「いいかいマリアちゃん。どんな笑顔をしようと信頼に足る人物に思えても、盗っ人は泥棒の始まりでチンピラヤクザはチ※カスヤクザ。マフィアなんてのも所詮、マフィアでしかない。泣かされる人がその影に必ずある。だから…………」
脳に容量以上の漢字が詰め込まれたせいなのか、マリアの理解力はゆっくりで、
「青い目のアウトローってかっこいい要素しかないんですけど……」
いやだから、そう言う次元の話じゃないんだって!
ルビー&サファイアに拍手され、高校生が照れ臭そうにはにかみ頭を掻いている。
恋人同士ってのはどうしていつもこうなのだろう。自分達だけ楽しめばいいのに、ボートに乗って池の
健全な高校生に拍手を送るのは悪いことではないけれど……お互いに見つめ合うのが照れ臭いのか? なぜ外界に興味の対象を求めて関係ない人を巻き込みたがる?
恋人が居たためしがないのでよくわからない。
「そっか、そんな危ない人なんだ……って、このまえ親切にされたから格好いいなとちょっと思っただけよ。それにしても恋人、超絶綺麗よね。中国の人かなやっぱり」
「さぁ? あの姐さんは自分のことはあまり話さないから……生まれは中国だけど、子供の頃からここで暮らしてはいるみたいだ」
「どうせ生まれるならあんな風に生まれたかった。足、綺麗だなぁ。あの人が蝶なら私は蛾。白鳥とガチョウ。キリンとシマウマ。調子にのって最近テンションあがってただけなのよね……私って。
マリアは少々悲観的。少し酔っ払っているのもあるのだろう。そんなことはない、君は十分魅力的さ。その証拠にさっきから
「はっ!!!!! ………………
マリアに頭を叩かれた
「マリア! それを言っちゃあ、おしまいよ。どうせおいらはマフィアな兄貴~♪ わかあっちゃいるんだ妹よ。いつかお前が喜ぶようなぁ偉いマフィアに~~♪」
歌いだす。でも中国語なのでなに言ってるのかわからない。やれやれ。
まさに飲んべえの巣窟。それとこんな恋愛ワゴン的はノリはどうにも苦手だ。
俺は、遠く窓の外、ヤン・クイに焦点を当てる。カシャ!
複雑な想いだ。恋人にあんな仕事をさせておいて、自分は働きもせずふらつくのも癪に障ったが、マフィアの正式メンバーになるのはもっと最悪。そもそもひも野郎はマフィアとは地縁も血縁もない。たまたま俺たちの知らないところで抗争が激化し、人手不足で組み込まれたに過ぎない。そんなのは使い捨てられるだけ。
本人は働きだしたつもりか? マフィアと娼婦で似合いだと収まったつもりか?
嫌味のひとつでも言ってやろうと俺は立ち上がる。そのまま店の玄関まで歩いた。
だが、そこから一歩も動けない。まただ……
別にひも野郎に怖じ気づいたのではない。最近こんなことが頻繁にある。散歩していても、自動販売機にジュースを買いに行くときも……最短距離を選ばずに、奇妙な回り道をする。まるでその先に、厄災が待ち受けていることを事前に知っているかのように。余り意識はしていなかったが極端な場合こうやって足が動かない……完全に俺はいかれちまってる。
そうしてる間に、ルビー&サファイアは高校生に手を振りながら行ってしまった。
仕方なし席に戻った。2人の酔っぱらいは俺の不可解な行動を気にもしていない。
「