は……望んでおられます」
巫女は、そっと頭を下げた。はずみに、よく手入れされた艶やかな黒髪がはらりと流れた。
その心遣いに、斉龍は、己を恥じる。ここに来たのは、望みを通す為ではない。
「巫女よ、無理を言って、すまなかった。どうか、ゆっくり休んでくれ」
巫女は、王の言葉に、深々と頭を下げた。
斉龍は知っていた。たかだか、石を振り落とすだけの事に映る儀式は、巫女の知力と体力、全てをかけて行われているのだと。それを、今日は、己の思う答えが出ないと、再度、行わせてしまった。
巫女の口数が少ないのは、それだけ力を使い果たしたということなのだ。
おそらく、まだ波乱は起こる。その時、巫女が、力を出せなかったなら……。
王の心配をかき消すかのよう巫女は静かに微笑んだ。