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第35話 ミッション・イブ・ポッシブル④


 青木の押し殺した声だけがする。


「おまえら大学生だろうが! こりゃなんだ? どうすりゃなんか盗めるんだ?」

「わかりませんよそんなの。もともとスパコンにUSBなんか差し込む場所があるのかどうか……コントロール室とか事務所とか」カシスボーイが怯えている。


「事務所? 見渡す限りなんもないぞ。おしっ、ともかく内部の人間をふん縛って、なんでもいい吐かせろっ! イモを引くなよ? 姿を見たらすぐ飛びかかれ」


 そうなのだ。

 ここにはサーバとモノレールの茂みしかない、巨大な一続きの空間なのだろう。

 このビルのエレベーターの系統は二つあり、一つは先程の廊下に面したもの。もう一つは奥の方に確認できる。どうやらエレベータを上下させメンテナンスをする仕組みのようで、だからこの部屋にはそれ以外のなにもない。


 どうしてそんなことが俺にわかる? 薄暗い部屋には鉛色の大気が絶えず対流している。サーバの熱を発散するそれは清潔で乾いているはずだ。居住する場所があるとしてもそれはビル内の別のフロアだろう。難しいことはわからずとも、それくらいのことなら俺にもわかる。……っと、俺は、俺自身を納得させる。


 だがこの風景の記憶をどう説明する?

 目の奥がゴロゴロとする、義眼の違和感どころの騒ぎじゃない。


 既視感デジャブ未視感ジャメブなんてロマンチックな話でもない。

 記憶の欠損なのか? 

 それとも誰かに書き換えられた? 

 もしかすれば、俺自身が俺自身の脳をねじ曲げたのか?







 スウゥーーーーイィィィン。






 だがそこで思考が止まった。奥のエレベーターが動いている。誰か来るっ!

 皆が一斉にサーバの陰に隠れた。チンッ。小さな金属音の後、扉が開く。


 男が一人降り立った。中肉中背で目つきの鋭いパンチパーマの男だ。

 もはや抜き差しならない状況になった。

 俺は調子に乗っていた。

 危ない仕事はヤクザに。

 ややこしい仕事は窟に。

 偉そうに指示を出すキーパーのように、

 自分はなにもせず融通するだけで、誰かに全てをやらせようとした。




 不意打ちでカシスボーイが男に飛びかかる。

 体格差は歴然で直ぐに押さえ込めると誰もが予想した。

 しかし、男が頭に軽く手をのせただけで、その動きは止まる。

 男が宙に浮いている。そしてカシスボーイの顔面にひざ蹴りがめり込んでいた。


 がはっ! ……カシスボーイが崩れ落ちる。



「なんだおまえら?」

 隠れていても仕方がない。残り5人、一斉に飛び出した。青木が腰に手を回す。

 まさに、一対五の不平等かつ卑怯な戦闘が始まろうとしている。



 ………………だけれども、重要なことは他にある。俺はきつく目をつぶる。


 …………天使が落ちてくる。多分、今いる場所から南西に10メートル。


 ……今一番重要なのはそれ。目を開ければ風水磁石が目に入った。



 俺はその場から離脱した。

 動き出したその先、頭上に一本筋を引く陰がおぼろげに見えた。

 俺はしゃにむにそれを両腕で受け止める。どんっと骨にまで響く衝撃が走った。



「天使……いや、妖精?」それは小学4年生ほどの女の子だった。






















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