情報量が多すぎる。
赤や黄色の旗が舞い、
「お・お・おうぉ」俺の肩車の上で、
近づいてきた獅子舞に頭をかじられ、いつもの生意気な威勢はどこえやら、カチンコチンに今にも泣きそうに固まっている。すかさず、マリアがその一瞬の表情を切り取りカメラに収めた。
ともかく人がごった返しで、それだけで精一杯で、俺たちは
「
さっきの失態を照れ隠しするかのように、
哀れジャンファミリーのボスは、なにも言い返さず、焼き小籠包とタピオカミルクティーの往復をただ繰り返すだけだった。その情けない表情にもマリアがシャッターを切る。
龍舞がやってきた。ちょっと開けた場所で、少しだけ固定演技が行われた。
オレンジの鱗が生きているように光り、その飛び切りの迫力に圧倒される。
「お・お・おうぉ」
祭りの高揚は宗教に……それ以上か?
春節はただ加速するのではなく、坂道を列車が登るときの負荷の掛かった走りにも似て熱気をはらみ、観光の目玉としてだけではなく、そこで暮らす人々の思いも乗せ進んでいく。そこにある対立や葛藤、様々な想い迷い、人々の情熱は影に隠れるようでいて、波のような振動となり、細胞を、魂を、揺さぶる。
けれど、俺は通り過ぎる観光客と同じく、ここでもやはり傍観者だった。
でも地面を這う蛇腹を高校生らしき演者が目にもとまらぬ早さで飛び越えるのを、丸く大きく瞳いっぱいに受け止める
なんだか頭の中が、孫を可愛がるおじいちゃんの思考になっている。
大サービスの演技が終わり拍手を送ってから、俺は
しばらく預かって貰うことにする。少なくともこの碌で無しは、人生の傍観者じゃない。この男は逃げなかった。俺には……それすらもない。
「あれ? どっかに行くの? 山下町公園でもうすぐ始まるよ?」
マリアがカメラを覗くのをやめ、怪訝な顔をする。
取材にはカメラ技術も必要なので一生懸命頑張っている。全部一人でやるそうだ。
すがすがしい。俺はなぜ 彼女に恋しないんだろ? ……ははは、ばかばかしい。
「ちょっとだけ用事が出来たから、あとからすぐ追いつくよ」
俺はチェキの手をしてそう答えた。マリアはそれも一枚、カメラに収める。
水商売をしてたってそうそうマフィアなんかと遭遇することはない。
まるでそれはファンタジーだ。だけどそれは近づいてくる。
群衆の中にいても頭一つ抜け出している。
今日も粋なスーツをびしっと着こなして……
ネクタイには俺が売りつけたピンホールシャツの襟元を止める純金のカラーバー。