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第30話 中華なクリスマス④

  【訃報】 

  『坂宮庄一』 医療系コンサルティング会社トマツ(株)CEO。

  医学博士。弁護士。明和流通大学理事。法白同友会北九州支部会長。

  2018年 10月5日 死去。急性心不全。享年57歳。



 新聞記事がマジックで囲われてある。……男の経歴はこの際どうだっていい。

 中華街で石を投げれば占い師と絵描きに当たる。実際投げたら本当に当たった。

 俺はこの街一番の似顔絵描きに記憶の中を描かせた。それそっくりそこにある。



 死んだ? 死んでる? 嘘だろ?


「新聞のデジタルデータと似顔絵のデータが一致した。偶然に等しい。最新アプリも馬鹿にしたものじゃない。間違いないか? 聞いた限りでは間違いなさそうだが」


 なにこれ? 3ヶ月前に会ったばかりだぜ? 直後に死んでるってこと?


「医学部在学中に司法試験に合格している。珍しいが、ダブルライセンスの持ち主のようだ。しかし本業はシンクタンク機能を持つ会社経営だろう。なるほどこれだけの人物に呼び出されたとなれば先ほどの話は信憑性がある。だが調べても非合法組織との接点はでてこなかった」


 耳の穴におがくずが詰まったかのように遠い声。もうどうでもよくなった。

 手がかりなしならまだよかった。死んでしまったなら希望そのものがない。


 買ったばかりのサングラスを空に放り投げたくなった。

 だがなんとか気持ちを押し留める。耳からおがくずがとれたように店内のざわめきが蘇った。女子高生が調子のよい男にナンパされ、きゃっきゃとはしゃいでいる。

 そうだ。小綺麗な店で楽しく飲んで食って笑ってれば、それなりに楽しい人生だ。

 金ならある。なくなれば、退屈に窟と新宿を往復すればいい。


「不思議なのは、ビルの一つ階を分割してサーバを並べているところだけではない。その場所に出勤したであろう人間は平均して5日間ビルから出ない。つまりそこには宿泊施設が有り、何人か、終日で寝泊まりしていると言うことだ」


 どうやらナンパは成功したみたいだ。よかったね……


「どう考えてもかなり特殊な組織だ。その男の経歴から推測するに、臓器売買や医療関係の大規模なマネーロンダリング……と、どれも憶測にしかすぎないが……」


 片目では遠近感が狂い、全力疾走はできないが、それでも世界は色に溢れている。遠くの暗闇で針が落ちるような罪悪感を飲み込んでしまえば、以前の人生より遙かにましな生活じゃないか。再び発狂して残りの片目を潰すことさえしなければ……


「……聞いているのか? ヒロユキ。恩を着せているワケではないが、先日の一件も料金を取ろうとは思わない。今回もそうだ。ただし、窟のメンバーは実力行使には参加できない。その上で情報が金になるなら、独断で協力したいと思っている」


 ―――― うっせぇなっ! さっきから。どうにかこうにか気持ちをやり過ごして誤魔化そうとしてるのに! 実力行使? なに言ってんだ、このインド人 ――――



「組織が入っている floorフロアへの直接侵入しか方法はない。そうしなければヒロユキがなにをされたのかもわからない。我々にも利益は生まれない。運の良いことに警戒が厳重なビルへのアプローチは可能だ。窃盗のプロフェッショナルが計画を立てた」



 ―――― なんだって? 盗みのプロ!!! ってなるか馬鹿っ! なんで流暢な日本語なのに floorフロアの発音だけ本格的なんだ。あ~疲れた。早く帰ってハンモックで眠りたい。プロフェッショナルってのはあれか? あそこでアルヨアルヨ言いながら女子高生のケツ追っかけ回してるナンパ男のことじゃねぇだろうな!? ――――












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