「ぬぅぅううう。ま~た髪の毛に消しゴムのカスとかプラスチックとか柿ピーのピーが入ってるっ! なによ? 私はゴミ箱? 男は寄ってこないのに……はっ!?」
そう言ったっきり、マリアは借りてきた猫みたく後部座席で緊張している。それはそうだ。酔いが少し冷めたら米国人が運転している自動車の中だったのだから。
「……えーと。デ・デイビスさん? どうもお手数おかけしまして」
「なぁに。びっくりして酔いが急に回ったんだろ」
「はい……チャイナタウンはやっぱりエキサイティングでした」
「おいおい、人聞きの悪い。その大男ってそりゃ、酔っ払った観光客だろ? 新宿や池袋と違って中華街は草食系男子ばかりなんだから。因みに俺はイメージアップ促進委員会のメンバーでもあるから以後よろしくっ! タウン誌の会社だって?」
「はいっ! まだなにやるか全然判らないですけど」
きらきらと目を輝かせているマリアのおっぱいを同じくキラキラした瞳の
道は山手特有の微妙なアップダウンを繰り返し、お洒落な家々がちぐはぐに斜めに入り組んでいる。空が狭く感じるが、それは貧乏人のひがみだろう。
「マリアちゃんここって相当、家賃高いんじゃないの?」
「う~ん、5万ちょっとかな」
「高っ!!!」
「高くないわよ。格安よ格安! 掘り出し物。築年数は相当、古いけどね」
バラックなら半年暮らせる。とは言え、近頃の豪遊散財と過去の暮らしの金銭感覚が入り交じり俺は不思議な想いに包まれる。借家であっても自分だけの住処。毎月の収入から家賃、光熱費、食費を捻出し、残った金で趣味の……つまんねぇ!
「ありがとうございます。このアパートです。あんっ! こら!
白いアパートは静かでとても綺麗だった。
「すんごい綺麗じゃん」
「外観はね。でも中はボロボロなの」
マリアは照れ臭そうに腰のある黒髪を揺らし笑う。何度も手を振り、酔っ払ってるのでお婆さんみたいな足取りで二階に上がっていく。
ブロロロロロローー♪
「あんっ! の声で興奮してんじゃねぇぞ、ヒロユキ」
「そうだぞヒロユキっ! 興奮してんじゃねーぞっ!」
「いや……デイビスはいいけど、
「しょっぱいこと言ってんじゃねぇぜ、ヒロユキっ! でれでれしやがって」
「そうだヒロユキっ! ウチの教育方針に文句言ってんじゃねぇ。ウチは映画を一杯見せて子供の情操教育それ一本槍だ。奥さんの方針だから逆らえねえ」
相変わらずぶっ飛んだ親子だ……
もう夜の9時を過ぎていたが帰り際、寄り道をしてもらった。
俺はそこで手を合わせる。デイビスは車内の
近くに中学校がある。その校舎の角っこが冬の木々の隙間から垣間見えた。
「なぁ、デイビス。あんたなんでチャイナタウンに住むと決めたんだ?」
「さぁな。もともと日本が好きなんだよ。清潔で安全で水が綺麗でな。だけど生きるにはちょっとばかり綺麗すぎた。神戸でも呉でもなんか弾かれちまった。
「奥さんに会ってみてぇ~」
「
カシャン。