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第71話 愚かなる血の石を探せ!②

 そっ、いつまでもグダグダしていては働いている方々にもうしわけない。

 どうあれこうあれ、人生に暇つぶしの種は必要ですよ~てへっ、欲望の正当化。



「散歩          君。いってら~~~~~~」

   して      ユキ

     くる」「ヒロ



 暴力編も終わったので、ここからは推理の時間。たとえば、目の前の空き地。

 俺がバラックに住むようになったとき、すでにここは空き地だった。

 どうして? 遺産相続で係争中? それとも場所が悪すぎるのか?

 場末とは言え、二年以上の放置はもったいない。そこには理由が必ずある。


 龍舞の個人練習をやれるスペースがあって良かったねとか、近頃少なくなった子供の遊び場があるのはありがたいだとか表層的なことではなく、親戚が来たとき駐車場に重宝してますなんて結果でもなく……ここが空き地である明確な理由があるは……ず……いや、この空き地の話はどうでもいいのだけれども。



『不合理には不合理で向き合う』ことに決めたなら、そこには合理性しか残らない。


 変面の謎も俺に彼女がいないのも合理性に基づく理由が厳然とあらねばならない。





 中華街についてお浚いしよう。元町中華街駅を中心に、約0.2㎢の範囲内に500以上の店舗が立ち並んでいる。せいぜい500メートル四方の狭いエリアだ。そこに6千以上の華人が住んでいる。しかし蛇の目の規模はそこに巣くうウジ虫にしては規模があまりにも大きい。確かに発祥はここだとしても、世界一安全なチャイナタウンとはもう無関係な存在となっている。




【ハッピーバースデートゥユー】【ハッピーバースデートゥユー】


【ハッピーバースデー・ディア・○○○】


【ハッピーバースデートゥユー】【さぁ、蛇の目のボスは今日から君だ】



 っと、30年前 血の石ブラッド・ストーン がスネークアイを引き継いだ。




 それより更に30年前、居留民の分裂を抑え裏社会を纏め上げた伝説の【蛇の目】を使う男があらわれ、世界中の華僑に伝説として語り継がれる虚構が生まれた。でもそんなのはきれい事で、そこには壮絶なる殺戮があった。だから窟が生まれた。親を殺された子供達はそこで育ち、新たなアウトローが巣立っていった。

 巧みに権力に取り入り、自分たちの存在を暗に認めさせた。なのに他者と争うことなく一定の距離を保ち、表にはでず存続し続けた。そんなマフィアは滅多にいない。


 血の石ブラッド・ストーンはその教えを忠実に受け継いだ。殺戮は終わり、窟は独立した。誰にも正体を明かすことなくスネークアイを掌握し、決して増長することなく、トラブルを起こすこともなく……広範囲で裏のあらゆる商売をしながら、ヤクザとも一定の距離を保ち、友好関係を築いた。


 時代が変わろうともやり方を変えない。

 30年前には予想も出来なかった華人の増加にも、それによる新旧の融合にも一切の興味を示さない。


(他の獣がうろつく時間を避け、餌も違うものを喰らう)方針を貫く。


(居場所が欲しい)縄張りを差し出そうとするまでの悲痛な叫びにも耳を貸さない。


 話し合いのテーブルに着くことはなく、距離をとり、太陽を克服したドラキュラのように不死身で、他者からの干渉を受け付けず、ヤン・クイと言うイデオロギー的な爆弾を突きつけられても【かごの鳥】をやめようとはしない。それによって敵が増えようともお構いなし。ただただ、慣例を忠実に守ろうとする。




 ……果たして美紫メイズが言うように、


 地図上にコンパスの針を刺してくるっと描いたそんな小さな円の中に、


 潜んでいるのか? …………俺はなんだか、コンパスの針が降ってきそうな恐怖を感じて空を見上げた。二月の半ばなのに、太陽がギラギラしてやがる! ドサッ。









「わっ! ちょっとどうしよ。雪香シュエシャン! ヒロユキ君が空き地でぶっ倒れちゃった!」

「マリアちゃん落ち着いて! 大丈夫、紹興酒の飲み過ぎだろ? ばあちゃん救急車っ! 救急車っ!」

「ヒロユキは健康保険証持ってない♪ 闇医者呼ぶアルヨ♪」

















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