古くて
誰が一番金を出したのか?
自分たちの計画が一つ間違えれば死に近づいているという緊張感の中で、それでも主導権を握ろうと蠢いている。建築基準法無視の増築やら看板やら後付けの室外機がごてごてと押し固められたこの塊は、アウトロー達の欲望の象徴のようにも思えた。
「ヒロユキ」ゴミ溜めみたいな屋上で、俺がラジオ体操する寸前に声が掛かる。
……そう言えば居たなぁ、こんなやつ。薄汚れた場末には似つかわしくない美しく輝くサファイアが如き蒼い目。金色がかった褐色の髪をビル風になびかせてスタイル抜群でスッと姿勢良く立っている。おまえは主人公かっ!!!
「頼む。蛇の目のボスを見つけてくれ」ひも野郎は真剣な顔だった。
なるほど。末端の人間には今の危険な状況は知らされていないが、この男は
「見つけろって言われてもなぁ。俺みたいな一般人には無理だ。そもそも配下の誰も正体を知らないんだぜ。ま、お手上げだな」
俺はラジオ体操で健康になるのをあきらめた。
「このままではビルにいる主要メンバーは蛇の目に皆殺しにされる。ボスを暗殺してロンジョイがボスになればすべてが変わる。すべてが変わるんだ……」
「ヤン・クイの姉さんも自由になれるってか? ふんっ! まあそりゃぁ、
「………………ヒロユキには不思議な力があると聞いた」
窟に居る中東系の人間にでも話を聞いたのか? ―― スイートなんだよ ――
「そんなアニメだか都市伝説かわからねぇような話を信じて馬鹿じゃね? まあ、
俺の顔面にむかい、ひも野郎の拳がゆっくりと近づいてくる。例えるならば、英国紳士が自慢の庭園で優雅にティータイムを嗜むほどの時間が流れた。
【蝶の目】あたっ!
【蝶の目】うゅっぅ グギッ!
【蝶の目】バキッ! 痛っ! ごぉふっ!
【蝶の目】あがぁぁ! げっほっ! お、ツツッッッう!!
ガクッ ズウゥーン。
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「イツツツツ! ふぅ~~~~~~~~」
ひも野郎が立ち去った後、俺はごろんと仰向けに大の字となって狭い空を眺めた。
心ない言葉は男の琴線にふれた。それはまあ当然なのだけれど、これで安心した。
欠損するわけにいかない。人は大切な怒りの感情を失っちゃいけない。安堵した。
こちらも命がけだ。ひも野郎の気持ちが確かじゃなきゃその甲斐がない。
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キュルキュルキュルだからこそ失敗は許されない。この希有なバランスを崩さず問題を解決するにはどうすればいい? どうだろう、根っこを取り除けば良いのではないだろうか。実は……、私は彼女の父親の信奉者でもあるので心苦しくはあるのだが、居なくなればそもそもの火種は消える。と言うより、抗争が終結しても誰も不思議には思わない。実際は
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甘いんだよ、ひも野郎っ! マフィアなんて所詮、マフィアでしかない。
天からの恵みの雨を期待してるなら愛しの彼女は守れない。
俺には、
支払う気はないだろうけど(笑) そんなの信じるほど、俺はスイートじゃない。