■奥多摩 大岳ダンジョン 89階層
怪物との闘いをどれほど続けていたのか、一時間かそれ以上かもわからない。
俺は息を切らし、血の流れる頭を振って血を払った。
首を殴り飛ばしても再生されるばかりで削れず、胴体を殴りかかれるほどに近づけられない。
〈強酸液〉を放って首を溶かしてもやっぱり再生された。
「再生しまくるなんてずるいだろ……ハァ、ハァ……」
肉体がどれだけスキルやパラメーターで強くなっても人間の脳が疲労感を訴えていては仕方ない。
怪物の口を塞いでいた〈粘液糸〉も消え、再び火炎弾が時間差で8発飛んできた。
「くそっ、ますます近づけないっ!」
ほぼ接近戦しかできないとバレたのか、遠距離からチマチマ攻めてきてウザい。
トーコ先生の具合も気になるし、早く決着をつけなければいけなかった。
だが、疲れた体と頭が、限界が近いことを訴えている。
「くそっ!」
血に濡れた床で滑り、俺はバランスを崩して地面に転がった。
それを怪物は逃すとなく首を伸ばして俺に食らいついてくる。
『◎△$♪×¥●&%#?!』
腕や足に牙が食い込み、激しい痛みが俺を襲った。
「グアアァァ!?」
痛い痛い痛い。
死ぬほどの痛みが全身を駆け巡る。
けれども、諦めるわけにはいかない……。
俺を信じて送り出してくれた人のために!
「んぐあぁっ!」
一種の賭けだったが、俺は食われかけた腕に食いついてる怪物の頭に噛り付いた。
柔らかい目玉の部分を狙って食らいつき、咀嚼する。
〔
システムアナウンスが聞こえ、俺は賭けに勝ったことを確信した。
痛みはあるもの、俺の手足が再生していくのを感じる。
血が流れだしたところに神経が増えていくような感覚だった。
「再生できるようになれば、勝負はまだ終わらない!」
〈炎の吐息〉
俺は食わている右腕から炎を発生させて食らいついている怪物の首を吹き飛ばした。
焼き飛ばした部分が焦げて、再生がされない。
「火で焼けばいいのか! だったら、やりようはある! あと、かば焼きになった破片も食わせてもらうぜ」
吹き飛んだ首の破片も遠慮なく食べる。
〔
さらに運がいいことに有用なスキルが手に入った。
勝利を確信した笑みが俺の顔に浮かぶ。
「いくぞ、バケモノっ! 弱点はその中央の首だろ?」
〈火炎弾〉をぶつけて残りの首を吹き飛ばした俺は残った首に向かって迫った。
毒息も意味のないことが分かっている怪物は逃げようと背を向ける。
「逃がすか!」
〈粘液糸〉を飛ばして怪物の足元を固定した。
背を向けて登りやすくなった怪物を駆けあがり、残った首のところまでいく。
体の細かい傷が自己再生出直っていき、付属効果なのか疲労感までも下がっていった。
だんだんと人間から外れていることを自覚するが、それ以上に今はコイツを倒すのが先である。
「止めだ……いただきます」
元気になった反動か、空腹に襲われた俺は残った首を力任せに引きちぎりながら食べ始めるのだった。