俺は、
「
「すべて任せるとさ。今日も猫の額ほどの広さのチャイナタウンを真面目に見回っている。みかじめやら口入れやら大した稼ぎにもならないのにね」
「銀行業務もやってます」
「ふっ、それだってマフィアの本業とはほど遠い。売春やら麻薬やら真っ当な仕事は昔からの幹部に割り当てられている」
「ああ、やっぱ密輸なんかもやっちゃうんですね」
「はは、当然だ。麻薬は世界通貨でありマフィアの共通言語だからね。なので、日本のヤクザとも商売仲間だ」
この男の心が読めない。【蝶の目】は、絶賛お昼寝中だ。
「今回の作戦に、私は反対したのですよ。ですが、ロンジョイが決断し動きだしたのなら否応なく従う。時代は変化し、ニューカマーが押し寄せ、将来的に立ちゆかなくなるのもまた明白だからね。……けれども危険を承知で内幕を調べれば調べるほど【蛇の目】は合理的なシステムのうえに成り立っているとも実感したよ」
……方向転換なのか?
「やはり当初の予定どおり、
「それは得策じゃない。彼女を失えば企業との橋渡しがなくなる。合法的な企業進出において彼女はもうなくてはならない存在だ。日本の華人の半数を占める福建
「じゃあ、あくまでボスの【血の石】を探し出して暗殺……」
「そこなんだけどね、ヒロユキ。ボスの交代がいま起これば、池袋の人員を600人まで一挙に増やすことも可能だ。まったくそれは、愉快な戦闘力になる。だけれどもこのままの状態でも構わないのではないかとも、考えている」
「はい?」
「池袋の組織は謎の男が立ち上げたものとして世間に認知されている。だから新しいシノギとしてゆっくり育てればいい。それについては誰からも異論はでていない」
空っぽの、かつて珈琲が入っていたであろうカップの底を恨めしそう眺め、
「一方【血の石】は人間にとって大切な欲望と言う名の煩悩を欠損した奇形であり、まさしく貴重な存在だと言える。事実、スプロール現象(都市の無秩序な拡大現象)さながら我々を日本社会に染みこませた。まるで無害な癌細胞だ。そんなマフィアはかつてない。摩擦を起こさず、各方面と友好な関係性を築いている。幹部は見合った報酬に満足して纏まり、造反も企てない。この希有なバランスを崩したくはない」
どっかでマーケティング理論でも囓ったのか? なにが言いたいのか意味不明だ。
人払いされているので、珈琲のおかわりも絶望的……舌打ちしたい気分になった。
「でもそれでは収まりがつかない。抗争の首謀者が見つからないままでは【蛇の目】の本体がいずれ動く。だがボスの暗殺は不可能。たとえ殺せたとしても有益な権力とのパイプは失うことになる。ある意味、難題。出口のない袋小路。そこでだ……」
「これは?」
「100万入ってる。おっと誤解しないでくれ。ヒロユキを安く使うつもりはない。これはまあ、手間賃だ。報酬はそれ相応のものを支払うつもりでいる」
……どこかで聞いたような台詞。
ナルホド ヒャクマンエン フリダシニ モドッタワケネ
「好むと好まざると、移民は莫大に増える。コンビニ跡地に出店する台湾料理屋の(調理師・特定活動ビザ)従業員だけでもイナゴのように増えれば、それだけで状勢は変わる。もしダムが決壊すれば……。海外も黙っていない。台湾や香港も揺れ動いている。世界中の華僑が日本を見つめている。不動産が証券化されてる時代だぞ? 戦争しなくても日本は侵略される。いまでさえオールドカマーの街はニューカマーに安売りされている。それがどんなことになるかはお察しだっ!」
日本語お上手ね。俺は100万円が入った不吉な封筒を手に取った。
「勘違いしないでくれ、ヒロユキ。”中国共産党コロニー”を作りたいわけではない。
私は
……やっと終わった?
しらんがな! ったく講釈が長いつうの! 次からあんたとの会話は早送りだ!
要するに、
組織と関係なくなった……
シナリオ通りさ♪