「じゃあ、二千円のお返し。護身用に警棒とかスタンガンはいらないか?」
「そんなの買うくらいならガラスのめん玉しゃぶってるほうがましだよ」
鏡に映る自分を覗き込む。高い買い物だったが、予想外に似合ってる。
「ヒロユキ、クリスマスの予定は?」
「さあね。
「一緒に過ごす恋人もいないのか?」
「そっちはイブから早じまいだろ?」
デイビスは二度目の結婚で、40歳を超えているが子供はまだ幼稚園だ。日本人の奥さんと本場のクリスマスを正式に祝うだろう。本来、クリスマスってのはそういうもんだ。
「ケニアの
クッソ! 質問に質問返しで誤魔化したのに、追い打ちをかけてきやがった!
店を出れば、雑踏の街に定番のクリスマスソングが流れている。
――いつか経験したような、経験したのに忘れてるような、それでいて未知のような――そんな気分になる。この街はいつだってそんな気持ちにさせる。
けれどキャンディー貿易商会のデイビスなど古株は、昔はもっと情緒があったと、ことあるごとに嘆く……ここ10年ほどで、中華街は随分と様変わりしたようだ。
メイン通りの老舗料理屋が潰れ、素通りするだけの観光客向けに肉まんなどを売る店が増えた。
そしてバスで乗り付ける中国人の団体が多くなり、日本なのに中国本土から観光に来た客を、同じく本土から働きにきた中国人が相手をする奇妙な現状となっている。
だが店の代替わりには億の資金が必要だ。しかし不思議なことに、それがどこから湧いてくるのかはまったくの謎。老華僑さえ首を捻る……捻りながらなんとか知恵を絞って生き残るために頑張っている。裏の世界よりもずっと早く、新華僑と老華僑の対峙はとっくの昔にダイナミックなうねりとなっていたのである。
俺はでも、それもひとつの過渡期に過ぎない、とそう無責任に考える。
この街ほど時代の波に翻弄された舞台もない。
中華街は関東大震災、横浜大空襲で二度も
本国の政変で骨肉相食み、華僑同士が真っ二つに割れ、内紛が起こった。
カオスこそが日常で、だからこそ魅力がある……やっぱり無責任か?
デイビスのように長く住んできた人間には不満でも、時間は後戻りできない。
どうあれこうあれ象徴である
そしていろんな場所で弾かれた俺を唯一、受け入れてくれたのがこの街なんだ。
メリーと告げる相手はいなくともクリスマスはクリスマス。
チャイナタウンはチャイナタウン。俺の居場所なのさ。
んなこと考えながら足は自然とスキップを践む。
そう! クリスマスプレゼントはひとつじゃない!