「頼ってくれて嬉しいよ、ヒロユキ。仲間ってのはギブ&テイクだ」
鉄玉は相変わらず、持って回った言い方をする。
「ハフッハフッハフッ」
「はふっぶずぅはふっはふっはふっ」
新宿の定食屋で4人の男達が焼きそばを食っている。俺には慣れ親しんだ店だが、
俺は俺で、灼熱のような憎悪の視線に今、晒されている。睨んでる男の名は青木。
この間、自己紹介の前に脳しんとうを起こした、あの男だ。
「イブに決行ってのがまた洒落てる。俺は車で待機するとして、実行役はこの青木に任せる。こないだは油断してヘタ打ったが、俺の手下じゃダントツで度胸が据わっている。なによりコンピュータにべらぼうに詳しいんだ」
鉄玉は、俺を
上機嫌でシャンパンを飲んでいる。
「金になりそうなものは勝手にしていいんだな? 情報も?」
青木は焼きそばをこぼしながら、まだ殺しそうな目で俺を睨んでいる。
「ああ、好きにしてくれて構わない。俺には俺の目的がある……」
※
最後はシャンパンの乾杯で別れた。
新宿から横浜までの電車の中、車窓に映る自分を見ながら、なんでこんな大それた話になったかな~と首を傾げる。なんだろうこの流されちゃった感。
隣の座席では酒には強いはずの
俺は片目をつぶり暗闇を作る。暗闇の中で状況をリフレインする。
フランス語ではルフラン。中国語では
あのとき、カフェで
「窟は強い者に対しても、
「とは言え感謝している。実際、今はどこも懐が苦しい。具体的な案件を向こうから与えられてこちらは情報を集めるだけの状態は理想的だ。できれば維持したい。さらに金になるネタがあるなら尚、素晴らしい」
「心配するな。見くびっていたがどうやらこの男は本当に窃盗のプロのようだ。持ち込まれた計画を検証してみたが本当によくできている。無論、ビルの外から、我々もバックアップする。ヒロユキはこのまま放っておけるのか? 相手が医者ならなにをされたか余計に気になるだろう?」
確かに自分の将来行動が予見できないこんな状況は正直おそろしい。なんとかなるならその方がいい。だけど、そんな危ない橋を渡る必要がはたしてあるのか?
どうやら二人の間ではもう話が出来上がっているようだ。それにしても
「……ヒロユキ。おまえがどう考えているのか知らないが俺は盗みのプロだ。信頼して欲しい。もうラシンから金を受け取っている。仕事ができないと困る」
……っとまあ、そんな風に話が纏まったわけだが、どうも目の奥がうずく。
ビルへの進入。これほど大それた犯罪をすることが、なし崩しに決まった。
なにか物事の本質を見逃しているような気がする。もう一度、目をつぶる。
「…………………金か?…………………………………………………………………
「…………………」
いや、声が小さくて聞き取れない。つか日本語しゃべれ!
「らしくないぞ、
「……………………………妊……………………………………娠……………………………………………………責任…………………………Baby……………………………………………………………………………………」
「んんんん? なんだ? なに言ってんだ?」
俺はきつく目をつぶる。目の奥でマジシャンがカードを広げるように切り取られた映像を早送りする。もうこうなったらセルフ・強制・フラッシュバックだ!
探し出す。その中から物事の本質を見つけ出す。隠された秘密を暴き出す。
「……………………ぱふぱふ屋のおばちゃん……か? 妊娠させたのか?」
「男は責任を取らなくてはならない。父としての役目を果たさねばならない」
大問題だなっ! この野郎っ!