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第69話 春節④

「宿老とは、経験のゆたかな老人のことを言う……ん? どうしたヒロユキ?」

 ロンジョイに問い掛けられたがしばらく答えられなかった。濃厚なエスプレッソが欲しくなった。


「いえ……なんでもないです。ちょっと目眩がしただけ。変面が始まっちゃうんで、もう行っていいですか?」 

 ロンジョイに向かってお辞儀をする。


「まだ話の途中だ」

「変面だけは俺、楽しみにしてるんで、殺すにしてもその後にしてください。それにイングランドの歴史は詳しくないし、一度お買いあげされた商品の返品交換はいたしかねます。ただ、華僑の間で都市伝説になっている【蛇の目】を使うボスが30年、いまのボスが30年統治したなら、そろそろ交代の時期だと思います。マフィアは一度、引き受けた仕事をまっとうする。【かごの鳥】をこのまま続ければヤン・クイと言うイデオロギー的な爆弾をずっと抱え込んだままになる。なにせ、”やんごとなき”素性でしょ? ここにだって正体不明の資金が流れ込んでいる。それよりなにより老華僑の数はそのままに新しい中国人は一気に増える。お金が余ってるなら池袋のビルのご購入をお勧めします。このままスネークアイが沈黙なら……どんな未来が待ち受けているのか予想も出来ません。俺には予知能力がないので……じゃ、失礼します」


 俺はそれだけ3倍速でまくし立てると、腰に手を当て小さくスキップしながら石畳の固さを確かめた。それほどまでに、変面が見たかった。よく間違われるが、山下町公園は海の側の山下公園とは別のものだ。春節パレードではスタート及びゴール地点として使用される。そこには桃太郎がお腰につけたキャンディーってっている。猿もキジも待っている。犬もそろそろ行かなきゃならない……。


 案の定ロンジョイはきょとんとした顔をしている。こんな時は相手の予想外の動きをするのが得策だ。そしてここで長々と喋るのは、得策じゃないことを知っている。





「マリアちゃんお待たせ~」

「用事は済んだの? もうの演目終わっちゃったよ」

「次はなに?」

「高校生の獅子舞かな? ……その次が見たがってた変面よ」

 大陸系の中学生は卒業すると日本の高校に進学するケースが多いのでたぶん台湾系の高校生の演目だろう。これも見たかったのだ。長居するのは得策じゃない。


 candyキャンディーが後ろを振り返ってマジックハンドをニギニギしたので、俺もニギニギ返事した。赤いウインドブレーカーのお姉さんが、高らかとマイクを通して演目の紹介をする。山下町公園が沸き立っている。


 今日こそ! 変面の謎を解いてやる! 





















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