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第3話「地下クラブ」

内閣総理大臣・伊倉とくまるは、東京の吸血鬼コミュニティが、秘かに掟破りのゲームを開始した事を知らなかった。コミュニティは「食事」の掟と犯罪クレジットの上限さえ守っていれば、吸血鬼一人ひとりの行動を詳細に監視される事はなかった。「食事」の掟破りは、すぐに露見する。吸血された事で吸血鬼化した吸血鬼が食欲旺盛で、犯罪への自制心も乏しいため、直ぐに警察、消防や自衛隊に露見するのだ。もちろん「食事」の掟破りは露見すればあっさりコミュニティが駆除される(第一話参照)。


「日本の吸血鬼はよく飼いならされている。表向き日本はスパイ天国などと言われているが、とんでもない。彼らがよく外国籍の工作員を秘密裏に殺害している。手に負えない指名手配犯も秘密裏に殺害している」


吸血鬼コミュニティには様々な用途があって、吸血鬼は生かされていた。内閣総理大臣の伊倉をはじめ、政府高官たち、政策与党系の政治家たちも、吸血鬼は有用だとし、どこかみくびっていた。


「日本全国で反政府系の組織を潰すのに一躍買っている!」


伊倉は富裕層のための地下クラブにVIPで呼ばれていた。地下クラブでは反政府系の活動家、学者、宗教家が定期的に血祭りに上げられていた(第一話参照)。


この日、地下クラブで処刑されたのは伊倉と慶応義塾大学で同級生だった、京都大学の教授だ。教授は反政府系のデモや講演会を繰り返していて、政府は教授の妻に30億円を支払って、親族に納得して貰ったうえで教授を拉致した。


「伊倉君…立派になったね…君が間違えないように修正をしていたのだよ…」


それが最期の言葉だった。伊倉は教授の聖者ぶった体たらくが大学在学中から大嫌いだった。長年の夢が叶った。


教授の血液は直ぐに巨大な容器に移し替えられ、これから吸血鬼達が毎夜啜る血ゼリーへ調理される。教授だけでなく、この日は反政府系の学識経験者らが一度に血祭りにあげられた。


観覧席で見ていた富裕層達は喝采をあげた。いま日本の富裕層は政策与党系の政治家たちによって利益が守られている。ここで喝采する事は絶対だ。


伊倉は、


「今日は記念すべき日だ。長年疎ましかった聖者気取りを吸血鬼の食糧にしたぞ」


と満足気だった。


「民主主義など…!徒労もいいとこ…!」


それが伊倉の口癖だった。伊倉は今年で12年目の長期政権のトップだ。反政府組織をねじ伏せて政界で剛腕を振るう権力者だ。


「あるいは『1000年の魔女』に飲ませて吸血鬼を『製造』したらいい!」


伊倉は吸血鬼コミュニティを気に入っていた。そこまで気に入っている理由は誰にも話さなかったが、大切な日本の治安維持部隊だという認識が固かった。


東京コミュニティの吸血鬼5人組は、東京で百合カップルを見つけては20ccほど採血するゲームに没頭していた。「誘惑の魔力」を使えばあっさりと採血する事ができた。


吸血鬼のイカナクチャは、


「政府は僕たちを上手く飼いならしているつもりだ」


としばしば愚痴っていた。


ゲーム開始から三日間で百合っ子の血液を順調に採集できた。このまま50kgの百合っ子の血液を集めて「1000年の魔女」に飲ませれば、女の子の吸血鬼を「製造」できる(第一話参照)。


吸血鬼のギゲルフは、


「俺の採取量は5人中3位だな…新しい女の子の吸血鬼を妹にするには1位でなければならないルールだったな…!(第二話参照)」


と言った。


日本の反政府組織は「アンデットウォーリア教団」という地下教団が人的基盤となっており、教団には、政治家の権力や、吸血鬼コミュニティと対抗するだけの武力があった。


伊倉は、


「アンデットウォーリア教団を制圧するまでは、吸血鬼の粗相は許してやるつもりだ」


と言った。しかしまだ東京コミュニティの吸血鬼5人組が掟破りの「製造」を図っている事を知らない。 

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