池袋の煤けた裏路地で封筒から5万抜きとった。残りは腹にサラシで巻いて厳重に確保する。「イテテッ」ひも野郎に殴られた傷がまだ痛む。あばら骨にヒビが入ったようで、ついでにそちらも胸までサラシを巻いて固定した。ミイラ男じゃ♪
やばい金を使い込み、後戻り出来なくなるのはこれで何度目だ? 帰りの電車賃もないので仕様が無いが、何度も同じことを繰り返す自分には少々ウンザリする。
けど悲しいかな……そうでもしないと俺の決心は鈍っちまう。
『小さな魚には小さな餌……』
筋書きとしては、単なる色恋沙汰の呆れるほど陳腐な騒動が起こり女が殺される。そして、役立たずのボディーガードが責任を取り、子猫ちゃんが落とし前の生け贄として何人か始末される。これをもちまして~抗争は無事に終結……てな具合。
極めて合理的かつ下品なたくらみ。
名前がないとはそう言う意味だったのか? ……やるじゃないロンジョイ。
でまぁ、要約すると、そのくだらない実行犯に俺が選ばれたから、ここにこうして金があるわけで……いま5枚のピン札をひろげ、じっとりと眺めているわけで……
チャラン・チャリン・チャラコロコロリン
空から小銭が降ってきた。と、同時に手から1万円札が天空に舞い上がる。
透明の
あぁ、確かに万札を小銭に崩すのは嫌だなぁと、ちょっと思ってたけどよ!
これでもう金は返せなくなった。実はまだ迷ってたんだ……ナイス!
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おまえの行動には理解不能な部分がある。どうしてジャンを助けた?
さんざんたかられて金まで盗まれた。なのにジャンの為に片目をくり抜いた。
どうしてだい? そこまでの間柄ではないはずだ。こんな馬鹿げた話はない。
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言われなくても馬鹿なのはよく知ってる。あの時の記憶は曖昧だけど……
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空っぽだね、ヒロユキ。
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あぁ、どうせ俺の頭の中は空っぽさ。
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違うね、そうじゃない。心がさ。不思議だね。親のない子供をさんざん見てきた。
中には私を殺したいほど憎んでいた者もいた。当然だ。親を殺されたんだからね。
だけど光りを飲み込むほどの孤独な空洞を、おまえの中に見るとは思わなかった。
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またその話か。
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私はたった一人愛した男の、その孤独を理解することが出来なかった。
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あんたはずっと半信半疑だな。迷いの中で生きてる。迷いの中で生きてきた。
悲しいけれど、まるで怯えた少女のようで、俺の義眼に映るのは無垢の魂だ。
あんたも言ってたじゃないか。【蛇の目】なんてのは、只の神経症の戯言さ。
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そう。あの人は優しいだけが取り柄の男だった。仮に
あったとして……それは大層な手品だが、変えようのない運命はそこにある。
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知ってる。そんな風に育てたんだろ? 罪深いことだね。
まぁこの世には受け入れるしかないことが山ほどあるさ。
(実際、あんたはもう死んでいる。哀しいかな、それも変えられない純然たる未来)
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奇妙な気持ちになる。おまえは本当にヒロユキなのか? まるで宿老と話しているよう……まるであの人と話しているよう……一体なにを抱え込んでいる? どうしておまえはそんなに孤独なんだい? おまえが誰なのか……これは現実なのかい?
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【蝶の目】
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ああ、そうだろうよ。ん? なんの話をしていたかね?
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ず~~と【血の石】を見つけろって話だよ。ボケちゃった?
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ああ、そうだったね。私の死後はどうなるのだろう? 子供達の行く末は……
【血の石】は夫の信奉者だ。それだけは間違いがない。それだけしかわからない。
【血の石】は恐ろしいほどのお人好しで、なんの欲望も持たない異常者なんだよ。
【血の石】は時間がたち壊れてしまった部品。取り替えなければいつか爆発する。
どうか夫の過ちを……
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(騙してごめんな
……はじめから俺の本命はそっちじゃない
「約束する。俺が必ず見つけ出してやる。だから……