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第32話 ミッション・イブ・ポッシブル①


【ハロー! ヒロユキ! ナビゲーション役の羅森ラシンだ。さて感度良好、聞こえてたらウインクを2回してくれ……おっと。サングラスしているからわからないな。まずはサングラスを外してくれ。目の前に大きな箱があってその上に小さな箱が乗っかってるだろ? そこに私からのクリスマスプレゼントがある】


 ……うわ。冗談キツイな。


【害虫駆除業者がサングラスかけてちゃ目立って覚えられる。片目ならなおさらだ、それをまず装着してくれ】


 カチャ。どうせならキャンディー貿易商会のガラス玉、買った方がましだった。

 ジャンさんどう? 親指グッドしてるから見た感じは違和感なさそうだ。う~ん目の奥がごろごろする。


【オールオーケー! では、ジャパニーズヤクザが害虫駆除業者の車を襲ってここに到着する前におさらいだ。今夜はクリスマスイブ。計画は今日しか成立しない。ビルの窓をイルミネーションにする必要からエレベーターとビル中核のロックが一部解除される。だが残念なことに直接エレベーターで目的の場所にはゆけない。変な位置に止まれば、警備員がすっ飛んでくるからな】


 のっけから車を襲撃って……なんでこんなことになったかな~。


【でも心配はご無用。そこは完全なるオフィスビルで飲食店もない。イブの夜、6時以降ほぼもぬけの殻だ。問題のfloorフロアにいるのも推定だが2人。君たちは一旦、30階にある社員食堂へ。そこから誰にも気づかれず、楽に下のfloorフロアに進入できる】


 ……相変わらず、フロアの発音、腹立つわぁ。


【ヒロユキ。今のうちに忠告しておく。世界中で非合法組織が表札を掲げて大っぴらに活動しているのは日本だけだ。腐ったこの国はカビの根のような癒着だらけ。だからジャパニーズヤクザを絶対に信用してはならない。失敗すればまず間違いなく君が切られる。君は例の組織の正体と、自分がなにをされたのか、拷問して聞き出すことだけに専念しろ】


 拷問って……窟も完全に安全圏だけどな。俺は誰のことも信用してねぇよ。


【それではミッション開始までクリスマスイブにぴったりのこの曲を……中〇美嘉さんで雪の〇、お聞きください】









 キキッィーー。乱暴に大型のバンが急停車し、助手席から青木が顔を出した。


「すまねぇ。寒空に路上で待たせちまったな。こいつがドジ践みやがって、パチンッ遅れちまった」

 青木が運転手のカシスボーイの頭を小突く。


「いや時間は問題ない。それよりトラブルって?」

「あー大丈夫だ。業者はふん縛って倉庫に監禁してある。約束通り綺麗な仕事さ」



【それではミッションスタート。全員、車に乗ってビルに向かってくれ】


 車に乗り込むと、残り3人のカシスボーイがうなだれている。……すまないな巻き込んじまって……だけど……


「なあ、青木さん。こいつらのどんな弱みを握っているのかは知らないが、こんだけのことをさせるんだ。仕事が終わったらこいつらを自由にしてやって貰えないか?」


「ん? 隙を見せたら含針ふくみばりで暗殺するような連中と平気で付き合ってる割りには、お優しいんだな」

「からかうなよ。口止めの意味もある……」

「あーなるへそ。おいおまえら喜べっ! クリスマスプレゼントだ。仕事が終わって一生涯、口を噤むなら自由にしてやる。その代わりヘタを打つんじゃねぇぞ」


 泥人形たちの顔に赤みが差したように見えた。一流大学に通っている学生なのだ、こいつ等には未来がある……だが、青木は信用できない。鉄玉がいる前でもう一度、念を押した方が良さそうだ。俺にはなんとなく状況がそう見える。



【さあ、地下の警備室から入場だ。肩を怪我した人間だけはエンジンかけたまま車で待機。残りは害虫駆除の道具と私が用意した箱を台車に載せてできるだけ愛想良く。首から提げた写真付きカードを警備員に提示してスマイルだ。スマ~イルっ!】








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