病院から退院した俺はその足で、とある場所に向かう。
というのも、二週間ほど前の華やかな春節の、なんてことない晴れた日に、
真実の窟の場所は知らないので、仕方なし、いつもの場所へと向かったのだった。
気がつけば、隣に
子供の頭部に触れるのは海外では御法度らしいがここは日本だ、関係ない。俺にはどうしてもそうすることが必要だと感じた。黙ってピンクベージュのショートカットに手を置いた。心配するな。親がいなくたって生きていけらぁ……
「
【蝶の目】「で、なんか変わったことあった?」
「なにもない」
【蝶の目】「で、なにか変わったことあった?」
「特に変化はないな」
【蝶の目】「で、なにか変わったことあった?」
「30年も正体を隠しているんだそうそう……あ、ひとつだけ……」
人は同じ質問を繰り返すと悪意なく、違う答えが返ってくることもある。
「たいしたことではない。曙町の風俗経営者から春節に向けて多大な寄付があった。この男は唯一スネークアイの幹部を自称している。これは吹聴することで同業者とのトラブルを回避する目論見の例外的なものだろう。自らはもめごとは起こさず非常に評判のいい男ではある。寄付はいつものことだ。この男を通じて蛇の目は……」
つまり、どうあれこうあれ、この街に思い入れがあるという証拠か……
やせっぽちで貧相な二十歳の男と浅黒い小太りのターバン巻いた筋肉男と北欧系のピンクベージュの髪を揺らす少女がならび立つ光景を、人はどう見ることだろう。
ひどく滑稽なことだろう。そして笑う。人はその姿を見て笑うだろう。
でもそれは当然のことで、俺もわざわざ
「これからどう生きていけばいい……」
「おいおい、頼りないこと言うな。窟を引き継ぐのはあんただ、
「その為に、
それは【蛇の目】の男がどんな人物に未来を託したかに因るだろう。
俺なら安全な沖縄あたりで……いや、海外から指示だけするけどな。
利益を求めず偉大なる風水思想の中にいる、凡人のお人好しなのか。
それを探し出せるのは同じ神経症を患ったおまえだけだと
だとしても……この狭いエリアに仮に居たとして、住民の数は六千人を超える。
(おじさん、もしかしてブラッド・ストーン?)
(そうです。私が変なブラッド・ストーンです)
これを6千回、繰り返すわけにもいかない。
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「中国がこれほど大きくなるなんて未来は、【蛇の目】には見えていなかったのさ。天安門事件の惨劇を経て夫は失望した。あれほど帰りたがった祖国に失望したのさ。なにもかもに疲れ果て、唯一残った片方の目を抉り取りどこかへと消えてしまった。後を謎の人物に託し……。ヒロユキ。壊れた部品を直しておくれ。血の石を……」
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こうして部外者の俺に宿題が残されたのだった。