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第6話「ファーストコンタクト」

渉は、高校にはあまり通っていなかった。親友の太郎が同じクラスで、彼は毎日出席しているから、会いたくなったら登校していた。


太郎は、実家が安藤流一撃空手の道場だった。安藤流一撃空手とは、太郎の曾祖父・安藤しんげんさいが太平洋戦争中に編み出した空手だ。南支那の白兵戦から生還するために相手を一撃で倒す事に特化した空手だ。太郎には、是清という父親がいた。是清は強く、まだ高校生の太郎は歯が立たなかった。


渉が珍しく学校に行くと、同級生の順子が、


「あれ?渉ちゃん…なんで来たの?」


と言って来た。


渉は、


「久しぶりに太郎に会いに来た」


と言う。


太郎は、


「おっす!」


と親し気に渉と順子の輪に入る。


順子は、女子にしては背が高く、髪も長く両耳の脇で二つ縛りにしていた。顔立ちも端正で男子には人気だったが、渉や太郎と仲が良いため皆、遠慮していた。


渉と順子は中学から仲良しだったが、順子には交際中の女子生徒がいた。


順子は百合っ子だった。


相手の名は祥子と言う。


祥子は、


「あの危ない男の人達と親しくしないで」


とよく順子に言っていた。危ない男の人達とは、渉や太郎の事だ。彼らは喧嘩が強く、太郎はガタイも良い。


さて東京コミュニティの吸血鬼達は着々とゲームを進めていた。


ある日、祥子は学校帰りに男性の人影に呼び止められた。


「こんにちは…もしかして女の子が好きな女の子ですか…?」


祥子は端正な顔立ちの男性に戸惑いつつも、


「はい、そうです。だから貴方に御用はありません…」


と言って横をすり抜けようとした。


男性は祥子の腕をガッと掴むと「誘惑の魔力」を発動させた。男性とは吸血鬼シグネチャだった。


「コトバヅカイヲワキマエズモウシワケアリマセンデシタ」


「すぐ済みます。血を分けてください」


「ハイ」


「終わったら連絡先も教えてください。毎晩20ccを分けてください」


「ハイ」


「明日はこの場所に恋人と一緒に来てください」


「ハイ」


シグネチャは祥子の血液を抜くと、嬉しそうに去って行った。


祥子はシグネチャの「誘惑の魔力」をかけられた状態になった。


次の日。


「ジュンコ…キョウハイッショニカエロウ…」


「…いいけど…祥子は具合が悪いの?」


「ソンナコトナイヨ」


「…具合悪そうだよ?」


「シンパイシナイデヨ…!」


「え?」


「シンパイシナイデヨ…!」


「祥子?様子がおかしいよ?」


「シンパイシナイデヨ…!」


「どうしよう…祥子がおかしくなった…」


「シンパイシナイデヨ…!」




バシーンッ!




「誘惑の魔力」をかけられた祥子は順子を平手打ちした。「誘惑の魔力」をかけられると、かけた吸血鬼に絶対服従になり、親、兄弟や恋人など親しかった人物に対しては、段々と他人同然に思えてくるのだ。


順子は、祥子を抱きしめると、


「ごめんね…わかってあげられなくて…祥子が大切なんだよ…」


と言う。


祥子は、


「ア…順子。ごめんね私は悪い魔法にかけられてしまっていて…アヤマッテモスマナイワヨ…!」


と言う。


順子は腕をほどくと、


「悪い魔法なんだね」


と言って、逆方向に走り去った。




順子は、街で渉を見つけると、


「渉ちゃん…!祥子が危ない…!悪い魔法なんだって…!」


と言って泣きついた。


渉は、


「俺に任せろ。順子」


と言う。




さらに翌日。


祥子は学校を休んだ。吸血鬼シグネチャが欠席するよう命じた。さらに交際相手の順子を放課後の河川敷に呼び出すよう命じた。順子は携帯電話のメッセージアプリで受信すると、渉に共有し、渉を放課後の時刻に河川敷に向かわせた。


その日の学校。


太郎は、


「順子…顔色が悪いぜ?」


と言う。


順子は、


「安藤君は…別に気にしないで良いよ…」


と言った。


放課後。


どこかつれない順子を家まで送ると言って、太郎は、


「渉から聞いたぜ?悪い魔法を使うヤツがうろついてるんだってな?俺が守ってやるよ」


と言う。


順子は、


「安藤君。私、女の子が好きなんだよ。渉ちゃんはわかってくれるから安心なんだ」


と言った。ぽかんとする太郎に、順子は、


「私さ。本当は渉ちゃんの『喧嘩が強い』っていう価値観が嫌いなんだ」


と追い打ちをかけた。太郎は、


「お金か?大人達が言う『強い』はお金持ちって事だろ…喧嘩が強いなんて幼稚だって言いたいのか?」


と言った。


順子は軽蔑した顔で、


「違うよ!強いとか弱いとかやってんなって意味だよ!許しちまえばいいだろ!」


と言った。


その瞬間だった。




「横取り禁止ルールは…無かったな…」




吸血鬼ストラクチャが現れた。


「君が…順子ちゃんだね?」


吸血鬼ストラクチャが順子に歩み寄ると、庇うように太郎が割って入った。


「お前…か?悪い魔法って言ってたけどな…」


順子は、


「悪い魔法使いは河川敷だよ…!こいつは仲間なんじゃないか?!」


と言う。


ストラクチャは、やれやれという顔で


「お友達のボディガードなんて知らないよ」


と言うと、強引に順子の前腕部を掴んで「誘惑の魔力」をかけようとした。




ドガッ…!




太郎の右拳が顔面に入った。


しかしストラクチャは首から上が傾いただけで立ち姿勢は崩れなかった。


「人間にしてはいいパンチだな」


「これしきなんて妙な奴だ…!もう容赦しねぇ…!安藤流一撃空手・奥義…!」


太郎は後ろ回し蹴りのモーションで四、五回転する。


回転しながら靴を脱いで裸足になる。


ダムッ…!


そして裸足の左脚軸足でアスファルトに踏み込み回転力のまま全身を旋回させた。


「竜撃…!」


ドゴーッ!


裸足の右脚蹴り足をストラクチャの腹部にぶつけた。


太郎の足の裏は筋肉が盛り上がって偏平足だった。


そのまま足の指で抉るようにストラクチャの腹筋を引き裂いた。


「牙!」


これが安藤流一撃空手・奥義・竜撃牙である。


ストラクチャは腹から血を流し、地面に右膝を着いた。


掴んでいた順子の腕を離して、


「…人間か…強いな」


と言う。


ストラクチャはギロッと太郎を睨むと、


「人間にしてはだけどな…!」


と言った。


太郎は、


「しゃらくせえ…!」


と言ってもう一発、蹴ろうとした。


しかし、


「…?!重たい…?」


と言い、右脚を動かすことが出来ない。


「う、うごかねぇ…!」


順子は、


「どうしたの?」


と心配そうにする。


太郎は、


「すまん…順子だけでも逃げてくれ…!」


と叫んだ。


順子は、脇目もふらずに逃げ出した。


ストラクチャは、


「俺の名はストラクチャ。いま構造上、お前は俺に勝てないぜ?」


と言い、身動きの上手く取れない太郎をボコボコに殴った。太郎は仁王立ちのまま歯が飛び、血反吐を吐いた。


「や…やめてくれ…」


太郎の血がアスファルトにボタタッと落ちる。


「いいぜ?殺したり、これ以上暴行すれば、警察が来て『犯罪クレジット』に計上されてしまう。もう俺達の邪魔はするな。大人しく病院に行く事だな」


そう言って、ストラクチャは去って行った。


ストラクチャの特殊能力


「エターナルワックス」


戦闘中、被弾した際に発動し敵一体を蝋人形に変える。一撃で殺されない限りタイマンで負ける事はない能力。


その頃、渉は河川敷にいた。



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