青木の押し殺した声だけがする。
「おまえら大学生だろうが! こりゃなんだ? どうすりゃなんか盗めるんだ?」
「わかりませんよそんなの。もともとスパコンにUSBなんか差し込む場所があるのかどうか……コントロール室とか事務所とか」カシスボーイが怯えている。
「事務所? 見渡す限りなんもないぞ。おしっ、ともかく内部の人間をふん縛って、なんでもいい吐かせろっ! イモを引くなよ? 姿を見たらすぐ飛びかかれ」
そうなのだ。
ここにはサーバとモノレールの茂みしかない、巨大な一続きの空間なのだろう。
このビルのエレベーターの系統は二つあり、一つは先程の廊下に面したもの。もう一つは奥の方に確認できる。どうやらエレベータを上下させメンテナンスをする仕組みのようで、だからこの部屋にはそれ以外のなにもない。
どうしてそんなことが俺にわかる? 薄暗い部屋には鉛色の大気が絶えず対流している。サーバの熱を発散するそれは清潔で乾いているはずだ。居住する場所があるとしてもそれはビル内の別のフロアだろう。難しいことはわからずとも、それくらいのことなら俺にもわかる。……っと、俺は、俺自身を納得させる。
だがこの風景の記憶をどう説明する?
目の奥がゴロゴロとする、義眼の違和感どころの騒ぎじゃない。
記憶の欠損なのか?
それとも誰かに書き換えられた?
もしかすれば、俺自身が俺自身の脳をねじ曲げたのか?
スウゥーーーーイィィィン。
だがそこで思考が止まった。奥のエレベーターが動いている。誰か来るっ!
皆が一斉にサーバの陰に隠れた。チンッ。小さな金属音の後、扉が開く。
男が一人降り立った。中肉中背で目つきの鋭いパンチパーマの男だ。
もはや抜き差しならない状況になった。
俺は調子に乗っていた。
危ない仕事はヤクザに。
ややこしい仕事は窟に。
偉そうに指示を出すキーパーのように、
自分はなにもせず融通するだけで、誰かに全てをやらせようとした。
不意打ちでカシスボーイが男に飛びかかる。
体格差は歴然で直ぐに押さえ込めると誰もが予想した。
しかし、男が頭に軽く手をのせただけで、その動きは止まる。
男が宙に浮いている。そしてカシスボーイの顔面に
がはっ! ……カシスボーイが崩れ落ちる。
「なんだおまえら?」
隠れていても仕方がない。残り5人、一斉に飛び出した。青木が腰に手を回す。
まさに、一対五の不平等かつ卑怯な戦闘が始まろうとしている。
………………だけれども、重要なことは他にある。俺はきつく目をつぶる。
…………天使が落ちてくる。多分、今いる場所から南西に10メートル。
……今一番重要なのはそれ。目を開ければ風水磁石が目に入った。
俺はその場から離脱した。
動き出したその先、頭上に一本筋を引く陰がおぼろげに見えた。
俺はしゃにむにそれを両腕で受け止める。どんっと骨にまで響く衝撃が走った。
「天使……いや、妖精?」それは小学4年生ほどの女の子だった。