「ふぬ~~~~ん」
「ちょっとヒロユキ君。ロスすごくない?」
打ちひしがれてる俺をマリアが心配してくれる。
「ふぬぅ~~~~~~~~~~~ん」
返事のかわり。大理石のテーブルに顔面をいっそう深く沈みこませた。
そうなのだ。ロスなのだ。完全なる春節ロス。デイビスのようにイベントに向けて努力したわけでも高校生のようにトレーニングしたわけでもないのに春節を過ぎると俺には壮大なる ”ロス” が襲ってきたのだった。
二週間遊び惚けた。好きなモノ食って好きなコトした。なぜか外で立ち食いするとひと味もふた味も違うような気がした。すべてを捨てた俺には予定もなかった。新宿にも池袋にも行かず。出勤するマリアとボスに変身する
金のある春節は初めてだった。祭りの興奮が二週間も続けば人間はおかしくなる。
コト、コトっ! 見かねた
「ふぬぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」
まだ記憶の中の春節を脳内が再生している。あの迫力と躍動感。上海蟹うまっ!
「ヒロユキ君。よっぽどすごい大穴当てたのね? でも競馬のあぶく銭なんかすぐになくなっちゃうぞ? ジャンさんなんか真面目に日雇い行ってるのに!」
「お説教ですかぁ」
「親の小言となんとかよ。くふっ」
「マリアちゃんなんか機嫌いいよね?」
「てへっ。写真褒められちゃった。来年の春節紹介号で何枚か使ってくれるって!」
そう言って、マリアがタブレット画面に映し出された写真を見せてくる。
・華やかな皇帝衣装隊が練り歩く祝舞遊行。俺は
・獅子舞が飛び上がった瞬間!
・春節カウントダウン。
・中国舞踊と中国雑技。綺麗なお姉さんの優雅で美しい舞い。筋肉むきむきで椅子の上で逆立ちする、息を呑む演技。このあたりになると、俺は酒しか飲んでない。
・
黄金ふかひれスープ・おこげ入り350円(税込)。汁物なので飲み物なし。
・変面! だけど連写機能でさえその秘密をカメラは捕らえてない。流石は中国の国家機密だ。ごま団子と老舗タピオカ屋のタピオカミルクティー。
・龍舞。高校生や女性だけ、小さな子供の龍舞も素晴らしかったが、やっぱ禿げたおっさん達の龍舞は凄かった。場の空気さえ圧倒する、張りのある妙技に心が躍り、食い物どころじゃなくなった。そのあと紹興酒の小瓶を一気飲み。
「あれ? これ、ほとんど俺が写り込んでない? こんなの雑誌に載せられるの?」
「そんなわけないじゃない。ちゃんと入らないように絞って使うわよ」
なんだか時系列と写真の順序がバラバラで、脳が混乱を起こしそうだった。
「あっ! この男の写真は消した方がいい。ジャパニーズ・ヤクザだ」
「えっ? どれどれ? ほんとう? だってヒロユキ君この人に話しかけられてたんじゃなかったっけ?」
「日雇いの現場に来る奴で、ちょっと声かけられただけだよ。消去消去」
一度だけ鉄玉がやって来て、下らないお喋りをしていった。
高校の時、彼女がここの住人で結婚しようと卒業後、料理の修業を始めた。
だけどいろいろとあって上手くはいかなかった。けれど後悔はしていない。
彼女は様々なことを話してくれた。いい思い出……知らんがな!!!
池袋は
だがロンジョイの配下は数が少なく、そこには鉄玉の子分、新宿華僑のはぐれ者、現状を打破したいバラックからも数名。そして新規に訪日する人間の受け入れ体勢が整えられていた。
つまり、抗争の首謀者である
鉄玉はその礼も兼ねて、ここ中華街まで足を運んだ。
そろそろ池袋に拠点を構え一緒にやろうと誘われた。
けれどそんなものに興味はなかった。
だけどやることもなくなった。
呪いもなんだか掛かったまま。
暇なので仕様が無いので俺はこの街で……
愚かなる