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第83話 愚かなる血の石を探せ!⑭

 池袋の煤けた裏路地で封筒から5万抜きとった。残りは腹にサラシで巻いて厳重に確保する。「イテテッ」ひも野郎に殴られた傷がまだ痛む。あばら骨にヒビが入ったようで、ついでにそちらも胸までサラシを巻いて固定した。ミイラ男じゃ♪


 やばい金を使い込み、後戻り出来なくなるのはこれで何度目だ? 帰りの電車賃もないので仕様が無いが、何度も同じことを繰り返す自分には少々ウンザリする。

 けど悲しいかな……そうでもしないと俺の決心は鈍っちまう。


『小さな魚には小さな餌……』一芳イーファンの狙いは事態の矮小化わいしょうかだ。


 筋書きとしては、単なる色恋沙汰の呆れるほど陳腐な騒動が起こり女が殺される。そして、役立たずのボディーガードが責任を取り、子猫ちゃんが落とし前の生け贄として何人か始末される。これをもちまして~抗争は無事に終結……てな具合。



 極めて合理的かつ下品なたくらみ。黒孩子ヘイハイズと明かしたのも計算の内。彼らは本国で非常に恐れられている。彼らは法律の外。彼らがどんな凶暴で残虐な行為をしても、犯罪者として捕らえることは不可能。戸籍のない彼らは、最初からいないはずの存在なのだから。彼らに理屈は通じず、彼らと話し合うことはナンセンスであり、そこに落とし処はない。彼らを敵に回した瞬間、終わりだと考えた方が良い。実にスパイスの効いた脅しである……って、彼ら彼ら我ながら五月蠅い。ここは日本だっつうの!


 名前がないとはそう言う意味だったのか? ……やるじゃないロンジョイ。



 でまぁ、要約すると、そのくだらない実行犯に俺が選ばれたから、ここにこうして金があるわけで……いま5枚のピン札をひろげ、じっとりと眺めているわけで……


 チャラン・チャリン・チャラコロコロリン


 空から小銭が降ってきた。と、同時に手から1万円札が天空に舞い上がる。


 透明の天蚕テグスか!? ちっくしょうっ! 一枚抜かれた!


 あぁ、確かに万札を小銭に崩すのは嫌だなぁと、ちょっと思ってたけどよ!


 これでもう金は返せなくなった。実はまだ迷ってたんだ……ナイス! 波寧ポーニン





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 おまえの行動には理解不能な部分がある。どうしてジャンを助けた? 

 さんざんたかられて金まで盗まれた。なのにジャンの為に片目をくり抜いた。

 どうしてだい? そこまでの間柄ではないはずだ。こんな馬鹿げた話はない。


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 言われなくても馬鹿なのはよく知ってる。あの時の記憶は曖昧だけど……


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 空っぽだね、ヒロユキ。


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 あぁ、どうせ俺の頭の中は空っぽさ。


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 違うね、そうじゃない。心がさ。不思議だね。親のない子供をさんざん見てきた。

 中には私を殺したいほど憎んでいた者もいた。当然だ。親を殺されたんだからね。

 だけど光りを飲み込むほどの孤独な空洞を、おまえの中に見るとは思わなかった。


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 またその話か。


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 私はたった一人愛した男の、その孤独を理解することが出来なかった。


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 あんたはずっと半信半疑だな。迷いの中で生きてる。迷いの中で生きてきた。

 悲しいけれど、まるで怯えた少女のようで、俺の義眼に映るのは無垢の魂だ。

 あんたも言ってたじゃないか。【蛇の目】なんてのは、只の神経症の戯言さ。


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 そう。あの人は優しいだけが取り柄の男だった。仮になにがしかの力が……

 あったとして……それは大層な手品だが、変えようのない運命はそこにある。

 波寧ポーニンをいくら手なずけても、吹き矢の照準を私に向けさせることはできない。


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 知ってる。そんな風に育てたんだろ? 罪深いことだね。

 まぁこの世には受け入れるしかないことが山ほどあるさ。

(実際、あんたはもう死んでいる。哀しいかな、それも変えられない純然たる未来)


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 奇妙な気持ちになる。おまえは本当にヒロユキなのか? まるで宿老と話しているよう……まるであの人と話しているよう……一体なにを抱え込んでいる? どうしておまえはそんなに孤独なんだい? おまえが誰なのか……これは現実なのかい?


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【蝶の目】


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 ああ、そうだろうよ。ん? なんの話をしていたかね? 


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 ず~~と【血の石】を見つけろって話だよ。ボケちゃった?


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 ああ、そうだったね。私の死後はどうなるのだろう? 子供達の行く末は……

【血の石】は夫の信奉者だ。それだけは間違いがない。それだけしかわからない。

【血の石】は恐ろしいほどのお人好しで、なんの欲望も持たない異常者なんだよ。

【血の石】は時間がたち壊れてしまった部品。取り替えなければいつか爆発する。


 どうか夫の過ちを……


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(騙してごめんな美紫メイズ。やっぱ無理だ。そりゃそうさ。長年、あんたほどの女傑じょけつが探しあぐね見つけられなかったんだ。俺には荷が重すぎる。アウトローはアウトロー同士、よろしくやってくれ。窟は心配ない。羅森ラシンはお調子者だけど出来る男だ)


 ……はじめから俺の本命はそっちじゃない



「約束する。俺が必ず見つけ出してやる。だから……死体を用意してくれ」


















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