「マリアちゃん……俺ってそんなじじ臭いかな~?」
「わっ! ちょっといつのまに隣にいるのよ? 来たなら声かけてよ」
「一生懸命に写真撮ってたからさぁ」
「用事は済んだの? もう二つ演目終わっちゃったよ」
目当ての演目がまだなのでセーフ。伝統雑伎の変面! 顔が一瞬で変わるあれ!
そうだ、演目は変わりゆく。30年周期ならボスもそろそろ交代の時期だ。
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(遠回りになるけど高架下をくぐったら岩をくり抜いたトンネルを抜けてくれ)
(へ? 遠回りになるぞ?)(つけられていないか確かめたいんだ)
(髪の毛に消しゴムのカスとかプラスチックとか柿ピーのピーが入ってるっ!)
(マリアちゃん頼みがあるんだ)(ん?)(出版社なら新聞のデータがあるよね)
(お前は、
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一枚フィルムが差し込まれた。
でも、そんなことにはもう慣れっこだ! 折角の春節娯楽表演を楽しまなくちゃ!
山下町公園が沸き立っている。前の方に、
後ろを振り返ってマジックハンドをニギニギしたので、俺もニギニギ返事する。
パンッ! パパパパンッ! ババババババチバチッ! ジャーーーン!
有名な飲料メ―カーのロゴとのぼり旗と同じ色のウインドブレーカーを身につけたお姉さんが次の演目を発表する。変面だ! 変面だ! 変面だぁ! 中国の古典劇に伝わる、一瞬で面を変える演技。仕掛けは門外不出。
早い早い早い。スピードが早いよ。早すぎるよ。
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「クックッ……ここの地下には迷宮があってダンジョンをクリアすると財宝が手に入る……孫やひ孫がそんなゲームに夢中だよ。それよりなんだい? アヘンだって?」
紫の髪の婆さんは足に胸がつくほど体を折り曲げ笑っている。俺は頭をかいた。
「芝居はいい。ちゃちなトリックに意味はあるのか? 俺は片目だから人とは見え方が違う。さっき方向をごまかされた。俺たちは折り返し、
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変面! 変面! 変面! このエキサイティング・イリュージョンは見た人だけにしか理解できない。理解できないから最高なんだ。全部、わかっちまったら人生なんかおもしろくもねぇ。
「ヒロユキ君? どした? これ見たことあるんでしょ? あれの仕掛けはたぶん○○○○○だよね? 中国の国家機密だから言えないけど、なは。扇子で顔を隠さなくても変面するよね。肉眼では見えない。一瞬で顔の面が変わって……
俺には見えている。見えすぎている。これが呪いなら、もう殺してくれ。
俺はなぜ 彼女に恋しないんだろ? アンドロイドの受付嬢とロボットの警備員。その中に一人だけ人間がいた。俺にはそう見えた。灰色の空間に唯一、色つきで存在していた彼女のネームプレートには………………嘘だぁ。俺は彼女に恋をした。
嘘だぁ。それも嘘だ。俺は彼女に恋なんかしていない。彼女は俺が用意した。