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第4話「アンデットウォーリア教団」

内閣総理大臣・伊倉とくまるの長期政権の裏で、反政府組織の反政府デモは苛烈を極めていた。ロシアの戦争に起因するコストプッシュインフレで貧困層はコンビニのおにぎりも買えず。


反政府活動家は、


「日本の貧困層は東京都の人口に匹敵する。東京都民のために都知事がいるのと同様に、貧困層のための知事がいるべきだ。貧困知事…!」


などと演説していた。


ただ街頭演説などを行うだけでは警察、消防や自衛隊などの実行力の前に敗北してしまう。現状でも大勢の反政府活動家が捕らえられ、富裕層のための地下クラブに連行され処刑されてしまう(第三話参照)。


しかし反政府組織にはアンデットウォーリア教団という武力があった。教団が生み出すアンデットウォーリアの試作品には一定の戦闘力があった。反政府活動家の一人ひとりに戦闘力無くても、彼らを組織ごと破壊しようとすると試作品を大量に有する地下教団が武力で抵抗した。そのため反政府組織と、日本政府側の実行機関、警察、消防や自衛隊は微妙なバランスで共存していた。


さてアンデットウォーリア教団とは、ポールノチ博士というロシア人が日露戦争中に開発した「不死身の兵隊」の技術を使って、アンデットウォーリアの開発を試みる教団である。


試作品のアンデットウォーリアは、やはり一個体であれば、その不完全さゆえ、警察や自衛隊の銃弾に屈したり、吸血鬼との戦闘で敗北したりした。


しかしポールノチ博士が日露戦争中に作った「ジャール・プチーツァ」というアンデットウォーリアが30年程前から日本のアンデットウォーリア教団で暮らしていて、日本政府の差し金でやってくる様々な敵と戦っていた。ジャール・プチーツァの目的は永遠に生きる事だった。自分自身の身が危なくなるような果敢な戦闘や好戦的な思考は避けていた。


それでも教団にはありがたい存在だった。ちょうど数年前ジャール・プチーツァのいる北海道本部に自衛隊の一個師団が攻め込んだが、教団側が勝ち、自衛隊を敗走させている。教団の存在と共に、国民には伏せられたが。


政府側もジャール・プチーツァを退治できないうちは、たとえば反政府組織殲滅作戦などと打って出ることができなかった。政府は、社会の混乱を招く懸念から、教団という武力が日本の地下に存在する事をひた隠した。


教団の教祖・桐山しいさくは、


「ジャール・プチーツァに匹敵するアンデットウォーリアが生まれたら我々の研究は完成なのだ…!日本国を転覆させるのだ…!」


と言う。


教団主任研究員という裏の顔を持つ、北海道大学教授・秋山びいごは、


「反政府活動とはご苦労な事だ。教団が日本を支配する為に現状必要な機動防御だ」


と言う。教団が反政府組織を守っているというよりは、むしろ反政府活動家が犠牲になる事で教団が守られている状態だという。確かに政府側は続々と沸いてくる反政府活動家を合法的に始末する事で手一杯でもある。


ジャール・プチーツァは、


「生みの親である『ポールノチ博士の野望』と矛盾しないうちは言う通りにしますよ…」


と濁していた。


吸血鬼コミュニティとアンデットウォーリア教団は全面戦争こそしなかったが、日本政府の依頼でジャール・プチーツァの暗殺を試みた吸血鬼は大勢いた。


「ポールノチ博士の野望」とはソビエトの世界征服だった。


アンデットウォーリア教団は全国に支部があり、アンデットウォーリアの試作品を作るための人間の個体をしばしば拉致していた。拉致された人々はアンデットウォーリアの試作品に生まれ変わって暮らした。前述の通り、中には開発が不十分で警察や自衛隊の銃弾に屈したり、吸血鬼との戦闘で敗北したりして命を落とす者も後を絶たなかった。


秋山は、


「データは着々と蓄積されている。あと一歩でオリジナルに匹敵するアンデットウォーリアが完成する」


と言う。秋山はジャール・プチーツァをオリジナルと呼んでいた。 

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