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第43話 ルビー&サファイア物語②

「いいかいマリアちゃん。どんな笑顔をしようと信頼に足る人物に思えても、盗っ人は泥棒の始まりでチンピラヤクザはチ※カスヤクザ。マフィアなんてのも所詮、マフィアでしかない。泣かされる人がその影に必ずある。だから…………」

 脳に容量以上の漢字が詰め込まれたせいなのか、マリアの理解力はゆっくりで、


「青い目のアウトローってかっこいい要素しかないんですけど……」

 いやだから、そう言う次元の話じゃないんだって!




 ルビー&サファイアに拍手され、高校生が照れ臭そうにはにかみ頭を掻いている。

 恋人同士ってのはどうしていつもこうなのだろう。自分達だけ楽しめばいいのに、ボートに乗って池の水鳥みずとりには餌を、大道芸人には小銭を投げる。意味もなく子犬に近づく。

 健全な高校生に拍手を送るのは悪いことではないけれど……お互いに見つめ合うのが照れ臭いのか? なぜ外界に興味の対象を求めて関係ない人を巻き込みたがる? 

 恋人が居たためしがないのでよくわからない。


「そっか、そんな危ない人なんだ……って、このまえ親切にされたから格好いいなとちょっと思っただけよ。それにしても恋人、超絶綺麗よね。中国の人かなやっぱり」


「さぁ? あの姐さんは自分のことはあまり話さないから……生まれは中国だけど、子供の頃からここで暮らしてはいるみたいだ」


「どうせ生まれるならあんな風に生まれたかった。足、綺麗だなぁ。あの人が蝶なら私は蛾。白鳥とガチョウ。キリンとシマウマ。調子にのって最近テンションあがってただけなのよね……私って。ジャンさんにも口説かれて人生初のモテ期到来かと……」

 マリアは少々悲観的。少し酔っ払っているのもあるのだろう。そんなことはない、君は十分魅力的さ。その証拠にさっきから雪香シュエシャンの孫が料理を作りながらチラチラと見ている。入ってきた男性客も君に振り返った。



「はっ!!!!! ………………ジャンさん! あなた子供が生まれるんだってね! よくよく考えたら、どういうつもりで人にプロポーズしてくれてんのよっ!」


 マリアに頭を叩かれたジャンさんは、


「マリア! それを言っちゃあ、おしまいよ。どうせおいらはマフィアな兄貴~♪ わかあっちゃいるんだ妹よ。いつかお前が喜ぶようなぁ偉いマフィアに~~♪」


 歌いだす。でも中国語なのでなに言ってるのかわからない。やれやれ。



 まさに飲んべえの巣窟。それとこんな恋愛ワゴン的はノリはどうにも苦手だ。

 俺は、遠く窓の外、ヤン・クイに焦点を当てる。カシャ!

 複雑な想いだ。恋人にあんな仕事をさせておいて、自分は働きもせずふらつくのも癪に障ったが、マフィアの正式メンバーになるのはもっと最悪。そもそもひも野郎はマフィアとは地縁も血縁もない。たまたま俺たちの知らないところで抗争が激化し、人手不足で組み込まれたに過ぎない。そんなのは使い捨てられるだけ。

 本人は働きだしたつもりか? マフィアと娼婦で似合いだと収まったつもりか?


 嫌味のひとつでも言ってやろうと俺は立ち上がる。そのまま店の玄関まで歩いた。

 だが、そこから一歩も動けない。まただ……


 別にひも野郎に怖じ気づいたのではない。最近こんなことが頻繁にある。散歩していても、自動販売機にジュースを買いに行くときも……最短距離を選ばずに、奇妙な回り道をする。まるでその先に、厄災が待ち受けていることを事前に知っているかのように。余り意識はしていなかったが極端な場合こうやって足が動かない……完全に俺はいかれちまってる。


 そうしてる間に、ルビー&サファイアは高校生に手を振りながら行ってしまった。


 仕方なし席に戻った。2人の酔っぱらいは俺の不可解な行動を気にもしていない。





雪香シュエシャン! なんでもいい。強い酒ちょうだいっ!」















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